おむつ交換で感染? 学校閉鎖も引き起こす「ノロウイルス」の症状と予防策 小児科医の見解

吉澤恵理
2025.02.08 08:10 2025.02.08 08:30

腹痛と吐き気に苦しむ子ども

最近、各地の学校などでノロウイルスによる集団感染が相次いでいます。特に、ある地域では500人以上に広がる大規模な感染も発生しました。ノロウイルスとはどのようなウイルスなのか、なぜこれほど多くの人が感染するのか、そして予防や治療の方法について、竹内小児科内科医院、院長の五藤良将医師に詳しく解説していただきました。(取材・文/吉澤恵理)

乳幼児が感染すると脱水症状に至ることも

泣き止まない0歳の赤ちゃん

――なぜ今、ノロウイルスが流行しているのでしょうか?

ノロウイルスは例年、秋から冬にかけて流行します。特に気温が下がるとウイルスが活発になりやすく、また乾燥した環境では飛沫が空気中に長く漂いやすくなるため、感染のリスクが高まります。また外出制限が緩和されて以降、人の移動や飲食の機会が増えたことも影響していると考えられます。

――ノロウイルスに感染すると、どのような症状が出るのですか?

主な症状は吐き気、嘔吐、下痢、発熱、腹痛です。潜伏期間は1~2日で、感染すると突然の嘔吐や水のような下痢が続きます。症状の持続期間は1~2日と比較的短いですが、高齢者や乳幼児では脱水症状に陥ることがあり、重症化するケースもあります。

ノロウイルスの主な3つの感染経路

――どのようにしてノロウイルスに感染するのですか?

ノロウイルスの感染経路は主に以下の3つです。

1.食べ物を通じた感染(経口感染)
ノロウイルスに汚染された食品、特にカキやアサリなどの二枚貝を十分に加熱せずに食べることで感染することが多いです。

2.人から人への感染(接触感染・飛沫感染)
感染者の嘔吐物や便に含まれるウイルスが手や衣服、ドアノブ、トイレの取っ手などに付着し、それを触った手を介して口に入ることで感染します。また、感染者が吐いた後の微細な飛沫が空気中に漂い、吸い込むことで感染することもあります(エアロゾル感染の可能性)。

3.汚染された環境からの感染
ノロウイルスは環境中で長く生存し、感染者がいた場所のドアノブやテーブル、床などからも感染する可能性があります。

特効薬がないノロウイルス…どう治療する?

寝ている子

――ノロウイルスに感染した場合、どのように治療すればよいのでしょうか?

ノロウイルスに特効薬はありません。治療は対症療法が基本となります。主に以下の対策を行います。

•水分補給:嘔吐や下痢で失われた水分を補うことが最も重要です。経口補水液(OS-1など)やスポーツドリンクをこまめに摂取しましょう。
•整腸剤の使用:腸内環境を整えるため、医師の指示のもと整腸剤を使用することもあります。
•発熱時の対応:高熱が出ることは少ないですが、発熱がひどい場合は解熱剤を使用することもあります。
•安静にする:体力回復のため、無理をせず安静にしましょう。

乳幼児や高齢者は脱水症状が進行しやすいため、症状がひどい場合は早めに医療機関を受診することが重要です。

ノロウイルス予防のための注意すべき5つのポイント

手洗いをする子ども

――ノロウイルスの感染を防ぐには、どのような対策をすればいいですか?

ノロウイルスは非常に感染力が強いため、日常生活での予防が重要です。以下のポイントに注意しましょう。

1.手洗いの徹底
トイレの後、調理や食事の前には石けんと流水でしっかりと手を洗うことが基本です。アルコール消毒はノロウイルスには効果が低いため、石けんと流水で十分に洗い流すことが重要です。

2.食品の加熱処理
二枚貝(特にカキ)は85~90℃で90秒以上加熱することで、ノロウイルスを死滅させることができます。

3.嘔吐物や便の適切な処理
感染者の嘔吐物や便を処理する際は、使い捨て手袋・マスク・エプロンを着用し、次亜塩素酸ナトリウム(家庭用漂白剤)を使用して消毒しましょう。
•環境消毒:200ppm(0.02%)の塩素液
•嘔吐物・便の処理:1000ppm(0.1%)の塩素液
処理中は換気を行い、使い捨て手袋・マスクを着用しても、消毒後は流水と石けんで手洗いを徹底してください。アルコール消毒は効果が低いため、併用するだけでなく十分な手洗いが不可欠です。

4.感染者との接触を避ける
家族内で感染者が出た場合、タオルや食器の共用を避け、可能な限り別の部屋で過ごすことが望ましいです。

5.乳幼児の排泄物の取り扱いに注意
感染者の便には、症状が回復した後も3~7日間、ウイルスが排出されるため、乳幼児のおむつ交換の際には特に注意が必要です。おむつを交換した後は、使い捨て手袋を使用し、手洗いを徹底しましょう。また、おむつは密閉できる袋に入れて処理し、周囲の環境が汚染されないように注意しましょう。

ノロウイルスだけじゃない 注意したい「お腹の風邪」

――お腹の風邪と言われることがありますが、具体的にはどういったものですか?

「お腹の風邪」というのは、医学的には感染性胃腸炎を指します。ウイルス性(ノロウイルス、ロタウイルスなど)と細菌性(サルモネラ菌、腸炎ビブリオなど)があります。

ウイルス性胃腸炎は、特効薬はなく、対症療法が基本となります。
細菌性胃腸炎は、一部のケースで抗菌薬が必要になります。

感染性胃腸炎には、特効薬はないため、感染した場合は水分補給と安静を心がけ、重症化しそうな場合は医療機関を受診しましょう。日頃の手洗いや食品の加熱、環境消毒が重要ですね。

五藤良将

五藤良将

防衛医科大学校医学部卒業後、自衛隊関係病院、千葉県を中心とした病院勤務を経て、2019年9月から東京都田園調布の竹内内科小児科医院を継承し院長。2021年10月から医療法人社団五良会の理事長となる。五良会クリニック白金高輪、五良ファミリークリニックセンター南と分院も展開している。

日本内科認定医、日本抗加齢医学会専門医、日本美容内科学会評議員、日本温泉気候物理医学会療法医、日本旅行医学会認定医、複数の学校校医、難病指定医など幅広く診療を行っている。