出産後すぐに職場復帰できないなら辞めるしかない? 妊娠したら知っておきたい法律の話

遠藤研一郎
2024.12.23 10:22 2025.01.06 11:50

妊婦 妊娠後期

「出産後も同じ職場で働き続けたいと思っているのに、職場の理解が得られずにやめざるを得ない」、「出産や育児を理由に退職をせまられた」…。
こんなことは許されるのでしょうか?

働く人は、妊娠・出産・育児について法によって守られています。働きながら子どもを産んだり育てたりする制度は何があるでしょうか。
働きながら母になる女性を応援する法律の話を、中央大学法学部教授の遠藤研一郎著『マンガでわかる! わたしの味方になる法律の話』から紹介します。

※本稿は、遠藤研一郎著『マンガでわかる! わたしの味方になる法律の話』(大和書房)から一部抜粋・編集したものです。

働きながら、子どもを産んだり育てたりする制度って?

マンガでわかる! わたしの味方になる法律の話

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突然ですが、みなさんは、女性が第一子を出産したのをきっかけに仕事をやめる割合(第一子出産離職率)って、どれくらいだと思いますか?

平成27年時点(第一子出生年が平成22〜26年の統計)で、46.9%となっています(国立社会保障・人口問題研究所しらべ)(※1)。

みなさんは、この数字をどのようにとらえますか? きっと、人それぞれ感じ方はちがうと思います。

では、みなさんご自身は、出産後における仕事との向き合い方について、どのように考えますか?

これも、それぞれですよね。「一度会社をやめて、育児に専念したい」と思う方、「会社はやめずに育児と両立していきたい」と思う方、「育児は夫に任せて、私がバリバリ働きたい」と思う方、いろいろいらっしゃると想像します。

これは、自分の描く家族像やライフスタイルの話ですから、どのような価値観も尊重されるべきです。

でも、出産後も同じ職場で働き続けたいと思う女性がいるのに、職場の理解が得られずにやめざるを得ない現実があるのだとすれば、それは、すごく残念なことです。

(※1)第一子出産離職率につき、2018年~2022年の数値では、30%程度に減少しています。

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【マンガ】石山さやか

スミカさん、会社からひどいことをいわれていますね。

出産や育児を理由に退職をせまるなんて、許されるのでしょうか? もし許されるのだとすれば、働いている女性は、安心して子どもを産むことができなくなってしまいます。

たしかに、会社によっては、休まれたときの代わりの働き手の確保がむずかしい、などの事情を抱えているところもあるかもしれません。

でも、これからの社会を考えたとき、出産と向き合う女性へのきめ細やかな対応が必要なのも事実です。

法律上では、たとえば「労働基準法」、「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保に関する法律(男女雇用機会均等法)」、「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(育児・介護休業法)」など、いろんな法律によって、働きながら母になる女性を応援しています。

妊娠・出産・育児のそれぞれのステージを順番に見ていきましょう。

妊娠中は、無理せずに

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まずは、“妊娠した直後“のステージ。

妊娠中は、いつも以上にいろいろと気を配らなければいけないですよね。

会社に適切な配慮をしてもらうためにも、妊娠がわかったら、できるだけ早めに報告したいところです。事業主(会社)には、いろんな法的責任が認められていて、さまざまなサポートが期待できます。

たとえば、妊娠したら、お腹のなかの赤ちゃんや女性自身の健康のために、しっかりと保健指導や健康診査を受けることが大切ですよね。でも、働いていると、その時間を確保するのが難しいこともあります。

そこで事業主は、妊娠した従業員に対して、勤務時間内に、健康診査などのために必要な時間の確保をしなければならないことになっているんです(男女雇用機会均等法12条)。

それだけではありません。妊婦さんにとって、「交通機関の混雑による苦痛」は、つわりの悪化や流産・早産などにつながるおそれがあります。そこで、事業主は、申し出があった場合、その女性がラッシュ・アワーの混雑を避けて通勤することができるように、通勤緩和のための措置をとらなければいけません。

また、妊娠中は、いつもとは体調もずいぶん異なるものだと思います。体がむくむので、「勤務時間の短縮や作業の制限」が必要だったり、「休憩時間の延長、休憩回数の増加、休憩時間帯の変更」などが必要だったりするなら、会社は適切な措置をとらなければいけません(男女雇用機会均等法13条)。

さらに、毎日残業をしなければならなかったり、ずっと立ち仕事だったりすると、女性の体に大きな負担がかかってしまいます。

そこで、時間外や休日に働くことを免除してもらったり(労働基準法66条)、ほかの業務への転換を求めたりすることもできます(労働基準法65条)。

また、とても重いものを運ぶ仕事など、妊娠・出産に対し悪影響のある仕事には、女性を就業させてはならないとしています(労働基準法64条の3)。

「出産」のために会社を休む

次に、“出産の直前・直後“のステージです。

このステージでは、「産前・産後休業(産休)の制度」があります。

出産は、いつの時代でも命がけ。無事に出産を迎えられるように、そして出産したら体力を回復させてスムーズに職場復帰できるように、出産がせまった時期と産後しばらくの時期は、仕事を休む制度、それが「産休」です。

まず「産前休業」は、具体的には、出産予定日の6週間前からとなっていて、女性が請求した場合には、就業させることはできません(労働基準法65条)。

また、「産後休業」は、基本的に、出産日の翌日から8週間となっていて、とくに6週間は強制的な休業です(労働基準法65条)。

どちらも、母体を守るためにとても重要です。

なお、産前・産後休業の期間とその後30日間は、解雇をすることが禁止されています(労働基準法19条)。

また、妊娠中や産後1年以内の解雇は、事業主が、妊娠・出産・産休取得などによる解雇でないことを証明しない限り、無効となります(男女雇用機会均等法9条4項)。

「育児」のために会社を休む

次に、“産休の後“のステージを見てみましょう。

産休後、もしすぐに復職したとしても、生後間もない子を育てるママは何かと大変です。

ですから、1日2回、少なくとも30分間の育児時間を請求することができます(労働基準法67条)。

また、お医者さんから指示があったときは、健康診査などに必要な時間を確保してもらったり、妊娠中と同じように、必要な措置をとってもらったりすることもできます(男女雇用機会均等法12条、13条)。時間外労働、休日労働、深夜業などに対する制限もあります。

それから、1歳に満たない子を養育する母親&父親は、希望する期間に休業することもできます。

いわゆる「育児休業(育休)」ですね。これは、母親でも父親でも取得することができます。妊娠・出産は女性しか経験することができませんが、育児は男性もおこなうことができますからね。

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ただ、日本における男性の育休取得率は、とても低水準です。

男性が子育てや家事に費やす時間が、先進国のなかで最低の水準となっているのも気がかりです。そのことが、女性に過度な負担となったり、仕事を続けることの障壁のひとつにもなっているのです。男性の意識改革が大急ぎで必要です。

ちなみに、育休は、正社員だけでなく、有期契約の従業員でも条件を満たせばとることができます。

また、子どもが1歳になったあとでも、たとえば、「育休のあとは保育所に預けて復職するつもりだったけど、保育所に入れなくて……」という方のために、育休の延長制度があります。再延長を含めて最長で子どもが2歳になるまで活用できる制度です。

育休は、どの会社も受け入れなければならない制度ですから、スミカさんの会社のように「うちの会社では、育休はないよ!」なんてことは認められません。

働きながら育てていくには

もちろん、育休後も、子育てはずっと続きます。

そんななかで、母親&父親は、仕事との両立を図っていかなければなりませんね。そのための制度もいくつか用意されています。

たとえば、事業主は、3歳未満の子どもを養育する母親&父親について、短時間勤務制度を設けなければならないことになっています(育児・介護休業法23条)。つまり、労働時間の面からの配慮です。

また、子どもというのは、身体が未成熟で、いろいろなアクシデントがつきもの。

そこで、小学校入学前の子どもを養育する母親&父親は、年次休暇とは別に、子どもが1人であれば1年につき5日まで、子どもが2人以上であれば1年につき10日まで、看護休暇(病気やケガをした子どもの看護、予防接種や健康診断の受診などのための休暇)を会社に申し出ることができます(育児・介護休業法16条の2、16条の3)。

さらに、時間外労働や深夜業の制限もあります。事業主は、小学校入学前の子どもを養育する母親&父親から申し出があった場合、1か月で24時間、1年で150時間をこえる時間外労働をさせてはならず、また、深夜の労働もさせてはならないことになっています(育児・介護休業法17条、19条)。

“不利益を受けない権利“って?

さて、いままでいろいろルールを紹介しましたが、これはすべて、事業者が負う法的な義務であり、従業員がもっている当然の権利です。

もちろん、職場のまわりの人たちとの理解を得ながら進めることが大切ですが、働く人は、妊娠・出産・育児について法によって守られていることを知っておいてほしいのです。

ちなみに、妊娠・出産、産休、育休などをきっかけに、不利益な扱いをすることは禁止されています(男女雇用機会均等法9条3項、育児・介護休業法10条など)。

不利益な扱いとは、たとえば、「解雇させられた」とか、「退職を強要された」とか、「契約更新してもらえなかった」とか、「減給させられた」とか、「ふつうではありえないような配置転換を受けた」などです。これらはすべて違法です。

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また、従業員が、上司や同僚から妊娠・出産、産休、育休などに関するハラスメントを受けないよう、防止するための措置をとることも、事業者には義務づけられています(男女雇用機会均等法11条の2、育児・介護休業法25条)。

たとえば、上司や同僚が「仕事に穴をあけるのなら仕事をやめろ」といったり、何度も育休制度の利用をやめるようにせまったり、「この時期に妊娠するなんて自覚に欠けている」と責めたり、通勤負担に理解を示さず定時に来ることを強要したりするような行為は、ハラスメントにあたるおそれがあります。もしハラスメントが生じたら、事業主はスムーズに対応できるよう、雇用管理上の措置をとらなければなりません。

トラブルになってしまったら

では、会社とトラブルになった場合はどうすればいいのでしょうか?

まずは、従業員と事業主の双方で、よく話し合うことが大切です。スミカさんも、まずは思い切って会社に相談してみたいところです。

でも、会社内での自主的な解決が望めないときには、必要に応じて行政機関の力を借りることもできます。

各都道府県の労働局では、男女均等取扱いについてのトラブルや、育児・介護休業等についてのトラブルなどを対象に、簡単な手続きで、スムーズに紛争解決をするための援助(助言・指導・勧告)や、公平・中立な調停委員による調停会議などをおこなっています。

いろんな制度を最大限に活用して、今後ますます、働きながら妊娠・出産・子育てをしやすい社会を目指したいですね。

遠藤研一郎

中央大学法学部長(2023年11月~)
中央大学大学院法学研究科博士前期課程修了。2000年より岩手大学人文社会科学部講師、2002年より同大学助教授、2004年より獨協大学法学部助教授、2007年より中央大学法学部准教授を経て、2009年より中央大学法学部教授。

マンガでわかる! わたしの味方になる法律の話

マンガでわかる! わたしの味方になる法律の話』(遠藤研一郎著/大和書房)

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