自閉症の子の会話力を育てる「正しさより楽しさ重視」の声かけ
発達に特性のあるお子さんを「普通に育てよう」とすると、どうしても接し方が厳しくなってしまうもの。しかし、子どもの発達の芽を伸ばすのは、「正しさ」よりも「楽しさ」を重視した声かけなのだそうです。
発達科学コミュニケーションマスタートレーナー、そして自閉症児の母でもある今川ホルンさんのアドバイスを、著書より抜粋してご紹介します。
※本記事は、今川ホルン著『脳を育てれば会話力がみるみる伸びる! ことばが遅い自閉症児のおうち療育』(パステル出版)より、一部を抜粋編集したものです。
自閉症なのかどうかは関係ありません
どんな親もわが子を普通に育てようと思えば思うほど、子どもへの接し方が厳しくなるものです。それは、いつも誰かと比べるからです。
「あの子はもう“ママ“って言っている」
「この子は3歳で会話が成り立っている」
そうやって同じ歳の子と比べては、わが子の発達が遅れているのではないかと焦り、厳しく当たってしまう―。これでは親子関係が崩壊していきます。
「うちの子は自閉症でしょうか?」
わが子の発達に違和感を覚えた親は、みなそうやって心配します。しかし、私に言わせれば、自閉症であろうがなかろうが、どちらでもいいことです。
なぜなら、どんな子であっても曇りのない目で真っすぐに見て、脳のどの部分が未熟でことばが遅いのか、どうして癇癪などの困りごとが現れるのかを理解し、子どもの脳を伸ばしさえすればいいからです。 皆さんが思っている以上に、自閉症の子の療育はシンプルです。脳を成長させて、いままで「できなかった」ことを「できた」に変え、1度できたことを何度やっても「できる」ようにサポートする―。これが自閉症児を発達させることだと私は考えます。
ことばの発達でいうなら、その土台には生活リズム・愛着・コミュニケーション意欲があり、その上に喃語 ・ことばの理解・単語・2語文・3語文と「できる」を積み重ねていく道筋は、自閉症の診断があってもなくても、あまり変わりません。
一人一人の目の大きさが違うように、脳も一人一人違います。同じ歳の子であっても、その子とわが子の脳が違うのは当たり前。比べることに一生懸命になっても意味がありません。
私の娘は自閉症で知的障害もあります。みんなと同じようにできないことは多いけれど、普通ではないことを弱みだとは思いません。むしろ、それを強みとして生かしていくことを自閉症療育のスタンダードにしたいと考えています。
ママやパパはいま、毎日の癇癪やことばの遅れなど、困りごとで頭がいっぱいだと思います。自閉症の子の困りごとはほぼ脳の仕業です。それならば、脳を育てる子育てにシフトすればいいのです。脳が育てば、困りごとは解決します。困りごとが少なくなれば、「できる」を積み重ねていくことができます。「できる」が増えれば、親も子も自信がつくはずです。
「普通の子にしなければ幸せになれない」そんな思い込みは捨てましょう。
「普通じゃないのは弱みじゃないよ。あなたの得意は私が伸ばすよ!」そう言ってわが子の強みを伸ばすヒーローママやヒーローパパが増えることを願っています。もう1度言います。
「うちの子は自閉症でしょうか?」
どちらでもいいことです。あなたが目の前にいるわが子の発達の専門家になり、今日から脳を育てる子育てを始めましょう。
脳が育つ声かけと脳が育たない声かけ
ママやパパとの肯定的なコミュニケーションは、子どもの脳にとって一番の栄養です。
自閉症の子には「正しい」ことよりも「楽しい」ことを脳に覚えさせてください。なぜなら、「楽しい」という感情は「ママやパパに伝えたい」というコミュニケーション意欲の源になるからです。
「じゃあ、遊園地に毎日連れて行かなくては」ということではありません。おうちでのコミュニケーションを肯定的な声かけに変えるだけで、みるみる脳が育ちます。さらに大好きなママやパパとのコミュニケーションで安心感が得られると、好奇心が育ち、自発的な行動が増えていきます。中長期の目標として「自発的な行動」を目指す子育てが自閉症児のおうち療育のキーポイントです。
ある2人のママがいました。
みかちゃんのママはいつも子どものできたことに注目して「できたね!」「ありがとう!」と声をかけます。みかちゃんがイタズラをしているときには「わお、ティッシュいっぱい出したね!」などと受けとめてから、一緒に片づけようと声をかけました。肯定的なコミュニケーションで育ったみかちゃんの脳は好奇心が育ち、「もっと楽しいことを探したい!」と自分から考えて動けるようになりました。その結果、自閉症の診断があっても、年長時には自分のことがほぼできるようになりました。
一方で、ゆう君のママはわが子の発達の遅れをなんとか取り戻そうと焦ってしまい、「早くして!」「イタズラはやめなさい!」と怖い顔でゆう君を否定するコミュニケーションを続けました。叱られるたびに、ゆう君はフリーズしてしまいます。年長になっても自分で考えて動くことはせず、なんでも「ママやって!」と頼るようになりました。
小学校に入学しても、新しいことにはチャレンジせず、いつもと同じであることにこだわる脳に育ってしまったのです。
2人のママの対応の仕方を読んで、皆さんはどう考えるでしょうか?
人とコミュニケーションをとるときは、ことばを聞いたり、理解したり、表情を読んだり、感情が動いたりと、脳全体が活発に動きます。ママやパパが笑顔で話しかけ、子どもが楽しいと感じるコミュニケーションは、幸せホルモンが放出され、脳の血流が増え、酸素や栄養素が脳に運ばれて活性化します。
しかし自閉症の子は、不安が高まりやすく、ネガティブな記憶をためやすい脳をしています。障害が重いほどストレスを受けやすく、周囲の大人たちによる過度の叱責やイライラが長期間にわたると、学習やコミュニケーションに大きな影響を及ぼします。大人はそんなつもりはなくても、つい口にした「ダメでしょ!」が自閉症の子にとっては全てを否定されたと感じられることさえあります。
私たちが思っている以上に、脳の成長は毎日の声かけで大きく左右されます。声かけ1つで、脳が育つ栄養を与えることも、脳が育たない環境にしてしまうこともあります。
そして誰よりも、大好きなママやパパとの肯定的なコミュニケーションこそが、子どもの脳を育てる最良の栄養になるのです。 自閉症の子は発達がゆっくりです。だからこそ、毎日良好な栄養を与え、発達の芽を親の力でグーンと伸ばしていきましょう。
『脳を育てれば会話力がみるみる伸びる! ことばが遅い自閉症児のおうち療育』(今川ホルン著,パステル出版)
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