中学生は「見張る」ではなく「見守る」 数学26点→89点に伸ばした親の信じる力

建部洋平

子どもが勉強が苦手にならないか、周囲に迷惑をかけたりしないか…心配な気持ちで子どもを見ている親御さんは多いでしょう。しかし、同じ「見ている」でも、子どものことを「見張る」と「見守る」では結果は大きく変わります。

数学のテストの点数を2か月で26点から89点へ伸ばした中学生の、親の「見守る」姿勢とは? 建部洋平著『第一志望合格率96.8%の塾講師が教える 中学生の成績は「親の声かけ」で9割決まる!』から紹介します。

※本稿は、『第一志望合格率96.8%の塾講師が教える 中学生の成績は「親の声かけ」で9割決まる!』(建部洋平/飛鳥新社)から一部抜粋・編集したものです。

子どもの力を信じて、数学が26点から89点にアップ

大樹(だいき)くんが塾にやって来たのは、中2の終わりごろ。初対面はごく普通の中学生の男の子という印象でした。その後、お母さんから大樹くんには少し発達障害の傾向があると教えていただきました。近年では、発達障害についてオープンに話してくださる親御さんが増えたように感じます。

私が日々意識しているのは、障害の有無に関係なく、すべての子どもに同じように向き合うことです。いいところは思い切りほめ、うまくいかないところは失敗を経験させつつも、しっかり見守る。それが、どんな子にも響き、自信や成長につながると実感しています。

発達障害は関係ない。目の前にいるきみは「すごい!」

大樹くんのこんな話を聞いたことがありました。

「先生、○○中学の大樹って、知っている? あの子、学校では授業中にふらふら歩き出したり、騒いだりして、ちょっと目立っているらしいよ」

そんな話を耳に入れても、私は何も心配していませんでした。なぜなら、大樹くんは塾の授業はちゃんと聞いていたからです。まわりの子どもたちは、「あの大樹が塾の授業をちゃんと聞いているよ」と、とても驚いていました。

初めて大樹くんと1対1で話をする機会があったとき、私は大樹くんにこう伝えました。

「学校の話は俺も聞いているけれど、俺は学校のことは知らないし、過去は過去だと思っている。だから、他の人が何を言おうと関係ない。それよりも、大樹はよくやっているよ。ちゃんと授業も聞いているし、理解も早いし、すごいなと思って見ているよ。俺は大樹はやれると信じている。大丈夫!」

それを聞いた大樹くんは、ニヤリと笑い返してくれました。

それから大樹くんは突然勉強に対してやる気を見せるようになりました。私はそこに目を向け、とことんほめ続けました。ただ、彼の特性もあり、ときどき危なっかしい行動も見られました。そんなときは「心配」する気持ちを表に出さないように心がけました。ときにはわざと目を離し、自分自身で立ち直れるように見守る。そして、少しでも前進が感じられたら、そこをすかさずほめる。

それをくり返しているうちに、塾の授業はもちろん、学校でも普通に授業が受けられるようになったのです。もちろん大樹くん自身の努力のたまものです。

この変化には、お母さんも驚き喜んでくれました。

ほめるだけじゃない。親に必要なもう1つの力

子どもをほめることは、多くの親御さんが心がけています。けれど、「ときにはわざと目を離して見守る」のはなかなか勇気がいります。それができるのは、子どもの力を信じているから。

大樹くんのような子は、常にまわりに迷惑をかけないように、輪を乱さないように大人に監視されやすくなります。大樹くんのお母さんも最初は「大樹が周囲に迷惑をかけたり、輪を乱してしまわないように」と、つい「見守る」よりも「見張る」ことに重きを置いてしまっていたのかもしれません。それは、大樹くんを守りたいというお母さんの愛情の表れだったのでしょう。でも、大人がそうやって問題児扱いすればするほど、大樹くんは「自分が信用されていない」と感じていたのだと思います。

そんな彼に対して、「いつも見ているけれど、必要以上には口を出さない」「自分でやってみる機会を与える」という姿勢を取り、少しでも前進したときには精一杯認めることで、彼の力が発揮される瞬間が増えていきました。

全教科の点数を上げていくのは難しかったのですが、入塾時26点しか取れなかった数学のテストが、わずか2か月で89点にアップ! 理科と社会も平均点を超えるようになりました。

入塾期間は1年弱と短かったけれど、高校受験では志望校に合格。その後もでこぼこはありつつも、楽しい学校生活を送っているようです。

大人が子どもの力を信じ、「見守る」ことは、子どもにとって大きな支えになります。「ちゃんと見てくれているけれど、やらせてくれる」というバランスが、子どもの自信や意欲を育むのだと思います。

子どもを思う気持ちが逆効果になるとき

わが子は誰よりもかわいいし、幸せになってほしい。だから、親は心配もするし、大人としてアドバイスもしたくなる。ただ、その「心配」と「応援」のバランスをとることは、意外と難しいのかもしれません。

多くの親御さんは「うちの子が勉強が苦手になってしまわないか心配なんです」「クラスの友だちとうまくやっていけるか心配なんです」と、心配します。けれども、その心配がいつの間にか「子どものため」ではなく、「自分の不安を解消したい」という気持ちになっていることもあるのです。

そればかりになると、子どもは「心配されている」ではなく、「自分は親に信用されていない」「ダメな子だと思われているのかな」と感じてしまうのです。

そして、親に反発して、聞く耳をもたなくなったりすることもあります。わが子の幸せのためにと思って伝えた言葉が、かえって子どもの心を閉ざし、親子の距離ができてしまったらとても残念です。

「心配」ではなく「応援」にシフトしよう

子どもの幸せを心から願うのであれば、親は「心配」ではなく「応援」の形で気持ちを伝えてみてください。

「応援」とは、「大丈夫?」と聞くよりも「信じてるよ」「きっと大丈夫」「やれるとわかっているからね」と、子どもの今のダメな部分ではなく、これからの輝ける未来に対して、信頼していると声かけをすることです。

「応援」には、子どもを信じ、期待し、その挑戦を見守る力があります。

「見張る」ではなく「見守る」ことが大切なのです。親が安心を求めて細かく管理するのが「見張る」、子どもの成長を信じて支えるのが「見守る」。

中学生には、この「見守る」姿勢がとくに重要になります。

親が先回りしてすべての道を整えてしまうと、子どもは自分の力で考える機会を失います。

勉強でも同じです。たとえば、テスト勉強を計画通りに進められず、低い点数を取ってしまうこともあるでしょう。

そんなとき、「どうしてこうなったのか?」「次はどう計画を立てればよいのか?」を自分で考える経験が、成長のチャンスになります。

ただ、そのときに誰も味方がいないと、子どもは勇気を出して次に挑戦できません。だからこそ、親が「いつも味方でいる」姿勢を見せるのです。

そのために、「心配」を封印し、「応援」に徹する。たとえば、「この間の自主学習、すごくがんばっていたね」「計画通りにやろうとしているのがわかるよ」と具体的にほめることで、子どもは「自分の努力が認められている」と感じ、自信をもてます。その自信が、次のテスト勉強をより意欲的に進める原動力になります。

他にも、部活や習い事でミスした子どもに対しても、「どうしてこんなこともできないの?」と責めるのではなく、「次はどうしたらうまくいきそうかな?」「私は応援しているよ」と声をかける。部活や習い事での「努力したら結果が出る」という感覚は、そのまま勉強への意欲にもつながります。

子どもが「僕(私)はお父さん、お母さんに見守られている。何があっても大丈夫」と思えるようになる。

その心の安心が、子どもの足元を支える土台になり、それが強固なものほど、しっかりとした踏み台になり、子どもは高く飛んでいけるのです。

第一志望合格率96.8%の塾講師が教える 中学生の成績は「親の声かけ」で9割決まる!

第一志望合格率96.8%の塾講師が教える 中学生の成績は「親の声かけ」で9割決まる!』(建部洋平/飛鳥新社)

「勉強しなさい」と言わずに、子どものやる気を引き出す方法がある!
×「もっとがんばってみなさい」
○「今回は下がっちゃったけど、この教科はできているね!」
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