勉強は人生の役に立つ!「勉強する意味が分からない」中高生に元花王の校長が贈る言葉
何のために勉強するのかわからない…そんな中高生にぜひ届けたいのが、花王の部長職から県立中高一貫校の校長先生に転身した生井秀一さんの言葉。生井さんが語る、勉強で身につく「ポータブルスキル」と「アントレプレナーシップ」とは?
『13歳からのアントレプレナーシップ』より、勉強する意味を見出せなくなったとき、思い出してほしい考え方について紹介します。
※本稿は生井秀一著『13歳からのアントレプレナーシップ』(かんき出版)から一部抜粋・編集したものです。
勉強することで培われる「スキル」
きみたちはなにをしている時間が多いかな?
「勉強」という暗い声が聞こえてきそうだ。受験をひかえて、不安になっている人もいるかもしれない。
勉強で知識を身につけることは必要なことだけれど、僕は今の「学び」の比率はバランスが悪いように感じている。
僕が校長をしている下妻第一高等学校はおよそ9割の時間をインプット型の勉強に使っています。授業もみっちり入っているし、宿題も大量に出るし、夏休みなどの長期休暇も補習がある。自分に残された時間はたった1割もないくらい。
下妻一高の生徒たちはとても真面目で、一生懸命に勉強をします。きっとこの本を読んでくれているきみたちも、そういう子が多いんじゃないかな?
5教科7科目を勉強して難関大学に受かっていく子もたくさんいます。これは生徒たちの頑張りの成果なので、とても素晴らしいことです。でも、僕が本当の意味で評価しているのは教科の力ではなく、生徒たちがそうやって努力して勉強することで培った「ポータブルスキル」です。
ポータブルスキルとは、会社や仕事、職種などが変わっても持ち運びができるスキルのこと。受験の際には、逆境に負けず、自分の弱点はどこかを分析して課題に立ち向かったり粘り強く学び続けたりするはずです。この経験によって、この先大学に入学したりしたあとも、なにか叶えたい目標ができたときに応用できる「ポータブルスキル」を培います。もちろん、受験以外にも部活動や行事、地域の活動、留学経験など、さまざまな機会でポータブルスキルは磨かれていきます。
こうしたポータブルスキルによって構成されるのが、アントレプレナーシップです。
アントレプレナーシップとは、「逆境に負けず立ち向かう力」だと僕は考えています。
どんな状況でどんな目標を設定したとしても、必ず壁や谷はあります。
例えば、志望校合格に向けて受験勉強をするとき、模試の成績で偏差値が足りていなければ必死で学ぶはず。でも、動画を観たい誘惑に駆られるかもしれないし、先に合格した同級生を羨ましく感じて集中できなくなることもあるかもしれない。
あるいは、文化祭で出し物をしたいのに、まったくクラスの意見がまとまらない。どんどん準備の時間がなくなってしまう。準備に参加してくれるクラスメイトがとても少ない……。
「これを成し遂げたい」と目標を持つと、それを邪魔するものが必ずいくつも出てきます。それでも大波や小波の舵を自分でとりながら、諦めずに、さまざまな人の力も借りて乗り越えていくことがアントレプレナーシップなのです。
勉強のゴールは「合格」ではなく、「人生に必要なこと」
もし、きみが「人からいわれた仕事をずっとやり続けるだけでいい」と思うならば、アントレプレナーシップは必要ありません。
逆にいうと、アントレプレナーシップを持っていないと、「指示待ち人間」になってしまいます。指示されたことはそつなくこなすけれど、自分で考えて行動することはできない。
そうなると、時代や環境の変化に自力で立ち向かうことができず、ただ周囲に身を任せていくことになります。そして次第に、自分の人生の選択肢がとんでもなく狭まってしまう。もっというと、アントレプレナーシップがない人は、どんどん自分にとってつまらない仕事を選ばざるを得なくなってしまうと思います。
これからの未来は、よりいっそうAIやデジタル技術が進んでいきます。きみたちも、ルーティン業務はAIにとって代わられていくことを何度も聞かされているんじゃないかな?
でも僕は、テクノロジーの進化で「仕事がなくなる!」と怯える必要はないと思っています。もし脅す大人がいても、ひるむ必要はないよ。
人間にしかできない仕事は、課題を設定して価値を生み出すことです。しかし、それを行っていくためには勇気もいるし、行動力もいるし、誰かの力を借りる必要があるし、負けない気持ちが不可欠です。それこそがアントレプレナーシップです。そして、アントレプレナーになれば、どんな社会になっても自分で人生を切り拓くことができる。
ここではアントレプレナーシップの必要性を感じてもらう話をしましょう。
高校生のみんなは大学受験をどんなふうに考えている? 中学生は高校受験に置き換えて考えてみてほしい。
白状すると、僕はまったく勉強ができるタイプではありませんでした。でも、大学受験はそんなに苦ではなかったんです。というのも、自分のために必要なことだと思っていたから。今、振り返ると、自分が思い描いたキャリアを実現するためには避けて通れない道だと理解していたのだと思います。
それからも、eコマースの担当者になったときに、必要だからマーケティングや業界の専門知識を勉強しました。今も、必要だから学校現場のことを一生懸命学んでいます。逆に、「必要でない」と思っていることに対して、人は身が入らないものです。
現在は、大学入試の中で総合型選抜という形式が広がっています。総合型選抜は、ペーパーテストの点数だけで評価せず、受験生の学ぶ力を総合的に判断し、大学が掲げる「求める学生像」などを示した「アドミッション・ポリシー」に合致しているかを判断する選抜方式です。
例えば、「総合的な探究の時間」においてどんな研究をしたかや、小論文、プレゼンテーションの力などが問われます。学校や塾でもこういった情報は教えてもらえると思いますが、自分から「こういう入試になっているから、自分はこんな対策をしよう」「この大学はこんな生徒を求めている」と情報収集し、覚悟して挑む生徒はとても強いです。自分の手で、「必要とすること」を明らかにしていくのです。そういった信念は間違いなく、面接でも伝わると思うのです。
また、ここまで腹を括っていると、大学に入ってからも「こんなことを学びたい」「ここに時間を使いたい」といった志を実現することができるでしょう。より充実した大学生活を送っていけるんです。
多くの高校生は、大学受験がゴールになってしまいがちです。しかし、そこはあくまで通過点にすぎないんです。むしろ、入学してからが勝負。
入学の手前の段階で、いかにアントレプレナーシップを育みながら、前進していけるか。それが高校卒業以降の充実度にもつながっていくんです。
生井秀一著『13歳からのアントレプレナーシップ』(かんき出版)
「これからの時代の”必修科目”
アントレプレナーシップを身につけて、未来にはばたいていこう!」
── 武蔵野大学アントレプレナーシップ学部 学部長 伊藤羊一
「アントレプレナーシップ教育が日本を変えるかもしれない。
中高生はもちろん、大人にも読んでほしい一冊。」
── アサヒビール代表取締役社長 松山一雄
「アントレプレナーシップ」=「起業家精神」と聞いて、「自分には起業なんてできないし関係ない」と身構えてしまっていませんか?
周囲とうまく強調しながら、困難にぶつかってもしなやかに乗り越え、自分のキャリアや目標を達成する。アントレプレナーシップは、自らビジネスを起こす人はもちろん、企業や自治体といった組織の中でも存分に輝き、求められている能力です。
この能力を中高生のうちに身につけておくことで、「自分の人生は自分で豊かにし、どんな組織に身を置いても価値を生み出せる人」になることができます。
本書の著者は、花王でDX推進部長を務めたのち、茨城県の県立下妻第一高等学校・附属中学校の校長としてアントレプレナーシップ教育を社会に広げている生井秀一氏。
水戸の営業支店から始まった花王人生、そして民間人校長へ転身したキャリアを通じ、「すべての人が自分の人生を自分らしく切り拓いていくために不可欠な力」=アントレプレナーシップの身につけ方をお伝えします。