10代で発覚しやすい「神経発達症グレーゾーン」 思春期に症状が深刻化する理由
思春期の子どもの間で、うつ病が増加しています。抑うつや不安を抱えている子どもたちが発するSOSサインとは? 児童精神科医の舩渡川智之さん監修の書籍『思春期の子の「うつ」がわかる本 SOSサインの見極め方と適切な接し方』より解説します。
※本稿は、舩渡川智之著『思春期の子の「うつ」がわかる本 SOSサインの見極め方と適切な接し方』(大和出版)の一部を再編集したものです。
もしかしてこんなSOSサインを出していない?
\抑うつが違う表現であらわれる/
不安や抑うつがあると、さまざまな身体の不調があらわれることがあります。思春期の場合は、いら立ちや攻撃的言動、自分を傷つけるような行動なども加わります。
しかし本人は、それが精神的な問題から起きているとは自覚できません。大人がまずこうしたサインに気づいてあげることが大切です。
※自分を客観的に捉えられないため、心のなかの葛藤を正確に認識できない。言語化能力も低く、他人に心の内を伝えられない。あらわれている症状や言動が不安や抑うつ、ストレスに由来すると自覚できない子も多い。
→運動機能の障害として
歩けない、聞こえないなど、運動機能に問題が生じるが、検査しても問題が見つからない。
→攻撃的な言動として
不安や抑うつがイライラとなりあらわれやすい。反社会的行動を起こしたりすることも。
→自分を傷つける行動として
リストカットや薬物摂取、自殺企図など命に危険が及ぶような行動としてあらわれる。
→身体的な病気として
頭痛や腹痛などの不定愁訴としてあらわれる。
※子どもが葛藤や不安、抑うつを抱えていても、ダイレクトに表現されない。親は「これまで元気にやってきたのに、どうしたんだろう」と狼狽。背景にある問題も不明瞭なので、どうすればいいのかわからなくなることが多い。
見過ごされてきた発達の問題 自尊心の低下がきっかけか
子どもに抑うつや不安症状があらわれたときには、神経発達症(発達障害)など神経発達の問題も考慮する必要があります。
・周囲についていけない、疎外感を覚える
神経発達症には個人差が大きく、診断される時期も程度もさまざまです。発達のでこぼこ(得意と不得意の差)が大きく、はっきりわかっていれば小学校の段階で神経発達症と診断されているでしょう。ところが軽度だと大人になるまで診断されないこともあります。
神経発達症の特性があっても社会生活を営むのに支障はなく、本人も周囲も認識していないケースも多く、グレーゾーンなどといわれています。グレーゾーンでも、症状のあらわれ方や程度には個人差がありますが、一般にコミュニケーションが苦手で対人関係が困難なので、思春期に差し掛かる頃によく生活に支障が生じます。
そもそも思春期には定型の発達の子でも他者との関係に悩み、自己愛が傷つけられたり自尊心が低下したりするものです。神経発達症の傾向があるとなおさら交友関係などでトラブルが生じやすく、自己肯定感が低下し、問題が深刻化しがちです。
・二次障害として抑うつが起こりやすい
小学校低学年のあいだは決められた時間割内で過ごしているのでさほど大きな問題は生じません。学年が上がるにつれて行動範囲も交友関係も広がり、自由度も増えます。社会的やりとりや対人関係が苦手な子どもはトラブルを抱えやすくなります。
仲間との関係を重視する思春期に、仲間と摩擦が生じたり集団から排除されたりすると、とても大きなストレスになります。そのため二次的に抑うつが起こりやすくなるのです。多くの場合、親御さんも子どもの発達の問題には気づいていないので「小学校のときはうまくやっていたのに、どうしちゃったの?」と、驚いて途方に暮れてしまいます。
児童期から青年期のうつ病では4~9割になんらかの併存症があるとされています。破壊的行動障害やADHD、不安症などの症状があらわれた後で、うつ病を発症することが多いと報告されています。
思春期の子の「うつ」がよくわかる本: SOSサインの見極め方と適切な接し方(大和出版)
特に理由なく、学校にいけなくなった。元気がない、夜眠れない、ごはんが食べられない。「うざい」「うるさい」などの悪態をつく。――思春期特有の心のメカニズムと抑うつ・不安との関係を正しく理解し、子どもを守るヒント