赤ちゃんの「思いやりの心」を育てるための話し方と目の合わせ方
思いやりのある子に育ってほしい、明るく元気に成長してほしい――。「将来どんな子どもになってほしいか?」と訊かれ、そんな思いを抱く大人は多いもの。では、具体的にどうしたら思いやりの心を育むことができるのでしょうか?
YouTubeで日本各地の中学生・高校生に「赤ちゃん学」の授業を配信している元・教師の著者が、健やかな心を育むためのコミュニケーションスキルを分かりやすく解説します。
※本稿は、水野正司(著)・間宮彩智(イラスト)『未来のために知っておきたい みんなの子育てスキル』(マイクロマガジン社)より、内容を一部抜粋・編集したものです。
水野正司
北海道教育大学函館校卒業後、北海道公立学校にて小学校教諭、中学校教頭、特別支援学級教諭を34年間にわたり歴任。現在、子育てクリエイターとして「子育てwin3計画」代表を務め、YouTube「学校Win3チャンネル」などを主宰。著書に『どの子も伸びる《ちょうどいい》叱り方』(学芸みらい社)など多数。
赤ちゃんをだっこしているつもりで「お花、咲いてるねえ」をどう言いますか?
【お題】
赤ちゃんと散歩しているつもりになって、言葉をかけてみてください。※赤ちゃんをだっこしているつもりで!
〔採点基準〕(1)10点(2)30点(3)30点(4)30点
赤ちゃんと散歩しているつもりになって、だっこしている赤ちゃんに言葉をかける――という問題です。
セリフは決まっています。
「お花、咲いてるねえ」
言うのは、これだけです。
読者の皆さんは、このセリフを言えますか?
「お花、咲いてるねえ」
採点基準があるということは、「正しい言い方」があるということです。
昭和の前半に生まれた方々なら、基準など意識せずに100点がとれるはずです。しかし、平成生まれですと、「え?どうしよう!」と困ってしまう方もいらっしゃるのではないでしょうか。
〈『未来のために知っておきたい みんなの子育てスキル』P.90より〉
常葉大学の柴田俊一教授の研究によると、グラフのように、日本人の「子育て能力」はどんどん低下していることがわかっています。昭和の後半から3世代同居が減り始め、子育ての仕方を《見て知っている大人》が激減したのです。
昭和初期では、「赤ちゃんの育て方」というのは知らず知らずのうちに《見て知っている》というのが普通でした。
その頃の「子育て能力」を100とした時、第二次世界大戦後に80となり、それが60になり――と「子育て能力」が低下し、今では「40以下」にまで下がっている、というのが柴田教授の指摘です。
※出典:米澤好史『愛着関係の発達の理論と支援』(金子書房)(2019)
「お花、咲いてるねえ」というセリフを言うだけで、子育てスキルを判定することができます。
採点ポイントは4つです。
ポイントはだっこの仕方と声のトーン
【解説】
まず、配点が10点のスキルから見ていきましょう。
図①がヒントです。だっこの仕方です。
〈『未来のために知っておきたい みんなの子育てスキル』P.91より〉
このイラストのお父さんは赤ちゃんを《優しくだっこ》しています。具体的に表現するなら《包み込むようなだっこ》です。「だく=腕で包む」ですから文字どおりです。
それができていれば「10点」です。
授業では、「審査役の生徒から見て《まあいいかな》と思えたら10点にしてあげてください」と言っています。
採点基準の2つ目は「マザリーズ」を使ったかどうかです。マザリーズというのは、赤ちゃんや幼児に話しかける時に、普段よりも少し高めの声で抑揚(イントネーション)をつけて話す話し方のことです。(図②のA)
〈『未来のために知っておきたい みんなの子育てスキル』P.92より〉
「お花、咲いてるねえ」と言う時に、少し語尾のトーンを上げて言いませんでしたか?低い声で、語尾のトーンを下げて言う人(図2のB)は滅多にいないはずです。
《マザリーズを使っていたな》と思えたら30点です。1人でやっている場合は、確認しながらもう一度言ってみてください。
ちなみに、マザリーズは乳幼児の注意をひきつけ、集中を維持させる効果があることが多くの研究結果から明らかにされています。(※1)
採点基準の3つ目と4つ目は、ほぼ同時に行う行為です。
高校生では、ここでポイントを獲得できない生徒が半数近くいます。
逆にいうと、約半数の生徒は意識しているかどうかはわかりませんが、このスキルを身につけています。
赤ちゃんと目を合わせた後の目の動きが重要
果たして、読者の皆さんは意識できているでしょうか?
答えがわかるという方は、そのスキルを意識的に使いこなせています。
ちなみに、このスキル((3)と(4))は、英語で「ジョイントアテンション」と言います。日本語では「共同注視」です。「注視」とは「見つめる」という意味です。
つまり、共同注視(ジョイントアテンション)とは、お互いに(この場合は親子で)同じものを見つめるというスキルです。具体的には、次の2つの行為が必要になります。
(3)赤ちゃんと目を合わせる
(4)お花に視線を送る
「お花、咲いてるねえ」と言う時に、(3)ができる高校生は結構います。
しかし、(4)も付け加えるとなると、その人数は減ります。
もし、どちらか一方でも行われていたら配点していいことにしていますが、本来は(3)と(4)の両方があって共同注視が成り立ちます。なぜなら、赤ちゃんはまだ言葉を理解できないからです。
「お花、咲いてるねえ」という言葉は、《あそこにお花が咲いてるから見てごらん》という意味です。0歳の赤ちゃんが言葉だけでこの意味を理解することは困難です。ですから、その意味(意図)を伝えるために共同注視というスキルを使います。
お花を見ながら「お花、咲いてるねえ」と言う
【(3)】赤ちゃんと目を合わせる
【(4)】お花に視線を送る
【結果】赤ちゃんもお花を見る
つまり、お花を見るように《促している》わけです。《助けている》といってもいいかもしれません。
そのことが意識されているならば、次のようなパターンもあり得ます。
【(3)の1】赤ちゃんと目を合わせて
【(3)の2】「お花、咲いてるねえ」と言う
【(4)】お花に視線を送る
【結果】赤ちゃんもお花を見る
これが「共同注視(ジョイントアテンション)」です。発達心理学における解説では次のようになります。
共同注視とは、他者の注意を感じ取ってその注意の方向を追いかけること
共同注視では《相手の心を感じ取る》わけですから、「思いやり」の基礎になります。
12~18歳の子どもを持つ保護者を対象に「将来どんな子になってほしいか」をたずねたアンケート調査(※2)があります。
この調査によると、最も多かったのが「思いやりがある」で、その次に「明るく元気」「人に迷惑をかけない」が続いていました。
実は、この結果はたまたまではありません。別の調査でも「思いやり」がトップにくることは少なくありません。たとえば学研教育総合研究所の調査(※3)では、幼児の保護者においても、小学生の保護者においても、「思いやり」がトップでした。
そこで、次のことを覚えておいてください。
「思いやり」の心は、0歳の時から育てることができます。そして、そのためのスキルもあります。それが「共同注視」です。
(※1)文献:『0歳児におけるマザリーズの効果に関する一考察』児玉珠美(2015)
(※2)出典:『中高生の保護者に聞く!子どもに期待する将来像・職業アンケート調査』通信制高校ナビ編集部(2022)
(※3)出典:学研教育総合研究所(2018)
『未来のために知っておきたい みんなの子育てスキル』(水野正司 (著)、間宮彩智 (イラスト)/マイクロマガジン社)
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