なぜアメリカには「塾」がない? ハーバード大卒のパックンが語る日米の教育の違い
芸人・タレントとしておなじみのパトリック・ハーランさん(通称パックン)。ハーバード大学出身というエリートながら、現在は日本に暮らし、2人の子どもを育てる「日本の父親」でもあります。今回は、そんなパックンに、ご自身の学生時代の学び方、そして日本での子育てについて伺いました。(取材・文/吉澤恵理)
アメリカには「塾」という文化がほとんどない
――日本では受験競争が加熱していますが、パックンご自身の受験体験はどのようなものでしたか?
パトリック・ハーランさん(以下パックン):僕は普通の公立高校に通っていて、塾には通いませんでした。僕が知る限りでは、アメリカでは塾という文化がほとんどないんです。SATという統一試験の準備や、大学入学審査のためのエッセイのコーチングをしてくれるチューターはいますが、それも一部の学生だけ。基本的には、学校で学んだことをベースに、自分で勉強するのが普通ですね。
――日本のように、受験のために塾に行くことはないのですね?
パックン:そうですね。地域によってですが、日本では学校の授業だけじゃ足りなくて、塾で受験対策するのが当たり前になっていますよね。でも僕は、それはちょっと問題だと感じます。
本来、学校で学んだ範囲で受験すべきじゃないですか? それ以上を求めるのって、たとえるならサッカーを練習してるのに野球のテストを受けるようなものだと思うんです。
学校の教科書だけじゃ試験が解けないなんて、おかしくないですか? みんなが同じ情報を与えられて、その中で一番覚えた子じゃなくて、その情報を理解してうまく使える子を選ぶ方がいいと思うんですよ。
公立小学校からインターナショナルスクールへ転校した理由
――お子さんたちには、どのような教育を受けさせているのですか?
パックン:我が家は、長男が18歳、長女が16歳。僕は、子供たちがやりたいことを全力で応援するというスタンスを基本にしています。受験にしても、進路にしても、親が型にはめて『こうしなさい』じゃなくて、子ども自身が『これをやってみたい』と思える環境を整えるのが大事だと思っています。
最初は日本の公立小学校に通わせていました。長男は小学4年生、長女は3年生までは日本の学校に通っていて、一時は中学受験も考えて、塾にも通っていたんです。でも、だんだん子どもたちの表情が暗くなっていって……それまでは明るくて好奇心旺盛だったのに、笑顔が減ってしまって。『これはおかしいな』と強く感じたのが、インター(インターナショナルスクール)への転校を考えるきっかけになりました。
――転校後、お子さんたちは戸惑うことはありませんでしたか?
パックン:最初の1週間で、目に見えて変わりました。初日は『まあまあよかった』って言ってたんですけど、2日目には『よかった』、3日目には『なんでもっと早く行かせてくれなかったの?』って(笑)。授業の雰囲気が明るくて、自己表現が推奨される空気がすごく合っていたんだと思います。みるみる笑顔を取り戻しました。
日本の小学校とインターナショナルスクールの違いとそれぞれの良さ
――インターと日本の学校の違いを感じたエピソードはありますか?
パックン:息子が転校したのが12月で、日本の小学校で学期末の音楽会があったんですよ。転校前の最後の行事で、息子も練習を頑張ってたので、僕も見に行きました。発表するみんな、めっちゃ綺麗に歌えてて、入退場もピシッとしてて、素晴らしかった。みている方の生徒もちゃんと座って、静かに聞いてて、すごい感動しました。小学生なのにバンドも上手で、トランペットを吹く息子の姿にグッときました。
その2週間後にはインターのコンサートがあったんです。転校して来たばっかりで練習もしてないのに、息子も参加していいって…大丈夫か心配でした。
コンサートの日、行ってみると、日本の小学校と違って、全然音が揃ってない(笑)。バンドもそんなに上手くないし、観客の生徒はザワザワ喋ってて、後ろ向いてるし、立ち上がってるし……正直ムカッとしましたよ。
『こら!仲間が歌ってるんだから聞きなさい!』って言いそうになったくらい。でも、先生たちが注意しないから、僕も黙ってみてました。
すると、途中から、すっごく面白くなってきて。舞台上でソロで歌ったり、踊ったり、みんながそれぞれ自分なりの表現をしてるんですよ。揃ってないのに、めっちゃ笑顔で楽しそうで。舞台が楽しいって気持ちが伝わってくるんです。ストレスじゃなくて、ワクワクしながら舞台に立ってる。あれを見たとき、『これは理想だな』って思いました。
もちろん、日本の学校でみんながちゃんと座って話を聞けるっていうのも素晴らしいスキルですよ。退屈な校長先生の話の間でも(笑)、静かに聞けるのって大事。インターの子にも覚えてほしいです。でもあんなふうに、自己表現できて、笑顔になれるパフォーマンスって、日本の子どもたちにも経験してほしいなって思いました。
――インターナショナルスクールで学び、お子さんの成長を感じる場面はありますか?
パックン:はい。いろいろありますが、最近、娘が中学校でアシスタントコーチをやっていて、朝早く学校に行って、後輩たちにバスケやバレーを教えているんです。本人もすごく楽しそうで、後輩からも好かれているみたいです。
自分から動いて、誰かのために力を尽くすことに、自然と喜びを見出している。そんな姿を見ると、本当に頼もしく思います。
息子のほうはあまり多くは語らないんですよね(笑)。将来の夢とかも、なかなか具体的には教えてくれない。
でも、コミニケーション力が豊かで、誰からも好かれる息子をみていると将来どんな道にすすんでも心配ないなと感じます。
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一人の父親として、子どもたちの笑顔や意欲を大切にしながら、「やりたいことを応援する」姿勢を貫くパックン。その子育ての実践は、今まさに子どもと向き合っている多くの親たちにとっても、大きなヒントになるのではないでしょうか。
そして後半では、パックンが感じる日本の教育に必要な視点について、語っていただきました。
『パックンの森のお金塾 こども投資』(パトリック・ハーラン著、主婦の友社刊)
10才の誕生日の翌日から新聞配達をして家計を支え、ハーバード大学を卒業!
投資歴約30年のパックンが伝授する、幸せなお金とのつきあい方。
パックンと森の仲間たちが漫才タッチな会話で解説。