「多い・少ない」がわかるのは新生児から 算数の力につながる“サビタイジング“とは?

鹿子木康弘

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赤ちゃんには「多い・少ない」を直感的に見分ける力が備わっているってご存じですか?
この力は「サビタイジング」と呼ばれ、将来の算数力にもつながるとも言われています。

そんなサビタイジングをテーマにうまれたのが、絵本『おおい すくない どっち どっち?』(PHP研究所)。認知発達の研究者である鹿子木康弘先生に、絵本の制作秘話や、「頭のいい子の育て方」についてお話を伺いました。

驚きの能力「サビタイジング」って?

――絵本『おおい すくない どっち どっち?』ができた経緯を教えてください。

編集部から「1、2歳向けのエビデンスのある絵本を作りたい」というお話をいただき、どんなものが良いだろうかといろいろ考えまして。

僕は認知発達の研究者なので、「1歳や2歳の子どもでも理解できるような認知課題って何だろう?」と考えました。それに加えて、世間の関心が高い「学力」につながる要素があるといいなと思い、「サビタイジング」というテーマを思いつきました。

視覚的にもわかりやすいですし、カラフルに表現することも可能です。丸い数や模様など、絵本向きの要素も多いと思って、提案させていただきました。

――今回の絵本のテーマ「サビタイジング」とは、どういうものですか?

「サビタイジング」は、数を直感的に理解する能力で、主に数の大小を区別することによって計測されます。

例えば少ない数と多い数が並んでいたときに、それを見て区別できるかどうか、といった手続きが用いられます。

この能力は、新生児からすでに見られることが、研究でわかっています。人間だけでなく、チンパンジーのような霊長類にも見られますし、ヒヨコや魚にもあるといわれています。

ただ、ヒヨコや魚の能力が人間とまったく同じかどうかについては、まだ議論があります。似たような性質を持っているのではないか、という話ですね。

――たとえば、食べ物を探すときに多いほうを選ぶ、といったようなことですか?

まさにそうです。数の大小を理解することは、生き残るために有利になる、つまり「適応的な能力」なんです。

魚にとっては、大きい群れの中にいた方が安全だったり、エサが多い方を選んだ方が得だったりします。ヒヨコでもそうで、そうした比較ができると、生存に有利に働くわけです。

サビタイジング能力が高い子は、算数能力も高い

――子どもが「数を数える」ようになるのは3~4歳だと聞いたことがありますが、サビタイジングのような能力と、「数を数える」「計算する」ような力とは、関係があるんでしょうか?

はい、いくつかの研究で関係が示されています。

赤ちゃんの時点での大小関係の理解、つまり「弁別能力」には個人差があるんですね。ある赤ちゃんはとてもよく区別できるし、別の赤ちゃんはあまりできない。そういった違いを、ある程度測ることができます。

その赤ちゃんたちが、4〜5歳の就学前になったときに、一般的な算数の力、たとえば数の理解や計算能力などを調べてみると、赤ちゃんの頃にサビタイジング能力が高かった子ほど、算数能力も高いという傾向が見られるんです。

――つまり、算数の力の基礎になっているということでしょうか?

そうですね。一般的な算数能力の基盤になっているということは、かなりはっきりと言えると思います。

「頭のいい子」を育てるには

――少し話がずれますが、「頭の良い子」を育てるために、赤ちゃんのうちからできることはありますか?

知能に関しては「遺伝」と「環境」がだいたい50:50と言われています。つまり、親の遺伝も影響しますが、それと同じくらい「どんな環境で育つか」も重要です。
言語・数学・創造性など知能は様々な分野に分かれていて、それぞれに環境の影響が強く出ることもあります。

たとえば、勉強の機会を多く与える環境にいれば、それだけ知能も伸びる可能性がある。だから、教育的な努力には大きな意味があるんです。

――たとえば、赤ちゃんのころから英語のDVDをたくさん見せる、といったことに効果はあるのでしょうか?

基本的に、効果は弱いです。
赤ちゃんは、画面から学ぶ力がとても弱いんです。これは「ビデオ・デフィシット」と呼ばれていて、だいたい2歳くらいからようやく映像でも学習できるようになりますが、それでも限界があります。

一方で、養育者が画面を一緒に見ながら指差したり話しかけたりする場合は効果が出やすい。つまり、 インタラクティブなやりとりがあると、同じ教材でも学習が進むんです。

これはテレビ画面に限らず、絵本などでも同じですね。親子で一緒に読むことで、知識だけじゃなく、感情の共有や対話の土台も育っていきます。

最初からできなくてもOK

――絵本を手に取った方に、メッセージをお願いします。

この絵本は、問題の難易度を段階的に上げていく構成にしています。
絵本の後半は、1歳だとまだ難しいと思います。

赤ちゃんは数の感覚に限界があって、たとえば「1対2」くらいのはっきりした差であれば区別できますが、「4対3」くらいになるとわからなくなります。でも、年齢が上がるにつれ、数が多くなっても、また違いが微妙になっても、直観的に数の大小を判断できるようになるんです。

絵本は「1歳から」としていますが、これは「すべての問題が解けなくても、1歳から読み始められる」という意味です。なので、できなくても気にする必要はありません。基本的には保護者の方が読み聞かせながら、子どもと一緒に楽しんでもらえたらと思います。

(取材・文:nobico編集部)

おおいすくないどっちどっち?

鹿子木康弘『おおい すくない どっち どっち?』(PHP研究所)

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