3歳の子の「自律性を育てるチャンス」を潰す親の叱り方
自分の意志を強く持って、自分考えて、行動する。そんな「自律性」を育むために、親は子どもとどう接するべきなのでしょうか? 公認心理師として多くの親に子育てをアドバイスする山下エミリさんの著書より、その後の自律性に大きく影響する3歳までの子との接し方について触れた一説を紹介します。
※本記事は山下エミリ著『子どもの一生を決める「心」の育て方』(青春出版社)より一部抜粋・編集したものです。
3歳までの子が自律性を身につけるプロセス
1歳半から3歳くらいになると、「自分でやりたい!」「お手伝いしたい!」「お母さんのために何かしたい」という自分でやりたい気持ちが出てきます。これが「自律性」です。
この時期の子どもは、言語能力が一気に向上し、言葉を使った会話などのやりとりが増えてきます。
子どもにも自我が芽生えてくるので、何でも「自分でやる!」と主張して、実際にそのように行動するようになります。お母さんやお父さんから子どもへ一方的なやりとりが多かった乳児期と違って、親と子の双方向のやりとりが増えてきます。
その中でお母さんの言うことに耳を貸さなくなったり、口答えしたりすることも出てくるでしょう。
親子の双方向のやりとりを成長と捉えて楽しむことができるお母さんがいる一方で、子どもの口答えにとまどったり、イライラしてしまうお母さんもいるかもしれません。
この時期は、ちょうど「イヤイヤ期」と重なります。
お母さんはちょっと大変な時期ですが、このときに「イヤイヤ言ってないで、言うことを聞きなさい!」「そんなにイヤなら、やらなくていい!」などと言ってしまうと、自律性を身につける機会をみすみす失ってしまいます。
この時期の子どもは、「自分でやりたい」と思っても、上手にできずに失敗することも多いでしょう。そのときに親から怒られたり、失敗を指摘されたりしてしまうと、「自分でやりたい」という気持ちはしぼみ、自信を失ってしまうこともあります。
「自分でやりたい」というポジティブな力と、うまくいかなくて「失敗するかもしれない」というネガティブな力がせめぎ合い、葛藤しながら成功した体験を積み重ねていくことで「自律性」が身についていきます。
子どもの「自分でやりたい」気持ちを大事に受け止め、促していくことで、子どもは結果として意欲的に生きていく力である「意志」を獲得できます。「意志」は、次のステップの「積極性」にもつながり、自分で考えて行動ができる子の基礎になるのです。
そして、これがさらに次の学童期の、自分から勉強する子になり、「自分ってできるんだ(有能感)」にもつながります。ですから、年齢ごとの課題をしっかり獲得していくことが大事なことがわかりますね。
親に怒られた子の心の中
ここで、ひとつのストーリーを紹介しましょう。
子どもが外で花を摘み、「お母さんにあげよう」と思って家に持って帰ってきました。自分の力で花を花瓶に入れ、「お母さーん」と喜んで渡そうとしたそのとき……。ガチャン!花瓶を落として割ってしまいました。
お母さんは「何やってるの!」と怖い顔で子どもを怒ります。さて、このお母さんは子どもが「大事な花瓶を割った!」という状況から怒ったのでしょうか? ここに怒りに関する大事なポイントがあります。
1 お母さんがその瞬間に感じるのは状況ではなく、お母さん自身の恐怖の感情です。
2 自分の恐怖をなんとかしようと子どもを怒るという攻撃反応が自動で起きます。
3 怒りが怒りを呼び子どものことなど考える余裕がなく、自分のことでいっぱいになってしまっています。
この状態では、お母さんのためにお花を摘んできたというお子さんの優しい気持ちにまで思いが至りませんね。お母さんの怒りの自動反応が起きなければ、事情を聞いてお母さんも怒るのではなく、お子さんの気持ちにうれしくなったのではないでしょうか?
そして、いきなり怒られた子どもの心の中はどんな状態でしょうか……想像してみてください。お母さんにあげようと思ったお花を落としてしまってショックだったのに、お母さんにも怒られて、自分の感情はどこにも持っていけません。
3歳くらいまでの子どもは、まだ他者の視点が持てません。お母さんにお花を渡そうと思ったことを理解してもらえれば、わかってくれるかもしれない、なんて考えません。
だから、ただ「お母さんに怒られたから悲しい自分の気持ちを我慢する」ということが起きます。
こうやって、子どもの目で見たままのことが、頭の中に残るのです。とてもせつないですね。
お母さん自身の、この時期の課題を達成できていない未発達の心が、恐怖のスイッチを押してしまったのかもしれません。自分のことで精いっぱいで、お子さんのその背景まで想いを馳せることができなかったのかもしれません。
でも、こういうことが、お子さんの心の成長を未発達にしてしまうのです。これは、子どもの心の発達を知らないことによる連鎖の悲劇です。こうやって心の未発達の世代間伝達は行われていくのです。親も子も、誰も悪くないのです。
今は遺伝子にまで組み込まれていることがわかっているようです。どこかで止めなければいけません。どうか、あなたのところで止めてくださいね。
思春期までに自律性を育てるべき理由
自律性が育っていないと、どうなってしまうのでしょうか。
自律性が身についた子は「できる自分」として自信をつけていきますが、自律性が身につかないと、「できない自分」として自信を失っていきます。
たとえば、この時期の子どもは、ちょうどトイレトレーニングをしますよね。
トイレトレーニングは成功と失敗の繰り返しです。トイレできちんとおしっこやうんちができれば自信を持ち、失敗すれば恥ずかしさや自分に対する疑惑を抱きます。
成功体験だけでなく、同時に失敗体験も積み重ね、成功が失敗を上回ることでやがて自分の力でトイレで排はいせつ泄することができ、ちゃんとコントロールできる自分に自信ができて自律性が備わっていきます。
「ぼく(私)、もう自分でトイレできるよ!」という自信がつくのです。
一方で、トイレに失敗したときに、親にいつも怒られたり、おもらしを責められたりしたらどうでしょう。
自発的に行動しようという意欲や自信が持てなくなり「恥と疑惑」だけを感じるようになるのは当然のことではないでしょうか。トイレができたときはほめ、おもらしをしたときはスルーでOK。失敗したら汚れた衣類や下着を替えればいいだけ、恥ずかしいことじゃないよ、ということを淡々とした態度で示してあげてください。
「なんでおもらししたの!」なんて怒るのは無意味です。だって、出ちゃったんだから、仕方ないですよね(笑)。自律性が身につかない子は「意志」がなくなります。
意志がないから、親の言うことを聞きます。言うことをよく聞くいい子、育てやすい子、と親は思うかもしれません。でも、意志を持たない子どもは、言い換えれば、親のコントロール下に置かれる子どもでもあるのですよ。
そのまま思春期になると、今度は親に心を閉ざすようになり、不登校やひきこもりにつながることもあるのです。
体の発達と違って目に見えない「心の発達」がわかれば、子どもが見える。今話題の「自律する子」に変わる。
「子どもにいちいち怒らなくなった」「笑顔で登校(登園)するように!」「本音を話してくれるようになった」…と感謝の声、続々!公認心理師の著者が教える、何歳からでも間に合う!心理学的に正しい子育てメソッド。