5歳で海外教育移住はあり? 専門家が語る「教育の先走り」の落とし穴

陰山英男, 小河園子

この記事の画像(1枚)

子どもの学びを少しでも早く進めたい。そんな想いから、積極的に「先取り学習」を進める家庭も多くあります。しかし、専門家の陰山英男先生によると、「先取りすることが目的化したら失敗」するのだそう。

陰山先生、小河園子先生がおすすめする、理想の勉強の進め方とは?
お二人の対談をご紹介します。

先取り学習の落とし穴


――世の中的には先取り学習が盛んですが、こうした風潮をどうお考えですか?

陰山:まず言えるのは文科省のカリキュラムに従う理由はまったくないです。最低限の目安みたいなものです。

小河:そういう意味でもおうち学習は子どもが行きたいところまでどんどん行けるからいいんですよね。

陰山:そうなんです。もっと勉強したい子どもにとって飛び級制度のない日本の学校って罰ゲームでしかないです。だから自分のやりたいことを自分のペースでやれるN高みたいな新しい学校が人気なんだと思います。

ただし、私の本でも書きましたけど、先取りすることが目的化したら失敗します。理想の形は「追い越し学習」。

小河:面白い(笑)。でもたしかにそうかもしれない。

陰山:高速道路で左車線を運転しているときに前方に車がいて、「ああ、もうこれ以上ゆっくり走れない。もっとスピード出せるし、出したい」と思ったら、車線変更して右から追い越しますよね。そんなイメージです。

基礎がしっかりできていて、目の前の勉強に満足しなくなって、子ども自らレベルの高いものを求めだす。これが追い越し学習なんですね。ところが先取り学習というと「同級生よりも少しでも先に行っていたら得するだろう」という損得勘定がベースにあって、主に親御さんや塾の先生が押し付けるものなんです。

小河:基礎は大事ですからね。

陰山:めちゃくちゃ大事です。もっというと中学、高校で飛躍的に伸びる子どもって小学校の基礎がしっかりできているんです。

そういえばこの前Xで、私のドリルのユーザーさんが「うちの子どもは基礎ができてから先取りさせます」みたいな投稿をされていて、ほかのユーザーさんたちが「それだとまだまだじゃないですか」って突っ込んでいて、我ながらすごいコミュニティだなと思ったんですけど(笑)、ようは基礎をみっちり身に付けるって意外と大変。そこは注意してほしいかなと思いますね。

「5歳で海外教育移住」はおすすめする?

――海外への教育移住という選択はどうお考えですか?

小河:このネタは炎上しやすいんですよね(笑)。実はこの前もSNS経由で「5歳で海外教育移住するのはどうですか?」と質問されたんです。おばあちゃんと話せればいいくらいに日本語を割り切る覚悟があるならいいかもしれないですけど、あまりおすすめしないですよね。

陰山:早すぎますね。

小河:私もそう思います。せっかく日本語が話せるならその土台をまずしっかり築いてあげたほうがいいかなと。

世界で通用するような英語を本気で身に付けたいなら13歳からでも決して遅くないと思うんです。そういう教え子をたくさん見てきたので。ただし「英語の音」と「英語に対する慣れ」だけは早めに助走をつけたほうがいいよ、という話なんですね。

陰山:人が物事を考えるときも得意な言語で論理を組み立ててから翻訳する形になりますからね。

小河:でしょう。もちろん勘のいい子は13歳のラインを早くに追い越して、8歳、9歳でできる子もいます。でもそういう子どもたちも一定のところまで行くと壁にぶつかってだいたい伸び悩むんです。その壁とは、日本語の概念層。

陰山:その通りですね。

小河:たとえば「責任」「義務」といった日本語がありますけど、こういった概念的な話が増えるのが英検2級からなんです。準2級までなら小学生でも普通に取れるんです。でもそれ以上は日本語の土台ができていないと難しい。

私もそのことに気づいてからは、子どもの日本語力がちゃんと高まったタイミングでそれらの英単語をもう一度ぶつける指導に変えました。すると面白いようにすんなり頭に入るんですよ。早めに海外に行きたい気持ちはわからないでもないんですけど、実はそこまで焦らなくてもいいかなと思うんです。

自分に価値があれば英語は下手でも大丈夫

陰山:そもそもビジネスにせよアカデミックにせよ、海外で通用する人材になるには中身というか、それなりの専門性や尖った武器を持っておかないといけないですよね。英語はペラペラだけど中身もペラペラだと、ちょっとね。

小河:本当にそうなんです。私の本では日本を飛び出した卒業生の例をいろいろ紹介しているんですけど、たまたま全員理系なんですね。文系の子で留学した子もいるけれども、目に見える形が帰ってくる子って理系なんです。で、そういう子たちの話を聞いていると、どうやら世界と勝負したくなるらしいんです。

陰山:なるほど。

小河:先生がおっしゃるように自分の専門領域があるから全然怖くないし、英語が多少ハンデでも気にならないって。

ちなみに私の息子、おうち英語を経験していますけど、自由放任にやらせた部分があるので発音はそこまで良くないんです。でもね、息子は海外企業とやり取りするとき相手に対して「僕の英語をわかってね」って言うんですって。「僕と商売するなら僕の英語を聞き取ってね。それはあなたたちに求められている能力でしょう?」と。そのくらいの気合で(笑)

陰山:恰好いい。そのぐらいの姿勢がいいのかもしれませんね。

●陰山英男
1958年兵庫県生まれ。岡山大学法学部卒。兵庫県朝来町立(現朝来市立)山口小学校教師時代から、反復学習や規則正しい生活習慣の定着で基礎学力の向上を目指す「隂山メソッド」を確立し、脚光を浴びる。
2003年4月尾道市立土堂小学校校長に全国公募により就任。百ます計算や漢字練習の反復学習を続け基礎学力の向上に取り組む一方、そろばん指導やICT機器の活用など新旧を問わず積極的に導入する教育法によって子どもたちの学力向上を実現している。過去、文部科学省中央教育審議会教育課程部会委員、内閣官房教育再生会議委員、大阪府教育委員会委員長などを歴任。2006年4月から2016年まで、立命館大学教授。現在、陰山ラボ代表。陰山メソッド普及のため教育クリエイターとして活躍し、講演会等を実施するほか、全国各地で教育アドバイザーなどにも就任、子どもたちの学力向上に成果をあげている。

●小河園子
聖学院大学講師(非常勤)。元埼玉県立浦和高校教諭。浦和第一女子高校、南稜高校、浦和高校、お茶の水女子大学付属高校(非常勤)など国公立の高校で教鞭をとり、40年間の英語教師生活で1万人の生徒を導いてきた。

 

陰山流 新・おうち学習戦略

陰山英男 (著)『陰山流 新・おうち学習戦略』(Gakken)

コロナ禍により学校の学びが一気にデジタル化する一方、不登校の増加など学校の指導が届かない子どもが増え、自宅での学習の在り方にも大きな変化が起きています。また、物価高や経済格差の拡大の影響で、わが子を塾に行かせる余裕もなく、やるべき学習の理想形も見えず、困り果てているご家庭がたくさんあります。
しかしそんな中、自宅で陰山メソッドを実践し、学校や塾に頼らず成績を上げる子どもたちがいます。
著者は、「これからの学習は『家庭』が担う」「子どもの学力を伸ばせるのは『家庭』の戦略と心掛け次第」と明言。戦略的な学習プランと教科別の進め方ポイントをマニュアル化し、ムダなく理解がすすむ攻略ポイントをこの一冊にまとめました。

気がつくと子どもの英語力がぐんぐん伸びている おうち英語

小河 園子 (著)『気がつくと子どもの英語力がぐんぐん伸びている おうち英語』(Gakken)

お金をかけなくてOK!留学なしでOK!親の英語力なしでOK!毎日の「ちょっとした工夫」で英語が得意な子になる!公立高校から海外一流大学に送り込んだ、伝説の英語教師がこっそり教える、自宅でできる英語力劇的アップの秘密。