離婚したDV夫を「酷い大人だった」と話す娘 どうフォローすべき?【鴻上尚史の人生相談】
元夫からのDVに苦しみ、離婚の道を選んだ花さん。娘さんは元夫について「愛してくれなかった」「酷い大人だった」と語り、花さんは返事に困ります。
作家・演出家の鴻上尚史さんに寄せられた人生相談と、その回答をご紹介します。
※本稿は鴻上尚史『鴻上尚史の具体的で実行可能!な ほがらか人生相談』(朝日新聞出版)より一部抜粋・編集したものです。
DVで支配する夫と離婚しましたが、「酷い大人だった」と話す娘たちに何と言っていいかわかりません
(43歳・女性 花)
はじめまして。
以前こちらの相談で不倫の末にご出産された女性からの投稿(単行本『ますますほがらか人生相談』の相談16)を拝見しました。
相手の男性の方を悪く言ってない事を讃えてらっしゃり、お子さんにも父親の悪口は絶対に言ってはならないとおっしゃっていたのが印象的でした。
子供達が父親の悪口を言われて傷つくというのも理由として挙げられておられて、ハッとした自分がいます。
私の場合、ずっと長い間モラハラDVの夫との結婚生活でしたが、女の子2人を授かる事が出来ました。モラハラ、という言葉が世間に知られるようになった辺りから「うちもこれに該当するのではないか」とほんの少しの疑問を持つまで、恥ずかしながら自分がモラハラやDVをされてるという認識に至りませんでした。
なぜなら、夫の言う「お前が悪いからこうなるんだ、全てお前のせいだ」が根付いてしまい、私自身が「私がいけないから夫はこうなるんだ」「私がもっと頑張れば良いんだ」という思考の中でもがいているような状況でしたから。
そんなこんなで長女(小6)はそんな両親の諍いを6歳まで見てしまっているので未だに大人の顔色や言動といった事に大変敏感な子供です。ある日の幼稚園に行くバスを待つちょっとした時間、4歳の長女に「お母さんはお父さんと離れた方が良いと思わない? 私は離れてお母さんとだけいたい」と言われました。そんな小さな姿で何てすごい事を背負わせてしまってたのかと思ったら、見送り後に涙が止まりませんでした。
それを機に私たちはこんなところに居たら駄目になってしまう、夫だけに支配される世界から飛び出そうと決意し、手に職をつけ再就職に向けて面接に行き、頑として離婚&浮気や借金などを認めない夫との話し合いを調停まで持ち込み、今の安全な3人の居場所を築きました。離婚時に次女は状況も分からない年齢でしたが、大きい物音や怒鳴り声に敏感だったので、しばらくは耳を塞ぐという行為が気になりましたが、6年経った今は無くなりました。その子供達は父親の話を自分達でする時、それこそ自分達を愛してくれなかった、見ていて酷い大人だと思った、それが父親というのが本当にショックと、話しています。それがどれも事実な上に私も何とフォローして良いのか、返答にいつも悩みます。鴻上先生ならどうお答えになりますか?
どうぞ宜しくお願い致します。
鴻上尚史さんの回答
花さん。大変でしたね。僕が「父親の悪口を言わない方がいい」と書いたのは、花さんの娘さんのケースとは違います。相手の男性は、月に一回、子供と面会するだけのコミュニケイションですから、そこでは「いい父親」として接しているはずです。だからこそ、子供も父親に会いたいと思うのです。ただし、会うのは月に一回だけですから、男性に関する情報は、ほとんど母親から聞くしかないのです。ですから、母親が一方的に父親の悪口を語ることは、月に一回会う父親の印象と分裂して、子供を混乱に陥らせることにしかならない、ということです。
花さんの娘さんは、日常的に父親のひどい姿を見ていました。それは、隠しようもないことです。
だからこそ、「お母さんはお父さんと離れた方が良いと思わない? 私は離れてお母さんとだけいたい」と言ったのでしょう。
しかし、4歳でこんなことを言ってくれる娘さんは、花さんの宝ですね。この言葉を言おうとまで思い詰めた気持ちに胸が痛みますが、でも同時にちゃんと母親を思って言えた強さと聡明さに感動します。
「自分達を愛してくれなかった、見ていて酷い大人だと思った、それが父親というのが本当にショック」と娘さんは話しているとのことですが、その時の口調は、花さん責めていますか? そんな男性を選んでしまった花さんをなじっていますか? 男を見る目のない母親に怒っていますか?
もし、そういう口調なら、ただ謝るだけです。私は本当に男を見る目がない。男に対する判断が甘かった。もっと早い時期に離婚するべきだった。本当にごめんなさいと。
でも、聡明な娘さんのことですから、そうではないんじゃないかと思います。ただ、父親がそういう人だということを悲しんでいるのではないかと思います。
「何とフォローして良いのか、返答にいつも悩みます」と花さんは書きますが、父親をフォローする必要はないですよね。本当にひどい男だったのですから。
ただ娘さんは、「父親を愛したかった。でも、ひどい男だった。私達を愛してくれなかった」というショックを語りたいのだと思います。手に余る感情とうまくつきあっていく方法は、とにかく口に出すことです。胸の中に納めてしまうと、感情はくすぶり、ねじれ、やっかいな形になることが多いです。
ですから、娘さん達は、毎日を健全に生き延びるために口にしているのだと思います。
そこで花さんができることは「本当にそうだよねえ。ショックだよねえ」と娘さんの感情に寄り添うことだけだと思います。
反論するわけでも興奮するわけでも戸惑うわけでも悲しむわけでもなく、ただ「うん、うん」と娘さんの感情にうなづいてあげることが一番、大切なことだと思います。
だって、もう起きてしまったことです。いまさらどうにもならないのです。過去を責めても、悔やんでも、後悔しても、何も始まりません。
ただ、過去の衝撃をひきずる感情を、ゆっくりとなでてあげるだけなのです。
花さん。本当に素敵な娘さんだと思います。娘さんの衝撃は、花さんが寄り添っていけば、ゆっくりと、薄れていくのではないかと思います。あと何年かかるか分かりませんが、やがて娘さんが大人になり「私は母さんと違って、パートナーを見る目があるから」「私だってあると思ったのよ」なんて軽口をたたきあう日がきっと来ると思います。
それまで、そっと娘さんに寄り添うことをお勧めします。
『鴻上尚史の具体的で実行可能!な ほがらか人生相談』(鴻上尚史著/朝日新聞出版)
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