全国130書店を巡ったふわはねさんが痛感した「本屋さんはずっとそこにあるとは限らない」

ふわはね
2024.06.19 09:58 2024.06.17 11:40
ふわはね『えほんとりっぷ』より
『えほんとりっぷ 全国絵本屋さんめぐり130軒』より
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ネットで手軽に本が購入できるようになった近年。
絵本を買うためにわざわざ書店に足を運ぶママ・パパは、かつてより減ってきているかもしれません。

そんな中、絵本講師のふわはねさんによる著書、『えほんとりっぷ 全国絵本屋さんめぐり130軒』(世界文化社)が人気を集めています。

本の中でふわはねさんは、自ら足を運んだ全国130店舗の絵本専門店などを紹介。「旅の目的地を本屋にする」という新しい楽しみ方に共感が広がり、発売後たちまち重版が決まるほどの反響を呼んでいます。

オンラインで本が簡単に手に入る時代に、あえて「本屋さんで絵本を買う事」の魅力とは? ふわはねさんにお話をうかがいました。

130店の中で特に印象に残っているのは…

――『えほんとりっぷ 全国絵本屋さんめぐり130軒』を拝読したのですが、行ってみたいお店ばかりで。読んでいて旅行したい気持ちが膨らみました!

旅の目的が本屋さんって、とても素敵ですよね。私は子どもたちがもう大きいので、一人で本屋さんに立ち寄ったついでに、近辺のカフェや温泉を楽しんだりと、身軽に巡り歩きました。

――たくさんの本屋さんに足を運ばれた中で、特に印象に残っている場所があればお聞きしたいです。


どこも魅力的なので迷うのですが、印象に残っているのは東京荒川区の「パン屋の本屋」というお店です。

私にとって、本屋さんとパン屋さんは見かけたら立ち寄りたくなる場所なのですが、「パン屋の本屋」さんは、その名の通り本屋さんとパン屋さんが中庭を囲む形で同じ敷地内にあるんです。

パンを買いに来た家族がそのまま本屋さんに立ち寄ったり、中庭でくつろいいだり……パン屋さんでは、絵本とコラボしたパンなども販売されていて、地域の憩いの場になっている素敵な空間でした。

パン屋の本屋
パン屋の本屋 『えほんとりっぷ 全国絵本屋さんめぐり130軒』より

また、高知県の「書林くものうえ」という無人の古本屋さんも面白かったです。店内に古本とカプセルトイの機械が置かれていて、気に入った本の値段分をカプセルトイの機械に入れてお金を払うシステムになっているんです。新聞紙で作ったかわいい紙袋に入れて持ち帰れるなど、斬新なアイデアが光る店でした。

書林くものうえ
書林くものうえ 『えほんとりっぷ 全国絵本屋さんめぐり130軒』より
書林くものうえ
支払いはカプセルトイの機械で 『えほんとりっぷ 全国絵本屋さんめぐり130軒』より

本屋さんではないのですが、同じく高知県の「雲の上の図書館」も素晴らしかったです。隈研吾さんが設計をした図書館なのですが、ペタペタと裸足で歩ける木の空間が心地よくて。館内には、町内で活動している障害支援グループの皆さんが運営するカフェがあって、手作りのケーキが食べらます。本だけでなくボードゲームが置いてあったりと、色々な楽しみ方ができる図書館でした。

雲の上の図書館
雲の上の図書館 『えほんとりっぷ 全国絵本屋さんめぐり130軒』より

他にも素敵な場所は選べないほどたくさんあって……。『えほんとりっぷ』に載っている本屋さんは、すべて同じ熱量で語れると思います。

もし本屋さんを作るなら、人が集う空間にしたい

ふわはね 絵本のアトリエ
ふわはねさんの自宅兼アトリエ Ⓒ絵本のアトリエ

――現在ご自宅を「絵本のアトリエ」として開放されていると思うのですが、それとは別に、これからご自分で本屋さんをつくるとしたらどんなお店にしたいですか?

私は”絵本のつなぎて”として、本を作る人と読む人、親と子、本が好きな人同士が繋がることを目指して活動しているので、人が集う空間としての本屋さんがいいなと思っています。

本屋さんに足を運ぶ人が、必ずしも毎回本を買うわけではないと思うんです。なので、本だけでなく一緒にコーヒーやパンが買えるようにしたりと、散歩の終着点になれる場所になったらいいなと。立ち寄ったお客さんに、「こんにちは」「今日もお疲れ様」と声を掛け合える空間が理想です。

お客さんのそれぞれの「好き」が集まる場所にしたいとも思います。例えば、「公園に行く」という話になったら、草花あそびの本を紹介したり……。地域のコミュニケーションの場にたまたま本がある、といった雰囲気の場所になったらいいなと考えています。

人と本との出会いには、それぞれの物語がある

――『えほんとりっぷ』を読んだ人、これから手に取ろうと思っている人へメッセージをおねがいします。

今はネットでポチッと注文すれば、翌日にピカピカの本が届く時代です。
でも私は本を手に取ると、その本をどこで買ったか、そのお店のどこに置いてあったか、店主さんと何を話したかなどを思い出すんです。本って家に来るまでに、もう物語が始まっていると思うんですね。
なので皆さまも、ぜひ『えほんとりっぷ』と一緒に、その物語を作ってほしいと思います。

残念ながら、この本を作る過程で、閉店などにより掲載できなくなった本屋さんが3店舗あります。本屋さんはずっとそこにあるとは限らないのだという、厳しい現実が見えてきました。
だからこそ、私は本屋さんで本を買ってほしいと強く思うのです。応援する、と言ったらおこがましいですが、この本が本屋さんに足を運ぶきっかけになったら嬉しいです。

なかなか本屋さんへ行けない人でも、この本を見て「いつか行ってみたいな」とわくわくしてもらえたら嬉しいです。目標ができると楽しみが増え、元気になれると思うので。

この本にはコロナ禍以降にできた新しい本屋さんも掲載されています。長年続く老舗から新しいお店まで、さまざまな本屋さんを楽しんでいただければと思います。

(取材・文/nobico編集部)

ふわはね(内田祐子)

ふわはね(内田祐子)

絵本講師・JPIC 読書アドバイザー・子育てアドバイザー。「絵本のつなぎて」として絵本の作り手と読み手、人と人、親子の時間をつなぐ。大学で児童文学を学び、2005年絵本講師1期生として絵本講師資格取得。関西を中心に幼児教育に携わる先生への研修、記事の執筆などを行っている。2021年、自宅にて「絵本のアトリエ」をオープン。

Instagram:@fuwahane

えほんとりっぷ

えほんとりっぷ 全国絵本屋さんめぐり130軒 (ふわはね著、世界文化社)

絵本のつなぎて・ふわはね(内田祐子)が、一年半かけて足を運んだ、全国の絵本屋さんとその周辺情報を紹介する初の著書。 全国の絵本専門店、書店、絵本美術館、絵本カフェ、図書館、おもちゃ屋さんなど130軒と、旅の途中ぶらり散歩で訪れた施設30軒を紹介。 絵本のある生活を語るコラムも充実。 人気イラストレーター・絵本作家の布川愛子さんのイラストで楽しめる、旅のお供にぴったりの一冊。