リュック通学の支援級 「息子のランドセル姿が見たい」と父の想いが暴走した結果【うちのアサトくん第21話】

小学校に行く息子のアサトくんを見送る父親には、ひそかに抱き続けている夢があります。長年の夢をかなえるべく計画を立てますが…、果たして成功するのでしょうか?
小説家・黒史郎さんと奥様、そして自閉症の息子・アサトくんの日常を描いた、子育て実話ショートショート「うちのアサトくん」をお届けします。
※本稿は『PHPのびのび子育て』2021年2月号から一部抜粋・編集したものです。
※画像はイメージです。
長年のパパの夢
僕には、ささやかな夢がある。
ランドセル姿の息子を見たい――。
アサトは小学生だが、ランドセルを持っておらず、リュックサックで登校している。それはアサトの通う、特別支援学校小学部の子どもたち、みんな同じだ。
とくに規定はないが、ランドセル姿の子を校内で一度も見たことがない。どうしてか。
アサトの学校では、教科書や勉強ノートを使わない。積み木やパズルといった知育玩具、絵本、トランポリンなどが勉強道具だからだ。そしてそれらはすべて、学校にある。
じゃあ、手ぶらでいいのかというと、とんでもない。アサトのリュックはいつもパンパンだ。中身は、着替えの練習用の服、連絡帳、水筒と給食袋、ハンドタオルにハンカチ。教室で描いた絵や工作物も持ち帰るので、ランドセルだと、ちょいと厳しいのだ。
それに加え、うちは学校が終わるとそのまま、放課後等デイサービスを利用する。遠足、買い物と外出が多く、持ち歩きやすさ重視で考えると、やはりリュックが最適なのだ。
往生際の悪い僕は、それでも何度かランドセルの夢に手を伸ばすのだが、そのたびに気持ちを抑えて、伸ばした手を引っ込める。
この我慢には、他にも理由がある。
アサトの学校には、カラフルなもの、珍しいもの、いつもと違うものに対し、過敏に反応してしまう子もいる。いったんそれが気になると、物事に集中できなくなってしまう。だから、興味を引いてしまうような物を学校に持ち込むことは極力避けなくてはならない。
アサトもいちど気になると我慢できない性格で、横から奪ってでも、それを見たがる。「見て、確認したい」という衝動を抑えることが難しいようなのだ。
アサトが急にランドセルで登校すれば、きっとみんな「見て、確認」したがるだろう。
毎朝、玄関で見送るとき、アサトの背中のリュックを見ながら僕は思うのだ。ああ、小学生でいられるのも、あと数年か。もう、アサトのランドセル姿は見られないのか……と。
さて。しんみりした話は、ここまで。
実は今、僕はある計画をたてている。
これを書いているのは十月後半。毎年、この時期になると妻と僕はそわそわしだす。
「アサトにどんな仮装をしてもらう?」と。
そう。もうすぐ、ハロウィンなのだ。
過去のアサトは『デビルマン』『悪魔くん』など、なぜかデモーニッシュな仮装を好む傾向にあったが、今はその頃からだいぶ好きなものが変化している。
今年の仮装テーマは、まだ決まっていない。
「最近、『うどんスープ』のCMにご執心だし、てんぷらの仮装なんてどう?」と妻が提案。
あの踊るエビ天か。なるほど、アサトは喜ぶかもな。だが、すまん、アサト。
今年は、パパの夢を叶えさせてくれ!
「あ、あのさ、ランドセルなんて、どうかな?」
怪訝な表情の妻に、僕の描くイメージを伝える。新品のランドセルを背負った、新1年生の仮装。理想像は、「ぴかぴかの1年生」だ!
ランドセル購入となるとデビルマンの十倍のコストがかかるが、その姿を拝めるなら、父は小遣いを全額投じる! 昼飯も抜く!
その熱意と覚悟を僕は妻にぶつけた。
結果、僕の願いはアサト・ファーストでないこと、ランドセルの置き場がないこと、僕の小遣い程度では足りないこと、小学生がランドセルを背負っても仮装でもなんでもないことなど、1時間ほどかけて妻に問題を指摘され、膝から崩れ落ちたのだった。





























