スポーツが上達する子の共通点とは? 子どもに「勝たせたい」と思う大人が意識すべきこと

村中直人
2024.12.10 12:24 2024.12.10 12:24

リレーをする子ども

子どもにスポーツがうまくなったり成長したりしてほしいと思っている親御さんは多いでしょう。しかし、大人たちの「勝利至上主義」が、子どもたちに無理をさせたり、精神的に追い込んでしまったりすることも。
子どもの上達に大切な「もっとやりたい」気持ちを、指導者や保護者がサポートするにはどうしたらいいでしょうか。

臨床心理士の村中直人氏と、元女子バレーボール日本代表の大山加奈氏の対話を『「叱れば人は育つ」は幻想』から紹介します。

※本稿は、村中直人著『「叱れば人は育つ」は幻想』(PHP研究所)から一部抜粋・編集したものです。

上達の原動力になるのは「もっとやりたい」気持ち

野球をする子ども

【大山】スポーツって、最初はみんな「やりたい」と思って始めるわけですよね。ところが、部活などが典型ですが、いつのまにか「やらされる」状態になってしまっています。それがよくわかるのが、「明日は練習休みだよ」と言われて「やったー!」と喜ぶ子が多いことです。休みになるのがうれしいというのは、あまりやりたくないことをやらされているからですよね。そうではなくて、休みだと言われたら、「えーっ、やりたいのに」という反応が返ってくるような環境にしたいと私は思うんです。

ですから、バレー教室をやっていて、「じゃあ、これ、最後の練習ね」と言ったときに、「えーっ、もう終わり!?」「もっとやりたーい」という声が多く出ると、「よし!」という気持ちになります。楽しくて有意義な時間を提供できたかな、と思えるので。「もっと、もっと」という気持ちが湧くって大事ですよね。「もっとやりたい」という状況が、うまくなったり成長したりするための一番の力になりますから。

ワクワクしながら主体的にやりたくなる「冒険モード」

水泳をする子どもたち

【村中】 「もっとやりたい」という意欲が湧く脳の状態を、私は「冒険モード」と呼んでいます。冒険モードは、脳からドーパミンが出ることで、ワクワクしながら主体的にやりたくなる状態です。探求心が湧いて「楽しい、面白い」と感じて取り組んでいるため、難しいことをやっていても苦しい表情にはなりません。人に「学び」や「成長」をもたらすのは、この冒険モードにあるときなんですよね。ですから、そういう状態にもっていけるのは、指導者としてはとても大切なことだと思います。

【大山】やっぱりそうなんですね、よかった、間違っていなかった!

パフォーマンスを高めるために何が必要かを自分で考える力

【村中】 しかも冒険モードのときには、「状況に応じて自分を自律的にコントロールする力」も磨かれます。やりたいと思うことだからこそ、パフォーマンスを高めるために何が必要かを自分で考えるわけですよね。そうなると、たとえば、休息の大切さに気づきやすくなりますし、自分に対するケアのコツもつかみやすくなるんです。

ところが、やらされているとき、「怒られたくないからやらなきゃ」という防御モードでやっているときには、思考停止した状態でただ義務的にやっています。この練習は何のためになるのかという意味を考えてやっていませんから、練習をこなすこと自体が目的になってしまいます。休むことを自己決定することもできないので、自分がどのくらい疲れているといった感覚を自覚することも難しいでしょう。

ですから、冒険モードで楽しんでやっている状態を多くつくれる指導者こそ、評価されなくてはいけないと思いますよ。

【大山】そうですね、指導者に対する評価が結果重視、つまり「勝てるかどうか」ばかりに焦点が当たってしまうところに問題があるんですよね。

勝ちにこだわる大人たちの意識を変えなくては

野球をする子

【村中】 最近、子どものスポーツにおける「勝利至上主義」を見直そうという動きが広まってきていますね。柔道では、小学生の全国大会が一部廃止されることになりました。大山さんは子どもの全国大会はどうあるのが望ましいと思われますか?

【大山】日本の現状として、「勝つ」ことに意識が向きすぎていると感じています。この問題で変わらなければいけないのは、大人たちなんです。子どもたちが「勝ちたい」と思い、そのためにがんばろうとすることがよくないわけではありません。指導者や保護者の「勝たせたい」という意識が強すぎて、子どもたちに無理をさせたり、精神的に追い込んでしまったりすることがよくないんです。

【村中】 大会の仕組みをつくっているのも、指導しているのも、過度に勝利をあおっているのも、すべて大人がやっていることですからね。

【大山】そうです。指導者や保護者の意識が変わるのであれば、あってもいいと思うんです。でも、なかなか変わらない状況下で考えるなら、小中学生のトーナメント制の全国大会はやめたほうがいいのかな、と思います。トーナメントだと、どうしても一発勝負の結果重視になってしまいますから。

代わりに、地域でのリーグ戦を行うとか。野球、サッカーなどでは取り入れられるようになっていると聞きました。「一試合負けたら終わり」でなくなれば、結果だけにこだわる状況から脱することができ、試合の展開だとか、負けたあとにチームをどう立て直して次の試合で挽回するかとか、経過に目が向きやすくなるんじゃないでしょうか。

日本一を決めるような全国大会は、高校からでいいような気がします。

スポーツの英才教育が子どもを追い詰めてしまう

バスケットボールの試合

【村中】 大山さんが、荒木さんとの子ども時代の違いでおっしゃったこと、小学生のころからバレーボールだけに打ち込んでいたのと、いろいろなスポーツを経験してきたのとの違いというのも、ヒントになりませんか?

【大山】それは絶対にあります。いろいろなスポーツを通してバランスよく体を動かすなかで、それぞれの競技の特性を知ったり、自分の向き不向きを知ったりすることは大事だと思います。荒木も、他のスポーツを知ったうえで「やっぱりバレーをやりたい」と思うようになったわけで、自分のなかの「やりたい」気持ちがより明確になりますよね。

【村中】 いい指導者との出会いも重要ですが、それ以前に、親がどういう姿勢でスポーツと触れさせるのかというところが大きいと言えそうですね。「子どもをスポーツ選手にしたい」と考え、スポーツの英才教育を施そうとするケースも多いんじゃないかと思うんですが、それが子どもを追い詰めてしまうこともありますよね。

【大山】ええ、子ども時代から脚光を浴び、成長してからもトップアスリートとして活躍できている選手というのは、本当にまれです。多くの場合、途中でバーンアウトしてしまったりして、消えていきます。ジュニア時代に、勝つことに特化した、抑えつけられた指導をされてきているのが一番の原因じゃないかと私は思っています。また、いまおっしゃったように、親からの圧力に苦しんで潰れてしまう選手も少なくありません。

金の卵がトップアスリートに育つ確率はすごく低い

サッカーをする子ども

【村中】 大山さんみたいに、小中学校時代に全国制覇して金の卵と有望視されても、実際に代表チームで活躍できるような選手に育つ確率はすごく低いということですか?

【大山】低いと思います。高校生くらいになるとまた違って、高校時代に活躍した選手が代表に入ることはよくありますけど。

【村中】 トップアスリートはどういう環境で育ってきた人が多いのか、興味が湧きます。親はどういうスタンスで関わってきたのか、どんな指導を受けてきたのか、といったデータがあったら見てみたいです。

【大山】私の周りにいるトップアスリートの話を聞いていると、親御さんはあまり口出しせず、やりたいと言ったことをサポートしてくれた、というケースが多い感じです。でも、実際にこのデータを取れたら面白そうですね。

【村中】 そのリサーチをされるときには、ぜひ「怒る指導をどのくらい受けてきたか」という質問項目も入れていただきたいです。「怒ってはダメ」「威圧的にやらせる指導に効果はない」と何百回言うよりも、実際にトップアスリートの人たちがどういう指導を受けて育ってきたか、というデータを提示できるほうが説得力がありますからね。

大山加奈

1984年、東京都江戸川区生まれ。小学校2年生からバレーボールを始め、小中高すべての年代で全国制覇を経験。高校卒業後は東レアローズ女子バレーボール部に入部。日本代表には高校在学中の2001年に初選出され、オリンピック・世界選手権・ワールドカップと三大大会すべての試合に出場。力強いスパイクを武器に「パワフルカナ」の愛称で親しまれ、日本を代表するプレーヤーとして活躍した。
2010年6月に現役を引退し、2021年に不妊治療を経て双子の女の子を出産。現在は全国での講演活動やバレーボール教室、解説、メディア出演など多方面で活躍しながら、バレーボールを通してより多くの子どもたちに笑顔を届けたいと活動中。

X:@kanakanabun

Instagram:@kanaoyama0619

村中直人

1977年、大阪生まれ。臨床心理士・公認心理師。一般社団法人子ども・青少年育成支援協会代表理事。Neurodiversity at Work 株式会社代表取締役。
公的機関での心理相談員やスクールカウンセラーなど主に教育分野での勤務ののち、子どもたちが学び方を学ぶための学習支援事業「あすはな先生」の立ち上げと運営に携わり、発達障害、聴覚障害、不登校など特別なニーズのある子どもたちと保護者の支援を行う。
現在は人の神経学的な多様性(ニューロダイバーシティ)に着目し、脳・神経由来の異文化相互理解の促進、および働き方、学び方の多様性が尊重される社会の実現を目指して活動。「発達障害サポーター'sスクール」での支援者育成に力を入れているほか、企業向けに日本型ニューロダイバーシティの実践サポートを積極的に行っている。

X:@naoto_muranaka

「叱れば人は育つ」は幻想

「叱れば人は育つ」は幻想』(村中直人著/PHP研究所)

「叱らなければ人は育たない」という呪いから、なぜ抜け出せない? 各界の識者との議論から〈叱る依存〉社会からの脱却法を模索する。