小さい子には「何か」が見える? 3歳息子のホラー行動が怖すぎる【うちのアサトくん第3話】

黒史郎
2025.10.16 09:53 2025.10.27 20:00

子どもの人差し指

ホラー作品を得意とする作家、黒史郎さん。その影響もあってか、息子のアサトくんもおばけが大好き。そればかりか、彼には“何か“が見えているようで……。

黒史郎さんが、自閉症の息子・アサトくんとの日常を描いたショートショート、「うちのアサトくん」をお届けします。

※本稿は『PHPのびのび子育て』2019年8月号から一部抜粋・編集したものです。
※写真はイメージです。

「何か」がいる!

その夜、僕は悪夢で目が覚めた。

枕も毛布も汗でぐっしょりと濡れている。

なんだろう。どこからか視線を感じる。

目を閉じたような暗闇の中で、“それ“は僕のことをジッと見つめている。

外からは電車の通過音。白いライトが窓を舐め照らす。部屋が一瞬だけ明るくなる。

「ひっ」

全身が凍りつく。

真っ白な子どもの顔が僕を見下ろしていた。

うちのアサトはたまに、すごく怖い。

夜中にムクリと起き、ベッドの囲いの隙間から、寝ている僕や妻の顔を無表情で見つめていることがある。

「眠れないの?」と聞いても答えず、ただ無言で見つめてくるので、不安になって思わず、「アサトだよな?」と確認してしまう。それくらい怖い。

眼のアップ
子どもがおばけを怖がるのは何歳くらいからだろうか。今のところ、アサトはおばけを怖がってはいない。むしろ好きだ。

ハロウィンの時期はカボチャのおばけやゴーストの飾り物を見ると、「おばけ」と言って指でつまむような真似をし、それを欲しがる。絵本に出てくる、ペロリと舌を出した白いおばけも大好きだ。アンパンマンのお気に入りキャラもホラーマンやドクターヒヤリと、やはりおばけ系。一時、お絵描きノートの8割を顔色の悪い科学者の顔が占めていたほどだ。

幼い頃からおばけ好きで、今ではそれを生業としている僕は「さすが、ホラー作家の息子。血は争えないなぁ」なんて妻と笑っていたのだが……そんな悠長なことは言っていられないようになった。アサトの「怖い行動」が日に日にエスカレートしていったのだ。

ある時から、アサトが家の天井を見上げ、「おばけ」と言いながらそこを指でつまむような真似を繰り返すようになった。そこにはカボチャのおばけも顔色の悪い科学者もいない。

またある時は、僕の顔を見ながら、僕に似ても似つかないゲッソリとした青い顔をお絵描きノートに描いていた。それを見た僕は思わず後ろを振り返ってしまった。

「パパの本と同じじゃない?」

妻の言葉にゾッとした。僕のデビュー作は、ホラー作家の娘が悪霊にとり憑かれてしまって、見えないものが見えるようになり、謎の「青い顔」を描くようになるという内容だった。

そして、それは起こった。

その日は妻がアサトを連れて大阪の実家へ帰っていた。僕は家で1人、怪談の原稿を書いていた。そんなものを書いていたからだろう、部屋がいつもより薄暗く感じ、室温も低い気がした。

そんな時、妻からスマートフォンにメッセージが届いた。

「アサトがずっと天井を見ながら『パパ、パパ』って言ってるの」

天井……。

そこって、おばけがいるところだよな……。

不吉なものを感じ、気分転換に外出しようと椅子を立ったその時。

「気をつけてね」

甲高い女性の声が部屋に響き渡った。

心臓が凍りつく。

恐る恐る、声のした玩具箱のあたりに近づく。

すると再び、女性の声が僕に警告をした。

「火がつけっぱなしだよ! 気をつけてね!」

声はフライパンの玩具から聞こえていた。

その場にへたり込む。原因は玩具の誤作動だった。

アサト、玩具の電源はちゃんとオフにしてからしまいなさい。あと、頼むから意味深な発言と行動は控えてくれ。パパの寿命が縮みます。

黒史郎

横浜市在住。重度の自閉症(A2)と診断された息子さん、奥様とともに暮らす。著書に、『幽霊詐欺師ミチヲ』(KADOKAWA)など多数。