自閉症の息子は避難所で受け入れられる? 親ができる備えや覚悟【うちのアサトくん第19話】

災害が起きて避難所生活になったとしたら、自閉症の息子・アサトくんは受け入れてもらえるのか。そんな不安で繰り返す「もしものシミュレーション」で親が気づいたこととは?
小説家・黒史郎さんが、自閉症の息子・アサトくんとの日常を描いたショートショート、「うちのアサトくん」をお届けします。
※本稿は『PHPのびのび子育て』2020年12月号から一部抜粋・編集したものです。
※画像はイメージです。
避難所
僕らは民家に身をひそめていた。
「じゃあ、お夕食にしましょう」
照明はロウソク1本。今夜のメニューは鯖の缶詰めとパンひと切れ。これが1人に配分される食料だ。食卓には妻、アサト、僕の3人。そして、スーツの男性、作業着のおじさん、寝間着姿のおばさんと女子中学生。みんな、黙々と食事を始める。
「ほら。アサトもいただきますして」
アサトは食事に手をつけない。魚は焼いたシャケしか食べないのだ。でも、今は好き嫌いなど言ってはいられない。食べないと生きていけないからだ。
妻がアサトの口にひと切れ入れる。いったん口に含むが、すぐにオエッと出してしまう。
「嫌なら食うな」というみんなの視線が痛い。
僕と妻のパンをあげるが、アサトは「ハンバーガー、ポテト」を連呼しだした。
作業着のおじさんが舌打ちする。今は、あの日常(ころ)の食べ物の話は禁句なのだ。
夜も更け、僕らは各々の場所で睡眠をとる。見張りは交代で。今はスーツの男性がカーテンのすき間から外の様子をうかがっている。
お腹が空いて眠れないアサトは「ハンバーガー、ポテト」をまだ繰り返している。
「その子、静かにさせてくれない?」おばさんから苦情が入る。「あたし疲れてるのよ」。
「すいません、いま静かにさせます」
部屋の隅に移動し、声が漏れないようにアサトを毛布でくるむ。
「おい、やつらだ!」
見張りの報告で、その場に緊張が走る。ロウソクの火を消し、物陰に隠れる。外からはゾンビどもの唸り声。やつらは音に敏感だ。物音1つで、この家になだれ込んでくるだろう。
そんなとき――。
「も~らもら~♪」
アサトが大好きな『モラモラ マンボウ』の歌を歌いだした。
慌てて口を押さえる。今の状況を理解できないアサトは僕の手の中でまだ、もごもごと歌っている。おそるおそる視線を上げると、みんなの恐ろしい視線が僕らに集まっている。頼む、アサト、今だけは歌わないでくれ。僕と妻は祈り続けた。
やがて、運良くゾンビどもは去ってくれたが――。
「すまないが、あんたらは出て行ってくれ」
当然の結果だ。僕らは素直に従った。
こうして僕ら家族はまた、新たな避難所を求めてさまようことになった。
――という想像を、僕はよくする。
そう。すべては僕の頭の中の物語だ。
そして、妻とよく話し合う。今の時代、いつこういうことが起きてもおかしくない。さすがにゾンビはないが、ここ数年、大きな自然災害が増えた。そのたびに僕と妻は避難所生活のことを不安に思う。
アサトのような子は。
障害のある子は受け入れてもらえるのか。
家に帰れず、家族と会えず、他人と昼夜を過ごさねばならないストレスを皆が抱える中、アサトの言動がどれほどの「迷惑」になるのか、考えなければならない。
僕らがかわいいと思う行動も、他人には嫌悪になることもある。
アサトが「害」として扱われるなんて、僕らは耐えられない。
だから僕は今日も頭の中でシミュレーションする。僕と妻がアサトにとって、一番の避難所になれるように。





























