かんしゃくの原因は「性格や発達障害」じゃない? 発達外来の医師が親に教える対処法

西村佑美

子どものかんしゃくは、本人の性格や発達の特性のせいにされがち。しかし、子どもの状態よくよく分析してみると、何かしらの対処法が見えてくることもあります。

親も子も大変な「かんしゃく」との上手な付き合い方を、発達専門小児科医の西村佑美先生の著書『発達特性に悩んだらはじめに読む本』よりご紹介します。


※本記事は、西村佑美著『発達特性に悩んだらはじめに読む本』(Gakken)より、一部を抜粋編集したものです。

かんしゃくが激しい子は「NO」を全力で主張できる感受性が豊かな子

かんしゃくが毎日あり、何十分、1時間と続くと、「うちの子って、普通じゃないの!?」と心配になるかもしれません。外出先で大泣きして抱っこができないほど暴れるかんしゃくは、周りからの視線も気になって心が削られるような思いですよね。私も子育てで同じ経験をしてきました。

発達を専門とする小児科医として伝えたいのは、「かんしゃく」は発達特性の有無に関わらず、どんな子にもある「不機嫌」や「不快」な気持ちの表現だということ。

わが家の3人の子どもたちも、乳幼児期にかんしゃくがありました。特に、長男も長女も保育園から帰宅後に連日泣き出す時期があって理由がわからずつらかった! イライラするママやパパの気持ちがよくわかります。3人目の次男で、ようやく「がんばったから疲れてるのね」「泣き顔もかわいい」と思えるようになりました。

人間はネガティブな感情を内側にためておけず、「声」や「動作」で表現することで発散させ、心を安定させています。かんしゃくは、泣いてひっくり返り、全身で「NO!」を主張しているともいえます。

また、慣れない場所に行く、知らない人に会う、保育園や幼稚園で親と離れる、普段の生活とは違う行事などで「不安」「緊張」から泣くことはどの子にもありますが、不安が大きくなることによる「パニック」は、感受性が豊かなASDタイプの子が起こしやすい傾向があります。ASDタイプのお子さんは視覚優位で周りを見て変化をキャッチできる長所がありますが、空気を読んで理解することが苦手なので「いつもと違うぞ。何が起こるんだろう?」と不安が大きくなりやすいのです。

子どものかんしゃくを減らす(防ぐ)ための”伝える力”の伸ばし方は、「悲しい」「怒ってる」「イライラする」「くやしい」「疲れた」「甘えたい」「怖い」「緊張する」など気持ちを表現する言葉、首を振る、押し返すなどの「NO!」を表現するジェスチャーを教えてあげること。そうすると、「かんしゃく」という形で自分の感情を爆発させることから成長して、感受性が豊かな長所は残しつつ、ネガティブな気持ちを「言葉」や「ジェスチャー」で表現して上手に発散できるようになっていきます。

かんしゃくを発達特性や性格のせいにしない! 原因を見つけて分析&対策すればいい

かんしゃくをよく起こすのは「発達特性があるから」「切り替えが下手だから」「怒りっぽい性格だから」など、本人の特性や性格のせいと捉えると、対策を考えられなくなり、泣いて暴れてネガティブな感情を発散という困った行動が続いてしまいます。

かんしゃくには、必ずきっかけや、同じ状況で繰り返す原因があるのです。

次に挙げるかんしゃくのよくある原因を参考にしつつ、「ABC分析」で対策を立てましょう。泣いてグズグズする時間が前より短くなったり、約束を守れたなど少しずつ改善へと向かっていくはずです!

・眠い、空腹、暑い、トイレに行きたい、疲れた、甘えたい→その欲求を満たす

子どもは大人のように眠いとかお腹が空いているから不機嫌になることに気づいていなかったりします! 「眠いの?」と聞くと「眠くない!!」と怒ることもありますよね。よく観察し、空腹なら食べる、眠いなら寝る、疲れたなら休む…と生理的欲求を先に満たすことをお忘れなく。

・言葉でうまく伝えられない→気持ちを代弁してあげる

・イメージ通りにできない→自分でやりやすいよう工夫

1歳半頃からは、物事を理解する認知能力が伸び、「自分でやりたい!」という意思が出てきます。でも、まだ言葉で自分の気持ちをうまく表現できず、手先が不器用でイメージ通りにできないから「できない!!」とくやし泣きをし、親が手伝うと「自分でやる!」とさらに怒るのです。この一連の流れを知ると少し余裕をもって見守れそうですよね! 子どもの気持ちを言葉にして教えたり、ひとりで取り組める工夫をしたりしてサポートを。

・急かされた、怒られた→笑顔で目を合わせ、してほしい行動を言う

「早く!」「ダメでしょ」「置いていくよ!」と否定や脅す言葉で子どもを怒ったときに、かんしゃくのスイッチが入ったことはありませんか? 人間は、急かされたり怒られたりすると「責められた!」と感じて怒りの火がつくもの。私も長男が幼児期のときは「早くして」という言葉をつい使ってしまっていたのですが、うまくいくはずもなく”マイ子育てNGワード”にしました。

指示を出すときは、子どもの視界に入って笑顔で目を合わせてから、「してほしい行動」を肯定的に言うと反応がよくなるので試してみてください。

・今、楽しんでいることをやめたくない→切り替えた後のメリットを伝える

「今、楽しんでいること」をガマンして別の行動に切り替えさせるときに、かんしゃくのスイッチが入ることも(空腹、眠気、疲れが重なっているとその場でひっくり返って泣くパターンに!)。

事前に「(時計を見せつつ)あと〇分したら帰って、アイスを食べよう」「お腹空いたね。ごはんを食べたら、パパとボールで遊ぼう」など、行動を変えた後のメリット(好きな物、楽しいこと)がわかる指示を出すことが、切り替えをスムーズにするコツです。

・やりたいことができない、欲しい物が手に入らない→事前にルールを伝える

「やりたい!」「欲しい!」「この動画見たい!」と望んでいたものが手に入らないことがわかると、泣いて親に要求することも。事前に「今日はオモチャを買わないよ」「時計の長い針が一番下にきたらおしまいだよ」と約束。子どもが泣いたら「欲しかったよね。でも約束だから」と気持ちには寄り添いつつ、親がリーダーシップを取って! かんしゃく行動に付き合わずその場から離れて約束を守らせ、「ガマンできたね」と認める声かけを粘り強く繰り返しましょう。

・楽しくない、待つのはつまらない→遊び方や楽しみ方を経験、待てたらほめる

「楽しくない」「つまらない」と思ったときに不機嫌になることも。でも、それは「遊び方」「楽しみ方」を知らないだけかもしれません。例えば、友だちとのルール遊びの楽しみ方がわからず不機嫌になるのなら、まず親子で追いかけっこなどルール遊びをして楽しむ経験を。また、待ち時間にできる遊び(手遊び、絵本、塗り絵、折り紙)をしたり、「待てたね」「待っていてくれて助かったよ」と肯定的な言葉をかけたりすることで、少しずつガマンして待てるようになります。

・不安、緊張→事前にイラスト、写真+文字を見せながらスケジュールを説明

慣れない場所、知らない人、病院の受診、乳幼児健診、保育園や幼稚園のいつもと違う雰囲気の行事などで、不安・緊張からかんしゃく、パニックが起きやすい場合は、事前に説明して予防することが第一。

言葉だけで説明するのではなく、視覚情報(写真、イラスト、動画、文字)を使い、どんな場所に行くのか、何をするのかを順番に伝えて最後はごほうびが待っている流れにし、ポジティブな見通しをもたせます。予防接種の注射はとてもがんばりがいることなので、特別にオモチャなどのスペシャルなごほうびにするのもアリだと思います。

発達特性に悩んだらはじめに読む本

発達特性に悩んだらはじめに読む本』(西村佑美著/Gakken)

一般の小児科での診察や発達専門外来で、のべ1万組以上の親子を診た臨床経験、特性のある子の子育ての実体験をもとにした、医師&ママ目線でのアドバイス、指導を強みとした、西村佑美医師初の著書!