約8割が回復? 心療内科医が「不登校でも心配ない」と言い切る理由

明橋大二
2025.09.26 17:33 2025.10.02 11:50

落ち込む男子高生

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子どもが学校に行けなくなったとき、「このままどうなってしまうの?」と不安でいっぱいになるのは当然のことです。けれども実際には、不登校を経験しても、その多くの子どもたちは元気を取り戻し、学校や社会へと歩みを進めています。

不登校は決して“人生の終わり”ではなく、回復のための大切な時間。わが子が不登校になったとき親はどうすればよいのでしょう?心療内科医で子育てカウンセラーの明橋大二先生の著書より解説します。

※本稿は、明橋大二著『不登校からの回復の地図』(青春出版社)より一部抜粋、編集したものです。

「不登校でも心配ない」と言い切れる理由

子どもが不登校になったときに、親が一番知りたいことは、「今後、この子がどうなるのか」ということだと思います。子どもにとっても、自分はこれからどうなってしまうのか、何より不安になることでしょう。

周囲には「学校も行けないようじゃ、社会で生きていけないよ」など、何の根拠もなく言う人がいたり、子ども自身も、不登校になった時点で「自分の人生は終わった」と思ったりする子も少なくありません。

しかし結論から言うと、不登校になっても、心配する必要はありません。これについては、まず有名な不登校の予後調査の結果をお示ししたいと思います。

これは、文科省の委託によって、森田洋司という社会学者が、中学3年の不登校の子どもが5年後、どうしているかを調べた調査です。1993年度と2006年度の2回行われています。すると、5年後に学校か仕事に行っている子どもの割合は、1993年は77%、2006年は82%、という結果でした。

不登校になっても、ほぼ8割の子どもは、元気に回復しているという結果です。もちろん8割なので、残り2割はどうなのか、と気になる人もあるでしょう。

確かに、いじめの深刻なトラウマを抱えた人とか、家族がまったく本人を理解せず責め続けた、などの場合、長引くこともないとは言えません。5年後、たまたまそのときは仕事も学校も行っていなかったということもあるでしょうし、就労に関しては、就労先の環境の問題もあります。

しかし少なくとも、ふつうに子どもを理解し支えてゆけば、ほとんどの子どもは元気になる。不登校になったからといって、それで人生が終わるわけでは決してない、ということです。

これは先程の、不登校のメカニズムからも言えることで、オーバーヒートにせよ、凍りつき反応にせよ、これは決して病気とか障がいではなく、正常な防衛反応です。ですから、安心・安全な環境で、しっかり休めば、必ず回復する、ということです。

もう振り回されない!不登校に関する「7つの誤解」

落ち込む小学生の女の子

一方で、世の中には、不登校に対する誤解がまだまだあります。どれも私からすれば、不登校の実態を知らない、あるいは不登校について息の長い支援をした経験のない人たちの先入観に基づく勘違いです。

親もついついそういう意見に影響されてしまいがちなので、ここでその勘違いの代表的なものを挙げて、実際はどうなのかをお伝えしたいと思います。

誤解1 不登校はわがまま

思春期のイメージ

「不登校はわがままに育てたからだ」という意見があります。

しかし「わがまま」ということは、マイペース、ということです。人間、自分のペースで生きられれば、ストレスになることはありません。自分のペースで生きられないからストレスを受けてしまうのです。

不登校になる子の多くは、むしろわがままにできない、人に気を遣って、無理をして、それで疲れてしまって不登校になる場合が多いです。決してわがままに育てたからではありませんし、わがままを言っているわけでもないのです。

子どもには子どもなりに事情があり(疲れているとか友達関係で悩んでいるとか)、それを単に「わがまま」と片づけられてしまうと、子どもは「つらいことを話しても無駄なんだ」と思ってしまうでしょう。

誤解2 不登校はなまけ

「なまけだ」という意見もあります。確かに、子どもが学校に行かずに家でごろごろしていたり、ゲームばかりしていたりすると「なまけている」と思いたくなる気持ちも分かります。

しかしなまけがもし原因なら、これはひとつの持って生まれた性格ですから、生まれたときからずっとなまけ者のはずです。

しかし不登校になる子は、不登校になるまでは決してなまけ者ではなかった、むしろ頑張り屋さんだったということも少なくありません。

そういう子どもがなまけざるを得なくなったということは、何らかの異変がその子に起きた、ということです。決してなまけ癖でなるのではないのです。

また、もし単なるなまけなら、子どもは学校を休んでいれば楽なはずです。しかし多くの子どもは学校に行けないことで苦しみ、自分を責めています。決してなまけているわけではないのです。

誤解3 不登校は甘え

「甘えているだけだ」という意見もあります。しかし「甘え」はそもそも子どもの成長には大切なものです。確かに、不登校になった後に、甘えが強く出てくる子どもはありますが、不登校になる前は、むしろ甘えずに頑張っていた子が多いです。決して甘えから不登校になったわけではないのです。

誤解4 不登校は逃げ

「逃げだ」と言う人もあります。そういう人は「嫌なことから逃げてはいけない」と言います。確かに、困難なことを乗り越えることで自信になることもあります。しかし本当に、命に関わるような場合は、逃げなければならないこともあるのではないでしょうか。

最近は全国で、熊に襲われた、という被害が多く出ていますが、熊に出くわしても「逃げてはいけない」という人はあるでしょうか。学校でも、いじめなどは下手すると命に関わることです。そういうことから逃げるのは、決して悪いことではなく、むしろ命を守る行動です。

誤解5 不登校は心が弱いから

「心が弱いからだ」と言う人もあります。「もっと強くなれ」と言う人もあります。しかし、熊に出くわして、立ち向かうことだけが、本当の強さと言えるでしょうか。

戦いでも、前進するだけでなく、退却することが本当の強さだ、ということはいくらでもあります。状況が悪化しているのに無謀にも戦い続けて全滅するよりは、いったん退却して、態勢を立て直しからまた立ち向かうことでクリアできることもあるはずです。

人間、ときには退くことが必要な場合もあるのではないでしょうか。

誤解6 勉強についていけなくなる

「勉強についていけなくなる」これも親にとっては心配でしょう。しかし、心が疲れた状態では、勉強しようとしても頭に入りません。

ポリヴェーガル理論でも、凍りつき反応が起きているときには、思考力も意欲も失われると説いています。むしろしっかり休養して、元気を回復すれば、多くの子どもは集中して勉強するようになります。そうすると、勉強の遅れを取り戻すことも、そんなに難しいことではありません。

実際、高校を卒業する頃になれば、専門学校や短大、大学に進学できるだけの学力を身につける子どもも少なくありません。

学校にも行けず、生きることに絶望している子どもに、「将来どうするの」「勉強についていけなくなるよ」と説得して何の意味があるでしょう。そのように追い詰められれば追い詰められるほど、子どもは生きることに希望を失い、「もうすぐ死ぬからほっといて」とキレることになるのです。

むしろ「今はしっかり休めばいいよ。勉強のことは心配しなくていいよ。元気になったらいくらでも取り戻すことはできるから」と伝えてほしいのです。

誤解7 不登校だと、ひきこもりになる

「今のままだと、将来引きこもりになるよ」と言う人もあります。しかしすでにお示しした通り、不登校が皆、引きこもりになるわけでは決してありません。

中学3年で不登校であっても、5年後にはほとんどが学校に行っているか働いていると、文部科学省の委託調査が明らかにしている通りです。

以上のように、世間一般で言われることには、不登校の実情をよく知らずに一面的な知識や思いつきで言われる、根拠のないことが多いのです。

明橋大二

精神保健指定医、高岡児童相談所嘱託医、NPO法人子どもの権利支援センターぱれっと理事長(射水市子どもの権利支援センター「ほっとスマイル」の設立団体)、一般社団法人HAT共同代表、富山県虐待防止アドバイザー、富山県いじめ問題対策連絡会議委員、富山県ひきこもり対策支援協議会委員、南砺市政策参与。シリーズ累計500万部を突破した「子育てハッピーアドバイス」(1万年堂出版)など著書多数。

心療内科医・子育てカウンセラー明橋大二著『不登校からの回復の地図』(青春出版社)

不登校児童が増える今、「最近、子どもが学校に行きたがらなくて…」「朝、子どもを起こそうとしても、ちっとも布団から出てこないんです」「このまま、ひきこもってしまうのではと不安です」などの相談を30年以上受けてきた心療内科医が、「これだけは伝えたい」と思ったことをまとめた一冊。