2030年導入決定…研究で見えた『デジタル教科書』の問題点とは? 言語学者が考察する紙との差

2025年9月24日、中央教育審議会(文部科学相の諮問機関)の作業部会は、デジタル教科書を正式な教科書と位置づけ、2030年度から導入することを了承しました。教育現場は大きな転換点を迎えていますが、「やっぱり紙の方が頭に入るのでは?」と不安に思う保護者も多いはずです。
では、紙とデジタル、それぞれの強みや弱点はどこにあるのでしょうか。言語学者で明治大学教授の堀田秀吾先生に、研究データをもとに詳しく伺いました。(文・吉澤恵理)
読解の深さと記憶定着、紙とデジタルの違いは?

――紙とデジタルで、理解のしやすさに違いはあるのでしょうか?
はい。ノースダコタ大学のクリントン氏が2019年に33件の研究を分析した結果、特に説明的な文章や学術的な長文では紙の方が理解度が高いと報告されています。
――なぜ紙の方が理解しやすいのですか?
紙だと「この辺りに書いてあった」「本の後半だった」といった感覚的な手がかりが記憶を助けます。さらにページをめくる行為そのものが集中を深める効果もあります。
――デジタルでは理解が難しくなるのでしょうか?
デジタルはスクロールやリンク移動が多く、どうしても流し読みになりやすい。さらに通知などで注意が途切れることもあり、理解が浅くなる可能性があります。
デジタル教材は「わかったつもり」になりやすい
――紙とデジタルでは、自分で「どのくらい理解できているか」の把握にも差が出るのでしょうか?
はい。イスラエル工科大学のアッカーマン氏らの研究(2011年)では、紙で学んだ方が自分の理解度を正確に把握できることが示されています。紙の場合は理解度に応じて学習時間を調整しやすく、その結果テストの成績も高くなる傾向がありました。
一方デジタルは「分かったつもり」になりやすく、学習を早めに切り上げてしまうことで、成績低下につながるケースがあります。
デジタル教科書のメリット、音声機能とランドセル軽量化

――そうなると、デジタルを使う意義が気になります。デジタル教科書を導入するメリットは何でしょうか?
もちろんデジタルにもメリットがあります。背景説明や難しい箇所を補足する機能を持たせれば、理解を深められる可能性もあります。特に音声読み上げ機能は有効で、大人がそばにいなくても子ども自身が学習を進められます。読書が苦手な子にとっては大きなサポートになるでしょう。
また、持ち運びが容易な点です。これまで小学生のランドセルが重すぎると問題になってきましたが、デジタル教科書ならその負担を大きく減らせます。
デジタルが健康に及ぼす影響、実証データは少ない
――「デジタルは目に悪い」とよく言われますが、実際はどうなのでしょう?
スロベニアの研究(2023年)では、小学生が電子書籍を読むと目の疲れを感じる可能性が指摘されました。ただ、紙と比べて大きな差があるとは確認されていません。
ブルーライトが睡眠に悪影響を与える懸念や、長時間利用による体への負担は考えられますが、実証データはまだ少なく、今後の研究課題だと言えます。
年齢やスキルによって効果は変わる

――年齢やスキルによって効果は変わるのでしょうか?
はい。幼児や初学者は読字力が未熟で、デジタル操作が負担となり理解が深まりにくい傾向があります。スタヴァンゲル大学の研究でも、高成績の女子生徒がデジタル試験で成績を落とす傾向が報告されています。
一方で大学生以上になると、紙・PC・タブレットで理解度に大きな差はほとんどありません。つまり「効果は年齢やスキルに左右される」ということです。
最も効果的なのはハイブリッド学習
――小学校や中学校から一律にデジタル教科書に移行すると、成績に差が出てしまいそうで不安ですが、どう対応すべきでしょうか?
重要なのは「どちらが優れているか」ではなく、学ぶ目的によって使い分けることです。深い理解や記憶定着には紙が向いており、調べ学習や語学、データ処理にはデジタルが適しています。最も効果的なのは、両者を補完的に使うハイブリッド学習だと考えています。
本格的なデジタル教科書の導入までに、子どもたちの力を最大限に伸ばせるよう、効果的な活用方法を考えていくことが課題ですね。






























