「日本は平和」は幻想? 子どもと考えたい“本当の平和”の正体
「戦争がない=平和」と思い込んでいませんか? 実は、貧困や差別といった“目に見えない暴力”がある限り、本当の意味で“平和”とは言えないのかもしれません。
貧困や格差が広がる現代社会において、“本当の平和”とはいったい何なのでしょうか。平和学の第一人者、ガルトゥング氏の理論をもとに、最終的にめざすべき社会の姿を探ります。
※本稿は、Gakken(編集)/小泉悠(監修)『僕らは戦争を知らない 世界中の不条理をなくすためにキミができること』(Gakken)から一部抜粋・編集したものです。
挿絵:白井匠
平和って何?
そもそも、平和とは何でしょうか。
戦争がなければ平和と言えるのでしょうか。
戦争がないから平和?
みなさんは「平和」という言葉を聞いて、どのような状態を思い浮かべますか。
多くの人は、戦争がなければ平和だと考えるかもしれません。
これに対し、ノルウェーの平和学研究者であるガルトゥング氏は、戦争がない状態が平和であるとは限らないと主張しました。
ガルトゥング氏は、平和を「暴力の不在」と定義し、戦争などの目に見える暴力を「直接的暴力」、貧困や差別などの目に見えない暴力を「構造的暴力」と呼びました。
そして、直接的暴力がない状態を「消極的平和」、構造的暴力さえもない状態を「積極的平和」と区別しました。
戦争がなくても貧困や差別などの問題がはびこる社会は、平和とは言えません。
私たちがめざすべきは、貧困や差別がなく誰もが安心して暮らせる社会、つまり「積極的平和」の社会だと考えたのです。
この考えに照らし合わせると、現在の日本は平和と言えるでしょうか。
日本で戦争は起こっていませんが、貧困や格差に苦しむ人々がたくさんいます。
積極的平和であるとは言えそうにありませんね。
深刻な貧困問題

世界不平等研究所が発表した「世界不平等レポート2022」によると、世界の上位1割の富裕層の人々が、世界全体の富の約8割を所有しているといいます。
一方、世界銀行の調査によると、世界で1日2.15ドル(約310円)未満で生活している「絶対的貧困」の人々は、2022年末時点でおよそ6億8500万人に上ります。
世界の人口の約8.5%の人々は、衣食住もままならない状態にあるのです。
日本も例外ではありません。
日本の場合、絶対的貧困の人々はほとんど見られませんが、その国に暮らす人々と比べると貧しい「相対的貧困」の割合が15.4%となっています(厚生労働省「2022年国民生活基礎調査」調べ)。
これは、日本国民の約6人に1人が、進学をあきらめる、十分な医療を受けられないといった貧困に苦しんでいることを示します。
世界から戦争をなくすだけでは完全な平和とは言えません。
最終的にめざすべきは、貧困などに苦しむ人々のいない社会であることを覚えておきましょう。
小泉悠(監修)『僕らは戦争を知らない 世界中の不条理をなくすためにキミができること』(Gakken)
【人はなぜ戦争をやめられないのか? 子どもも大人も読みたい“平和の本”決定版】
ロシアによるウクライナ侵攻、イスラエルとハマスの戦闘、北朝鮮の核・ミサイル開発――日本に住む私たちにとっても、戦争は当事者として直接的・間接的に直面する課題にほかなりません。そこで本書では、主にウクライナ戦争を例にとり、なぜ戦争が起こるのか、戦争を起こした国は憎まれ続けるべきかなどのテーマを、やさしい言葉と図解を用いて解説します。