自閉症の息子と隠れるのが得意なパパ かくれんぼの結末で気づいた親の本音とは?【うちのアサトくん第25話】

黒史郎

アサトくんを喜ばせよう、とかくれんぼに挑む両親。隠れるのが得意なパパをアサトくんがさがせるように、ママが上手にアシストし……。その結末とは?

小説家・黒史郎さんと奥様、そして自閉症の息子・アサトくんの日常を描いた、子育て実話ショートショート「うちのアサトくん」の最終話をお届けします。

※本稿は『PHPのびのび子育て』2021年6月号から一部抜粋・編集したものです。
※画像はイメージです。

まだまだ君は「アサトくん」

薄暗い寝室の中、僕はカーテンの裏側に身を隠し、息をひそめる。フンッとお腹を引っ込め、カーテンと同化するイメージで……。

トイレから出てきたアサトに妻が近づき、

「あれぇ、パパいないね。どこに行っちゃったんだろうね」と、起きている異変を伝える。

アサトの表情の変化が、カーテン越しにも見える。きょろきょろと僕を探しはじめた。
よし。ゲームスタートだ!
 
「あっちかなぁ。パパをさがしてきてくれる?」

アサトはまず、自分の部屋へ駆けて行った。

――ふふふ、そこにはいないぞ。パパはね、子どもの頃から、かくれんぼが得意なんだ。勉強やスポーツはからっきしだったけれど、隠れることは人より何倍も長けていたのさ。
さあ、がんばってパパを見つけてみろ。そして、パパを見つけた喜びを全身で表わすのだ。

向こうの部屋から歌声が聞こえ、『妖怪ウォッチ』のメダルをばらまくジャラジャラという音が聞こえてきた。あれ。さがす気ある?

「パパの声がしたよ、こっちにいるかもよ~」

ママ、ナイスアシストだ!

アサトが向こうの部屋から出てきて、僕の隠れている寝室に入ってきた。よしよし。 

部屋が暗いためか、かなり警戒している。

ひっひっひっ。パパはすぐそばにいるぞ。この顎ひげでジョリジョリしてやろうかい。クンクンと頭の匂いをかいだろかい。ヒヒヒ。

アサトがこちらに顔を向けた。気づかれたか? ……いや、大丈夫だ。こちらからアサトは見えても、アサトからカーテンの中にいる僕は見えないはず――なのに、なぜだ?

どういうわけか、アサトはこちらにだんだん近づいてくるではないか。その距離、約2メートル、1.5メートル……1メートル、50センチ、30、20、10、5――。

シャッ。カーテンが一気に開かれる。

腹をへこませ、カーテンに擬態中の僕。

そんな僕をアサトは見上げ、ひと言。

「みつけた」

ニッコリして、ギュッとハグしてくれる。

これだ。これなんだ。僕はこの瞬間のため、アサトがトイレに行っている間に身を隠し、カーテンとなって待ち続けていたのだ。すべては、この「みつけた」のひと言と、天使の笑顔と、力強いハグを獲得するため――。

僕もハグを返す。そこにママも加わる。

見よ、これぞハグの三位一体!

「――それにしても、大きくなったな」

「だよね。うん。すっごく大きくなった」

僕と妻は頷きをかわす。抱擁により、アサトの成長を実感する。立派な男の子の体だと。

「はやいな。もう、6年生になるのか」

「そろそろ力も負けるね。もう走っても追いつけないよ」

「なんでも、できるようになるな」

「なんでもさせてあげようよ」

「長生き、しないとな」

「しないとねぇ、長生き」

毎日、近くにいるから気づかないけれど、アサトはちょっとずつ、大人に向かって進んでいるんだ、彼の歩み、彼のペースで。

いつ、アサト「くん」から、アサト「さん」になるのかな。いつかは僕たちから卒業し、1人暮らしなんかをはじめて、絵を描く仕事にも就けて、いろんな人にほめられて、そのうち好きな人もできて、パパになる日が来て、ついに僕らにも孫を抱ける日が――。

え? まだ気が早い?

わかってるよ。だって――。

まだまだ君は。

うちのアサトくん。