「勉強したい人」にしか効果がない? オンライン指導の落とし穴とは

西岡壱誠

コロナ禍を経て増えてきた「オンラインコーチング」。対面で勉強を教えるのではなく、生徒ごとに「こういう勉強をしよう」という学習プランを提示して、オンライン上でコミュニケーションを取りながら実行してもらう塾の形態です。実際に生徒に対してコーチングをした経験を持つ西岡壱誠氏は、オンラインコーチングがうまくいく生徒とうまくいかない生徒がはっきり分かれるといいます。

なぜ、「勉強したい」と思っている人にしかオンラインコーチングがハマらないのでしょうか? 西岡壱誠著『オンライン教育で日本はどう変わるのか?』から紹介します。


※本稿は、『オンライン教育で日本はどう変わるのか?』(西岡壱誠/講談社)から一部抜粋・編集したものです。

生徒のモチベーションがないとオンラインコーチングの効果は出にくい

実際に僕もオンラインコーチング事業を手伝ったことがあり、生徒に対してコーチングをしたこともあるのですが、うまくいく生徒とうまくいかない生徒がはっきり分かれる印象があります。

東海地方にある学校の生徒たち数名に対して勉強のコーチングをする、という機会をいただいたこともあります。偏差値帯はそこまで高くない生徒たちへのコーチングだったのですが、僕が「どう、勉強してる?」とチャットで質問してもスルーされてしまったり、私生活で嫌なことがあるとそもそもチャットを見なかったりする、という生徒が多かったです。オンラインでの面談をしようとしても、そもそも日程調整に応じてくれなかったり、直前になって「やっぱりちょっと今日は難しいです」と連絡が来たりすることもあります。

対面でコミュニケーションを取ると、こういうことはあまり起こりません。学校で先生から話しかけられてスルーする生徒なんていないですよね。面談をしようとしたら、すぐに会話ができると思います。しかし、オンラインだとこういう「スルー」が発生してしまい、そもそもコーチングをするのが難しい、という事態すら生まれます。

「勉強したい」と思っている人にしか、オンラインコーチングはハマらない

なぜこんなことになってしまうのかと言えば、そもそも「勉強したい」と思っている人にしか、オンラインコーチングはハマらないんですよね。だって、学校の宿題すら「やりたくないな」と提出しない子たちが、コーチから「成績を上げるためにこの勉強をやってみよう!」と言われたとしても、実行には移せないですよね。

そして、オンラインだと強制力が持たせにくいです。「これを1時間勉強した方がいいね!」と言われただけで「わかりました、やります!」とガンガン進められる人であればオンラインコーチングだけで成績が伸びますが、しかし多くの人は「えー、やりたくないよ」という反応をします。それは高校3年生であっても、行きたい大学が明確にある人であっても、同じです。オフラインの学校であれば「お前は補習だ」と言って生徒を教室に連れてきて授業を受けさせたり、自習を監督したりすることができますが、オンラインだとそうはいきません。

ただし、最近は「何時から何時までオンライン自習室を開くよ」と生徒たちに声を掛けて、Zoomでつなぎながら勉強してもらう「オンライン自習室」による学習スタイルも増えてきました。この方法なら一定程度は強制力を持たせることができると考えられます。しかしそれでも、そもそもオンライン自習室に来ない生徒もいるので、限界があります。

会ったこともないコーチは、チャットボットやAIと同じ?

ちなみに僕は、オンラインコーチングだけでなかなか勉強してもらえなかったとき、実際に学校にお邪魔することにしました。生徒を集めて、「自分がコーチの西岡だよ。みんなはどこの大学に行きたいの?」と呼びかけ、「みんなでいい大学行こうぜ! 君たち、僕の話をしっかり聞いてくれればこういう大学に行けるかもしれないんだよ!」とモチベーションの上がることを話し、コーチングを受ける心の準備を生徒にしてもらった上で、「じゃあ続きはオンラインね」とオンラインでのコーチングに戻りました。こうするとかなりチャットが返ってくるようになって、一気にコーチングがしやすくなりました。

そのとき驚いたのは、「西岡さんって、本当に実在したんですね」と言われたことでした。チャットボットやAIだと思っていた、と言うのです。よく考えてみると、そもそも生徒からしたら、会ったこともない、どこに住んでいるかもわからないようなコーチからチャットが届いて話しかけられても、ボットやAIから連絡が来ているのと同じような感覚になってしまうのも仕方がないですよね。だから、スルーしても傷付かない相手だと思い込んでしまうわけです。こうなると確かにスルーしてしまいやすいですよね。

完全オンラインだと、コーチとの信頼関係が作りにくいどころか、そもそも相手を人間だと思えない場合すらあるというのは、難しいところではあります。

オンライン教育で日本はどう変わるのか?

オンライン教育で日本はどう変わるのか?』(西岡壱誠/講談社)

コロナ禍を機に広まった「オンライン教育」は現在、中高・予備校・大学での学びを革新しつつあります。既に全国290万人の高校生のうち30万人が通信制高校に通ってオンライン主体の学習を行っており、近い将来には3人に1人がオンライン通学する社会が訪れると予想されています。しかし、そんなオンライン教育革命の実態は関係者以外にあまり知られていません。そこで、多数の学校に携わる教育ベンチャーを経営する著者が、通信制高校の仕組みから動画授業やオンラインコーチングのメリットとデメリット、オンライン教育時代の社会変化まで包括的に論じた、オンライン教育のすすめが本書です。