最近よく聞く「非認知能力」って何? 注目が集まる“勉強だけでは身につかない力”
子どもの「非認知能力」はどうやって伸ばすべきなのか。その解説を、中山芳一先生の著書『マンガでやさしくわかる非認知能力の伸ばし方』よりご紹介します。
※本稿は、中山芳一著『マンガでやさしくわかる非認知能力の伸ばし方』(日本能率協会マネジメントセンター)から一部抜粋・編集したものです。
「非認知能力」とは
みなさんは、子どもの頃に、「勉強よりも大切なものがある」「生きていくために必要なことは勉強以外にもたくさんある」なんて言われたことはありませんか? ドラマやマンガでも、セリフとしてよく出てきそうですよね。
しかし、子どもにはやっぱり勉強は大切で、遅れてしまえばテストの点数が取れなくなり、先生の話していることもわからなくなってしまいます。
挙句の果てに、進学に影響を及ぼし、人生設計が変わってしまうことだってあります。
ですが、勉強ができれば、偏差値の高い高校や大学へ行けて、だれもがうらやむ会社や官公庁へ就職でき、定年退職まで安心・安全・安定な人生が待っているかもしれません。
これがいわゆる「学力偏重社会」ですね。
これは、必ずしも悪いことばかりではありません。
だれもがわかる点数で評価できるからこそ、努力して高得点を獲得した人がきちんと評価されるわけですから……。
その一方で「お受験ブーム」と呼ばれる学力の獲得にかなり偏りすぎた風潮まで起きてしまったことは、みなさんもよくご存じのとおりです。
さらに1970年代では、学力を獲得するための詰め込み教育が横行し、それに耐えられた人たちとそうではなかった人たちとの間に大きな壁が生まれてしまい、「校内暴力ブーム」まで起こってしまいました。
そういう環境で育った人たちが社会人になると、与えられた問題を正確に解けるだけでは立ち行かないこともたくさん出てきました。そうなるとやっぱり「勉強(学力)だけじゃないよね」という論調が生まれてくるものです。
これは日本に限った話ではありません。アメリカなどの国でも同様の問題が起きており、そこから「学力ではない力って、一言で言うとなんと呼べばいいんだろう?」となってくるわけです。
だから、それをアメリカではEQ(こころの知能指数)としてみたり、ソフトスキルやライフスキル、ヒューマンスキルとしてみたり、日本では人間力としてみたり、これまでもいろいろな呼び方(ネーミング)が模索され、そのたびにちょっとしたブームが起こることもありました。
しかし、残念なことに、ブームには流行りすたりがあって、結局そのときどきの「流行り言葉」で終わってしまいがちでした。そんな中、ここにきてブーム再燃(?)といわんばかりに注目されているのが、「非認知能力」です。
もうおわかりですよね? 私たちは、常識じゃないことを非常識といい、日常じゃないことを非日常といいます。
つまり、認知能力じゃない力のことを非認知能力と呼んでいるのです。
ちなみに、認知能力のほうは、だれでもわかる点数にして評価(認知)できる力のことを意味し、代表的なものは先ほどの学力です。
ここに「非」がつくと、だれでもわかる点数にして評価(認知)できない力、これが、冒頭にあった「勉強よりも大切な……」を一言で言い表した力の名前です。
最近は、この名前がバズっています。
非認知能力ってどんな力なの?
ちなみに、みなさんは、これまで非認知能力なんて言葉ではなく、もっと以前から慣れ親しんできた別の言葉(名前)を使っていませんでしたか?
そう、「心」です!
強い心、たくましい心、やさしい心……このような心を育んでいくことの大切さを、これまで出会ってきたいろいろな大人たちから伝えられてきたのではないでしょうか。
それは、私たちの中にある内面的なものであったり、人に対する社会的なものであったりするでしょう。
いずれにしても心を育てることが大切であるという点は、いつの時代も変わらず続いてきたといえるでしょう。
では、もう少し具体的に非認知能力について説明していきましょう。次の図をご覧ください。
この図にあるように、非認知能力は右側に位置づけられます。
具体的には、自制心や意欲、コミュニケーション力や協調性などを挙げていますが、これらはあくまでもごくごく限られた一例にすぎません。
ほかにもたくさんの力があり、その一つひとつについては、心理学や脳科学など、世界中で以前から研究されていました。
そのため、特に新しいものではありません。
今、何が特徴的なのかというと、これらすべてを含んだ総称として「非認知能力」という言葉が使われているという点です。
心であれ、人間力であれ、非認知能力であれ……共通しているのは、いろいろな具体的な力たちをまるっとひっくるめて呼んでいることなのです。
だから、「うちの子どもは非認知能力が高い(低い)のよね~」とか「うちの子どもの非認知能力を育てたいんです」という声は、お気持ちはとてもわかるのですが、厳密には正しくないことを知っておいてください。
つまり、うちの子どもは非認知能力の中のどの力が高い(低い)のか、どの力を育てたいのかまで踏み込んでいく必要があるのです。
これは、認知能力(学力)でも同じです。
たとえば、学力だったら国数英理社の五教科全体が高い(低い)とは言わず、数学が特に得意、英語はいまひとつ苦手だと言いますよね。
それでは、認知能力(学力)でも教科が分かれているように、非認知能力のほうもいくつかに分けてみることにしましょう。次の図をご覧ください。
いろいろな学者たちが研究しているレベルで細かく具体化してしまうとわけがわからなくなってしまいますので、ここでは3つのグループに分けてみることにしました。
この分け方もいろいろな学者や専門機関によって異なってくるのですが、私は、特に幼稚園や保育所、こども園の先生たち、小中学校や高校の先生たちと一緒に非認知能力の育成に取り組んできたことから、先生たちにとってわかりやすく使いやすい3つのグループをつくってきました。
そのグループをここでも紹介しておきますね。
1.自分と向き合う力
私たちはイヤなことや苦しいこと、難しいことやしんどいことに直面すると、あきらめたり、落ち込んだりしてしまいがちです。
しかし、そんなときであっても、もとの自分の状態へ戻していくことができます。
そのために、自分の気持ちを落ち着けようとする自制心や、ぐっとこらえる忍耐力、気持ちを切り替えようとする回復力などを発揮します。
こうした力のグループを「自分と向き合う力」と呼ぶことにしています。
2. 自分を高める力
一方、私たちは今の自分をもっと成長させていこうともします。
そのためには、よりよくしていこうとする意欲や向上心、自分ならできると自分を元気づける自信や自尊感情、物事を前向きにとらえていける楽観性などを発揮していきます。
これらの力のグループを「自分を高める力」と呼ぶことにしています。
3. 他者とつながる力
先ほどまでのふたつの力は、自分自身の内面の力のグループでした。3つ目は、ほかの人たちとの関係性をつくっていくための社会的な力のグループです。
私たちは人とつながるために、お互いの思いや考えを共有していきます。
そのためにコミュニケーション力が必要ですし、相手のことを思いやるためには共感性も必要です。
さらに集団の中では、社交性や協調性も必要になってくるでしょう。このような力のグループを「他者とつながる力」と呼ぶことにしています。
こうして非認知能力もいくつかに整理してみると、先ほどの認知能力(学力)の教科のように、どの力が得意で、どの力が苦手なのかがわかりやすくなりますよね。
ちなみに、みなさんはどの力が得意ですか?
しかし、気をつけてくださいね。
認知能力(学力)は高ければ高いほどよいことがありそうですし、満点を取れればなおさらですが、非認知能力は、高ければ高いほどよいというわけではありません。
次の表をご覧ください。
この表のように、がまん強いと、自分の感情までがまんしすぎて相手に自分の気持ちが伝わりにくくなってしまったり、自信がありすぎると過信になって無謀なことをやってしまったり、だれとでも仲よくしようとしすぎるあまり自分の主張をしなくなってしまったり、いろいろなマイナス面につながりかねません。
そのため、非認知能力は単純に伸ばせばよいわけではなく、それぞれの場面や状況によって使いこなすことも必要だと、ぜひ知っておいてください!
『マンガでやさしくわかる非認知能力の伸ばし方』(中山芳一著/日本能率協会マネジメントセンター)
2000年にノーベル賞経済学賞を受賞した、シカゴ大学のジェームズ・ヘックマン教授の幼児教育の研究がきっかけで注目され、日本でも2020年の教育改革の核として盛り込まれた「非認知能力」。
IQや学校のテストのように数値化できる認知能力に対し、非認知能力とは、「目標を達成するための勤勉さ」「意欲」「知的好奇心」「協調性」「自己肯定感」「表現力」など、数値では測定しにくい総合的な人間力を指します。健やかな心を育み、将来の幸せと成功につながることから、「あと伸びする力」とも言われています。
先行きが見えない現代社会では、約8割の親が「失敗しても立ち直れて成長できること」「自分の力で道を切り開けること」といった「非認知能力」の高い子に育ってほしいと願っているといます。
本書では、非認知能力について解説するとともに、マンガも交えながらわかりやすく家庭教育の中で非認知能力を高める方法を紹介します。