ギフテッドが「IQが高いのに上手くいかない」理由は? 周囲の大人が知っておきたい困りごと

宮尾益知 (監修)

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IQが高いのに、なぜか学校や社会でうまくいかないギフテッドの子どもたち。その理由は脳の特性や感情のコントロールの難しさにあります。高いIQや才能だけでは解決できない困りごとを知り、周囲の大人が適切に理解し支援することが大切です。

本稿では、ギフテッド児が抱える困りごとの特徴を、小児精神神経科医・宮尾益知先生の著書より抜粋してご紹介します。

※本稿は、宮尾益知 (監修)『ギフテッドの子を正しく理解し、個性を生かす本』(大和出版)より一部抜粋、編集したものです。

完璧主義と飽きっぽさ。学習経験が積み上がらない

一般に高いIQや才能は社会で有利と考えられがちです。しかし、ギフテッド児の場合、飛び抜けて優秀なのに必ずしもうまくいきません。

秀でているのになぜうまくいかないのか?

うまくいかない理由のひとつはギフテッドの脳の特性にあります。ギフテッド児は、知識を得ることは得意でも、作業に必要なことを一時的に記憶するワーキングメモリや、処理速度の能力が低いなどのアンバランスさがあります。そのため能力を発揮できないことが多いのです。

また、才能はあっても、その才能を開花させるには、経験や訓練などの努力が必要です。

ところがギフテッド児は、コツコツと同じことをくり返すといった地道な努力や鍛錬が苦手です。

さらにギフテッド児は自分よりはるかに能力が低い人たちと行動することにストレスを感じます。IQ130程度まで(2SD未満)ならなんとか周囲と調和できますが、IQ145を超える(3SD以上)と周囲とのギャップが大きすぎるので調和は難しいと考えられています。フラストレーションで感情を爆発させ、問題児扱いされてしまいます。

失敗がイヤ。失敗するなら最初からやらない

ギフテッド児の才能を開花させるには「3つの輪」が必要だとされています。3つとは「高い知能(平均以上の知能)」に加えて「創造性」「課題へのコミットメント(やり抜く力)」です。

この3つをそろえることは容易なことではありません。たとえば「創造性」を育むには柔軟な思考や積極的なチャレンジが不可欠ですが、ギフテッド児は完璧主義で失敗を極端にいやがります。苦手なことは最初からやらない。失敗しながら経験を積み上げていくことが難しいのです。

また、ギフテッド児はわずかな反復学習でなにをどうすればいいのかわかってしまいます。

でも、すぐ飽きるのです。漢字書き取りなどなぜ反復しなくてはいけないのか理解できず、学習習慣が身につきません。モチベーションの維持が困難で、ひとつの課題をやり抜くことができないのです。

自分の激しい感情を抑制することができない

ギフテッド児が学習習慣を積み上げられない大きな原因に「過度激動(OE)」という特性があります。過度激動とは、環境からの刺激に対する感受性が非常に高いために生じる強い反応で、ポーランドの精神科医カジミェシュ・ドンブロフスキによって提唱されました。

過度激動は「精神運動性過度激動」「感覚性過度激動」「想像性過度激動」「知性過度激動」「情動性過度激動」の5つに分類されます。ひとりのなかに1ないし複数の過度激動が見られます(5つすべての過度激動が生じることは少ない)。

過度激動はギフテッドを理解するうえで非常に重要な特性です。ギフテッド特有の旺盛な好奇心や豊かな想像力などの強みだけでなく、衝動性や落ち着きのなさ、社会性・共感能力の低さなどの「困りごと」にも強く影響しているからです。周囲の大人は本人がどのような過度激動で苦しんでいるのか、理解を深め、適切な支援につなげる必要があります。

5つの過度激動

つねに動き回りたい 精神運動性過度激動

精神運動性過度激動が高い子は非常に活動的でエネルギッシュです。一時もじっとしていることができず、つねに部屋を歩き回ったりしゃべり続けたりしています。ひとつのことに集中できず、思いついたことを衝動的に行動に移します。また頭の回転が速く、つねに考え続けています。

多動で落ち着きがないのでADHDと誤診されがちですが、このタイプが動き回る理由のひとつに、一般的な生活では刺激が足りない問題があります。

ひとつの課題に集中しているときは、集中を維持するために貧乏ゆすりをしたり体をピクピク動かしたりして体に刺激を与え続けることもあります。

光や音、触り心地に過敏に反応 感覚性過度激動

感覚性過度激動が高いと視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚などの感覚が非常に敏感です。幼い頃から衣服の肌ざわりや食べ物の味、におい、触感に過敏に反応します。学校では教室のざわざわした雑音や蛍光灯の点滅で疲れ切ってしまい、吐き気や頭痛が生じる子もいます。

一方、感覚性過度激動があると刺激に対する不快感だけでなく快感情も増幅されます。このため絵画や音楽などは普通の人が体験できないような強烈な感動を味わうこともできます。

低学年ぐらいまでは不快感を言語化できないためさまざまな問題が生じます。周囲の大人が早めに気づき、刺激をやわらげる環境調整が大切です。

空想上の友だちがいる 想像性過度激動

想像性過度激動が高い子は想像力が非常に豊かです。何時間も空想の世界に没入し、ボーッとしているように見えます。

思考や発想が柔軟で創造性にあふれ、物語をつくったり絵を描いたり工作をしたりして自分の世界を楽しみます。

目に見えない空想上の友だち(イマジナリーコンパニオン=IC)と会話をする子も多く、ときには現実と空想の世界を混同します。欧米では目に見えない友だち、日本ではぬいぐるみと会話する子が多いようです。

ICと会話していると心配する親御さんもいますが、本人は好きな世界に浸り現実世界のストレスを解消しているので心配はいりません。

探究心旺盛で何時間も思索にふける 知性過度激動

知性過度激動の子はたえず知的刺激を求めています。飛び抜けて好奇心が旺盛で、知的好奇心を満たすために手当たり次第本を読んで知識を吸収します。幼い頃から論理的思考が発達し言語能力も高いので、鋭い質問を矢継ぎ早に浴びせて大人を閉口させてしまいます。

複雑な問題や難問をとくに好み、高い集中力で粘り強くとり組みますが、疲れてぼんやりしてしまうこともあります。興味のない事柄には見向きもせず、納得できる論理的理由がないと動こうとしません。

知的・言語能力が非常に早熟なので同年代の友だちとは話が合わず、周囲から浮いた存在になりがちです。

感情の影響を受けて疲れ果てる 情動性過度激動

情動性過度激動の子は感情の起伏が極端に激しく、多くの場合親が最初に気づきます。

ポジティブな感情もネガティブな感情も増幅されるので、大喜びではしゃいでいたかと思うと突然癇癪を起こすこともあります。短時間で感情が入れ替わり、周囲だけでなく自分も疲れ果ててしまいます。また不安や緊張を強く感じるので、新しい環境では不調を訴えがちです。

人、場所、物に強い感情や愛着を抱く傾向もあります。他者への共感や同情が強く、人に対して過度な責任感をもちます。大人になると理想や社会的大義を掲げて行動する人も多くいます。思い通りにいかないと深く悲嘆し憤りを爆発させます。

ギフテッドの子を正しく理解し、個性を生かす本

宮尾益知 (監修)『ギフテッドの子を正しく理解し、個性を生かす本』(大和出版)

「好きなことだけしかやらない」
「すぐに癇癪を起こす」
「反抗的な態度を取る」
「まわりをバカにする」
「暴言を吐く」
親は手を焼き、先生は対応しきれず、クラスでは浮いてしまう。IQが高いのになぜ問題児になってしまうのだろう? どうしたら持てる才能を伸ばせるか?
認知脳に比べ、社会脳の発達が遅れているギフテッド児は社会の中で他人の心を想像し、自分に引きつけて考え、行動することが苦手なため、集団で協力しあって行う学習にもついていけなくなる。IQが高くても、知識を活用して考えを深め、新たなことを発見・創造するまでには至らないのだ。持てる才能の芽を摘まずに個性を伸ばしていくには、適した学びの場や親のサポートが必要なのである。
不可解で学校でも家庭でも“扱いづらい”とされる子の困難を知り、上手に寄り添い援助する法。