IQの高さだけでは生き抜けない ギフテッドの子どもが直面する「社会性の壁」とは
IQが高くても、ギフテッドの子どもたちは社会生活で思うように馴染めないことがあります。その原因は、「心の理論(ToM)」や「メンタライゼーション」「メタ認知」といった社会性の基盤となる能力の発達が遅れることにあります。
高度な知性だけではカバーできない壁を理解するための知識を、小児精神神経科医・宮尾益知先生の著書より抜粋してご紹介します。
※本稿は、宮尾益知 (監修)『ギフテッドの子を正しく理解し、個性を生かす本』(大和出版)より一部抜粋、編集したものです。
メンタライゼーションとメタ認知が能力を引き上げる
ギフテッドの才能を上手に伸ばしていくには、定型発達との違いをよく理解しておく必要があります。
ToM、メンタライゼーション、メタ認知の遅れ
定型発達の子とギフテッドや2Eの子の発達段階の違いにはいくつかのポイントがあります。それが、ToM(心の理論)、メンタライゼーション、メタ認知です。
定型発達の子の場合、通常3〜5歳になるとToMを獲得します。自己と他者という認識が生まれ、両者に同じ視点と異なる視点があることを理解し始めるのです。たとえば泣いている子を見て、自分のことをふり返り、(自分と同じように)きっとほしい物が手に入らなかったから悲しいのだろうと推測できるようになります。他者の心理状態や思考を推測する基盤がToMです。
やがて小学校に入学し、複雑な集団生活のなかでToMが発達します。自分の感情や考え方に照らしながら相手の感情や考え方に共感し、「いま相手はどんな気持ちで、なぜこのような行動をとるのか」をより深く考えられるようになります。これがメンタライゼーションです。
メンタライゼーションを獲得した子は、自分のなかに他者の視点をもてるようになります。すると自分自身を、他者の視点から客観的に見ることができるようになります。これがメタ認知です。
定型発達の子は義務教育時代の集団生活を通じて、14歳くらいまでに自然にメンタライゼーション、メタ認知を獲得していくことができます。
一方で、ギフテッドや2Eの子どもたちは、神経発達の段階の違いから、定型発達の子たちよりToMの獲得が遅れてしまうために、小学校の集団生活に乗り遅れ、クラスの仲間に入れなくなってしまうケースが多いのです。
「自己理解・他者理解」が社会性獲得の土台となる
定型発達では3〜5 歳までにToMを獲得し、自己と他者の視点を理解し、社会性が発達します。
一方ギフテッド児はToMより先に学習レディネスを獲得。ASDの子は8〜10 歳にならないとToMが獲得できません。ADHD の子は注意欠如や衝動性の高さにより、集団生活に困難が生じます。非定型発達の子たちはToM の獲得の遅れで社会性獲得も遅れるため、ToM ができているかをよく見る必要があります。
IQが高いだけでは、社会で生き抜くのは難しい
ギフテッドの子どもたちのToMが遅れるのは、同じ時期(自己主張が始まる3歳過ぎ)にToMより先に学習レディネスが発達するためです。
定型発達の子の場合、学習レディネスはToMを獲得した後の6歳頃、つまり小学校入学くらいの時期に獲得されます。自分とまわりのことがわかり、友だちの気持ちを考えられるようになってから、勉強への意欲が生まれるため、小学校の集団生活のなかで勉強することができます。
ところがギフテッド児の場合、自己主張や好き嫌いが出て来るタイミングで、知的なことにも関心が向きます。ToMの遅れから、「他者から見た自分」という視点も育ちません。自己の感情を抑制することも苦手です。知的に早熟で、高度なことは理解できるのに、他者の心の理解も自己抑制も未熟なまま、小学校入学を迎えてしまいます。小学校のクラスで、ギフテッド児に起こる数々の問題はここに起因しています。
2Eの場合も同様で、ASDやADHDを重ねてもっている子は、よりToMの獲得が遅れ、集団生活で苦労することになるのです。
IQの高さは社会で生き抜く力ではない
ギフテッドや2Eの子たちの問題は、学校で集団生活になじめないことだけに留まりません。その後獲得すべきメンタライゼーションとメタ認知がうまくいかなくなることが、最大の難点です。
なぜなら、メンタライゼーションとメタ認知が獲得できないと、自己と他者に異なる視点があることも、他者の感情や考え方を理解することも難しくなるかです。自分の言動を反省し、自己をコントロールし、社会集団のなかで適切にふるまうことができません。
いくら小学校で高IQを誇っても、幼少期の知識はたんなる情報の記憶にすぎません。大人の社会で必要とされるのは、知識をみんなのために活用するスキルです。子どもの頃のIQの高さが、社会で生き抜く力とイコールになるわけではありません。
そもそもIQとは、年齢に応じた知的発達の程度を比較するための指標で、特定の年齢集団のなかでの位置を示すものです。年齢が上がると、知識量よりも、知識をどう使うか(論理的思考・問題解決能力)や、情報をどれだけ速く正確に処理できるか(処理速度)といった面が重視されるようになります。知識量が増えるだけでは、その後のIQは伸びていかないのです。
成功している他者を参照し、自分の課題に地道にチャレンジし続けること。他者と協力し合いながら、自己実現を果たし、社会に貢献すること。これらができて初めてギフテッドの才能は花開き、社会で活躍できるようになります。これはギフテッド児がひとりでやりとげられることではありません。親御さんや周囲の大人の協力のもと、子ども時代に他者との交流経験を重ねさせてあげることが大切なのです。
宮尾益知 (監修)『ギフテッドの子を正しく理解し、個性を生かす本』(大和出版)
「好きなことだけしかやらない」
「すぐに癇癪を起こす」
「反抗的な態度を取る」
「まわりをバカにする」
「暴言を吐く」
親は手を焼き、先生は対応しきれず、クラスでは浮いてしまう。IQが高いのになぜ問題児になってしまうのだろう? どうしたら持てる才能を伸ばせるか?
認知脳に比べ、社会脳の発達が遅れているギフテッド児は社会の中で他人の心を想像し、自分に引きつけて考え、行動することが苦手なため、集団で協力しあって行う学習にもついていけなくなる。IQが高くても、知識を活用して考えを深め、新たなことを発見・創造するまでには至らないのだ。持てる才能の芽を摘まずに個性を伸ばしていくには、適した学びの場や親のサポートが必要なのである。
不可解で学校でも家庭でも“扱いづらい”とされる子の困難を知り、上手に寄り添い援助する法。