実は発達障害じゃないかも…近年急増している「発達障害もどき」の正体

成田奈緒子

発達障害の子どもへの理解が進みつつある教育現場。その一方で、園や学校の先生が発達障害を疑ったものの、実際にはそうではなかったというケースも増えているといいます。

発達障害のようで、実は発達障害ではない…そんな「発達障害もどき」の正体とは?
医師・成田奈緒子先生の解説を、著書より抜粋してご紹介します。

※本書は、成田奈緒子(著)このえまる (イラスト)『マンガでわかる! 「発達障害」と間違われる子どもたち』(青春出版)より一部抜粋、編集したものです。

臨床現場から見えてきた「発達障害もどき」という存在

発達障害という言葉が広まり、教育現場にも浸透した結果、教師が「発達障害のカテゴリーに入ると思われる子どもたち」を見つける機会が増えました。

しかし、「発達障害ではないか?」と学校から指摘を受けて、私のところに相談に来る方々の中には、医学的には診断がつかないケースも多く存在します。

私はこのような例を「発達障害もどき」と呼んでいます。

発達障害もどきとは何か――。大まかに言うと、「発達障害の診断がつかないのに、発達障害と見分けのつかない症候を示している状態」を指します。

ご注意いただきたいのですが「発達障害もどき」は、診断名ではありません。私が診療を通して出会った子どもたちの症候を見る中でつくった言葉です。

周りから見ると言動に発達障害と同様の症候がある。そのため、教育現場で発達障害を疑われる。その言動のために子どもたち自身もとても困っていて、親御さんも悩み苦しんでいる。だが、実際は発達障害ではないというケースが、発達障害もどきの代表例と言えるでしょう。

発達障害もどきは、次の3つのカテゴリーに分けられます。

(1)診断はつけられないが、発達障害の症候を見せるもの

発達障害は「先天的な脳の機能障害」と定義されるため、診断のためには「生まれたときからの生育歴」を聞き、それを診断基準に照らし合わせる必要があります。しかし、生育歴にまったく問題はなくても(診断基準に当てはまらなくても)あたかも「発達障害のような」行動が見られる子どもがいます。 

これが1つめの発達障害もどきで、特に小学校入学前までの幼児期に多く見られます。

電子機器の多用や生活リズムの乱れなど、なんらかの原因で、幼児期に育つべき原始的な脳の発達が遅れ、脳機能のバランスが崩れると起こると考えられます。

【事例】生活を変えたら、言動が変わったA君

就学前検診で落ち着きのなさを指摘されたA君。通っていた幼稚園でも何度かトラブルがあり、心配したA君の親御さんが、私の主宰する子育て科学アクシスに相談にいらっしゃいました。

親御さんによく話を伺うと、A君の家は家族そろって夜型の生活をしていて、まだ6歳のA君の就寝時刻が夜中の1時頃になることも少なくないとのこと。家族皆で映画を見たり、兄弟でゲームをしたりして、夜の時間を楽しんでいるうちに、ずるずると寝るのが遅くなっていることが多かったのです。

このように生活リズムが乱れていると、脳の発達バランスが崩れ、落ち着きのなさや周囲への暴言など、発達障害に似た症候が現れることがあります。私は、親御さんに「生活改善」の提案をし、家族全員で朝型生活に切り替えてもらうことにしました。朝6時には起き、夜9時には寝る生活にしたところ、A君の言動は少しずつ変わりました。これまであった友達トラブルもなくなり、日中も落ち着いて過ごせるようになったのです。

このA君はまさに、生活リズムの乱れからくる発達障害もどきだったと言えます。

(2)医師以外から「プレ診断」を受けるもの

最近では、普段子どもを見てくれている学校の先生、保育士さん、幼稚園の先生から「お子さんは、発達障害では」と、「プレ診断」を受けるケースが増えています。

このケースも、発達障害もどきのひとつです。

あえてプレ診断と書いたのは、本来、発達障害と診断できるのは、免許を持った医師だけだから。

特別支援教育の重要性が広まり、学校現場や保育園などで発達障害に関する研修が充実しています。多くの方が発達障害に関する知識を持つようになった結果、こうしたケースが増加しているように感じられるのです。

「普段、子どもを見ている先生が言っているのだから……」と、プレ診断を受けただけで「この子は発達障害」「この子はグレーゾーン」と、決めつけるのはやめましょう。いったん先生方の言葉を受け止め、冷静に子どもと向き合います。

また、「プレ診断をする先生たち=敵」では、当然ありません。

先生方も悩み考えた結果、「お子さんは、発達障害かもしれません」と親御さんに伝えています。

子どもにむやみやたらにレッテルをはりたいわけでなく、「可能性がある」と伝えることで、子どもの生活をよいものにしたいと思っている――。子どものことを考えての言葉だということは忘れないでくださいね。

(3)発達障害の診断をしたものの症候が薄くなるもの

「発達障害の診断がついていたにもかかわらず、その後、症候が薄くなったケース」。これも、発達障害もどきと本記事では定義します。

このケースは、私の診た子どもたちの中で実際に起きているのですが、基準に照らし合わせて診断をつけた子でも、その後の生活改善により、症候が目立たなくなることがあるのです。

【事例】中学生で症候が薄まったS君

S君がはじめてアクシスに来たのは小学生のときのこと。小学生になっても言葉がスムーズに出ず、コミュニケーションがうまくいかないストレスから、周囲に暴言や暴力が出ていました。

S君は、生育歴から見ても、発達障害の診断がつく男の子でした。幼少期の様子を伺うと、言葉の出が遅い、歩くようになったのは早いけれど「ハイハイ」する時期がまったくなかった、かかとをつけずにいつもつま先立ちで歩く、物の置き方や行動の順番にこだわりがあるなどの症候があったとのこと。

ただ、話をよく聞くと、S君もS君の親御さんも皆寝る時刻が遅く、生活リズムが乱れていることがわかりました。

そこで、S君に対しても、まず生活を変えることから始めてもらったのです。生活改善の結果、わずか半年でS君の気になる行動は徐々に消えていきました。

中学生になったS君には、気になる症候はほとんど見受けられません。朝5時に起床し、短い散歩をしてから朝ごはんをもりもり食べ、朝早くから学校に行き、自主的に勉強をする中学生になったそうです。この状態のS君なら、学校などで「発達障害かも」と疑われることがないので、一生医師に相談することもなく過ごしてしまえたかもしれません。 

これが「発達障害だけど発達障害を表に出さなくていい」発達障害もどきのタイプです。

増えているのは発達障害ではなく、「もどき」かもしれない

紹介した3つのカテゴリーの多くに共通しているのが「広い意味で環境が整っていない」ということ。

環境が整っていないことで、幼児期に育つはずの子どもの原始的な脳が育たず、学校や保育園で問題行動を起こしてしまうのです。

家事、育児、仕事……と、現代のお母さん、お父さんは忙しい毎日を送っています。仕事の都合で、ライフスタイルが夜型になることも多いでしょう。

また、忙しいのは親だけではありません。

小さな頃からいくつも習い事をし、夜遅くに家に帰ってくる「忙しい子」もいます。

こうした暮らしの中で、生活リズムが乱れ、睡眠時間が減っている子が増えていますが、このような子には、往々にして発達障害に似た症候が見られるのです。

実際、私のところに相談に来る子どもの中にも、発達障害を疑われていたけれど、実は「発達障害もどき」だったという子が増えています。

この発達障害もどきの増加は、文科省の調査で出た「発達障害の可能性がある子が8・8%いる」という結果にも、少なからず影響しているのではないでしょうか。

マンガでわかる! 「発達障害」と間違われる子どもたち

成田奈緒子(著)このえまる (イラスト)『マンガでわかる! 「発達障害」と間違われる子どもたち』(青春出版)

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発達障害と呼ばれる子どもが劇的に増えています。文科省によると発達障害が疑われる子は、この13年で約10倍に。ただ、子どもの脳・育ちに向き合ってきた著者は、増えているのは発達障害ではなく「発達障害もどき」ではないかと話します。発達障害もどきとは一体何か、発達障害もどきから抜け出すにはどうすればいいのか――。
35年以上の臨床経験をもつ小児科医が 増え続ける発達障害児の中にいる「発達障害もどき」について解説します。

マンガと図解でわかりやすい! 「発達障害もどき」とは何か、発達障害もどきかもと思ったとき、周囲の大人が何をすればいいのかがよくわかる一冊。