心配が反抗期を長引かせる? 親の「子ども扱い」に抵抗する思春期の心理
中学生の息子に「その服じゃ寒いよ」と声をかけたら、「うっさいねん!」と怒鳴られた……そんな経験のある親は少なくないかもしれません。医師で臨床心理士の田中茂樹先生によれば、子どもの反抗期を長引かせる原因のひとつは、実は「親の心配」にあるといいます。
思春期の子どもの心理を、田中先生の著書より紹介します。
※本稿は田中茂樹著『子どもを見守ること』(大和書房)より一部抜粋、編集したものです。
反抗期を長引かせる方法
中学生の息子さんが、汚い言葉を親に対して使ってくることがある。そういうときに「どう返したらいいですか? どう接したら息子の反抗期を早く終わらせることができますか?」という質問を受けました。彼女は30代後半の母親です。
聞いていくと、息子さんが「反抗」するのは、彼女が心配して声をかけたときのようです。外出するときに「その格好では寒いんじゃないの? なにかもう一枚着て行ったほうがいいよ」と彼女が言う。返事をしないから、聞こえなかったのかなと、大きな声でもう一度言う。2、3回言うこともある。そういうときに、「うっさいねん!」などと怖い声で言うのだそうです。
「息子さんは、子ども扱いされるのが嫌なんやと思いますよ」と私は返しました。これまで親と子、守る側と守られる側、そういう縦の関係だった。それが思春期に入ってくると、大人と大人、対等な仲間としての関係に変化していく。それなのに、小さい子どもを心配するように、着る服のことなんかを言われると、放っておいてほしいな、と感じるでしょう。もちろん、たいていは親の判断は合っていて、薄着で出た子どもは外で寒い思いをしたりするのですが、大事なところはそこじゃないんです。
子ども扱いすると、子どもも「子どものような」反応をします。不快に感じたら、怒ったり、泣いたり。場合によっては暴れたり(壁を壊すのは定番)。体は大きくなっているのに、気持ちが子どもになって暴れたら、物は壊れやすいですね。なので、寒い思いをしそうだな、ということよりも、自分の服は自分で選ぶ歳になったんだな、と思って辛抱すると、親子の関係は変わっていくと思います。
それはなかなかさみしいことです、親にとっては。逆に言うと、いつまでも幼いままにしておきたいと思うなら、そのように扱えば(いろいろとアドバイスをし続ければ)、子どもは子どものようにふるまう期間が長くなるでしょう。反抗期を長くすることができます。
親からのLINEで重たい気分になる理由
以前、子どもの反抗期に関して、取材を受けたことがありました。その記者さんは30代後半の女性でしたが、私がこういう話をしたら、スマホの画面で、離れて暮らしている母親からのLINEを見せてくれました。
「◯◯ちゃん、今日は関西は雨模様らしいから、傘を忘れないでね♡」
ワタシ、こういうのが来たら、なんかすっごくしんどい、重たい気分になってたんですが、理由が分かった気がします、と彼女は言いました。
逆に親の立場の話も聞いたことがあります。
50代の女性です。離れて暮らしている娘さんに、大事なことを忘れないようにとLINEを送ったのに、うざいと嫌がられたという話でした。「明日は歯医者の予約よね?」とか、「保険の書類の提出は今月末って言ってたけど準備できてる?」など。なんで、そんなに娘さんの予定をよく知っているのか、と私は尋ねました。自分は嫌になるぐらい記憶力がいいのだと彼女は答えました。覚えようとしていないのに、一度聞いたら娘のいろいろな予定も、付き合っている相手の誕生日も、忘れないのだと言います。
歯科受診は3か月ごとの第1週の火曜日だと分かっているので、毎回近づいたらLINEしてしまう。嫌がられると分かっているけど、これまでも娘は、大事な用事を忘れて困ったことが何度もあった。私は気がついているのだから、それを注意してあげないことを不親切だと感じる。大げさに言えば、親の役目を放棄しているように感じる。そう彼女は言いました。
歯医者の予約を忘れる(ちょっと困る)、免許の書き換えをし損なう(かなり困る)。でも問題はそこではなく、大人になった子どものことをいつまでも心配し続ける、気にかけ続ける姿勢にも、どこか問題があると私は思いました。子どもを頼りないままにしておく。頼りない子どものイメージを持ち続ける。そうすることで、親としての自分の存在価値を保ち続けることができる。ちょっと意地悪に言うとそういうことかもしれません。そこまで意識していないのでしょう。それだけに意識的にやめることが難しいとも言えます。
最初の話に戻ります。「反抗期を早く終わらせるにはどうしたらいいですか?」という質問をした母親に、「反抗期が終わると、子どもはどうなると思いますか?」と聞いてみました。「それは考えていませんでした」と彼女は言って、少し考え、「なんとなくもとの素直なあの子に落ち着くイメージなんですけど……違うんですか?」と聞きました。もとの素直なあの子に戻って、「そのシャツはちょっと派手なんちゃう?」と彼女が言うと、「はーい」と返事して、着替えて出ていくようなイメージなのかな、と私は想像しました。
もうすぐ60歳になる自分ですが、しばらく髭を剃っていないと(今がまさにそうなんですが)、「シゲキ、髭ぐらいちゃんと剃りよ」という、もう何年も前に亡くなった母親の声が聞こえる気がします。
田中茂樹著『子どもを見守ること』(大和書房)
本書は、医師・臨床心理士として20年以上にわたり多くの親子の相談を受けてきた著者が、「子どもを変えようとするのではなく、信じて見守ること」こそが、子どもの心を育て、親自身をも楽にするというメッセージを、豊富な実例と共に伝える一冊です。
