療育ではできるのに家ではできないのはなぜ? 自閉症の子のこだわりを“脳を育てる力”に変える方法

今川ホルン(著), 吉野加容子(監修)
2026.02.12 15:13 2026.02.18 11:30

絵本を読む親子

自閉症のお子さんが療育でできたことでも、家ではうまくいかず「少し変えただけでパニックになる…」と不安になる親御さんも少なくありません。発達科学コミュニケーションマスタートレーナーの今川ホルンさんは、家庭でうまくいかないのは親や子どもに問題があるからではないといいます。

家庭での声かけや関わり方で、子どものこだわりを“脳を育てる力”に変える方法とは? 自身も自閉症児の母である今川ホルンさんの著書より、抜粋してご紹介します。


※本稿は、『ことばが遅い自閉症児のおうち療育実践編 脳を育てるあそび 77』(今川ホルン(著), 吉野加容子(監修)/パステル出版)から一部抜粋・編集したものです。

こだわりは困りごとじゃない、チャンスに変えられる

自閉症の子どもにみられるこだわりは、脳を育てるチャンスです。たとえば、戸の開け閉めを繰り返す、石を何度も溝に落とす――そんな一見困りごとに見える行動も、視点を変えれば子どもにとっての安心のスイッチであり、ことばやあそびへの入り口となるのです。

「どうしてこんなに同じことばかり……」
「少し変えただけでパニックになる……」

そんなふうに感じたことがある方も多いかもしれません。けれど、自閉症の子どもたちのこだわりには、きちんと理由があります。

自閉症の子どもの脳は、不安を感じやすい傾向があります。そのため、決まった手順や同じ刺激を繰り返すことで脳内を整理し、「この世界は大丈夫だ」と安心感を得ているのです。

だからこそ、無理にやめさせる必要はありません。むしろ、そのこだわりをうまく活かして、ことばやあそびにつなげていく工夫が大切です。

たとえば、こんなふうにしてみましょう。

●車を並べ続ける→「次は青い車、どうぞ」と声をかけてみる
●石を溝に落としている→「ポトン!」と擬音語・擬声語・擬態語で語りかける
●絵本をペラペラめくる→「めくってるね、ペラペラだね」と実況中継する

こだわりを受け入れ、その世界に親が入っていくことで、子どもは安心感を保ちながら脳に刺激を受け、ことばのインプットにもつながっていきます。「困りごと」だと思っていた行動も、親の関わり方しだいで「チャンス」に変えていくことができる――その視点が、親の心をグッと楽にしてくれるはずです。

特別支援の知識や方法が家庭に入らないのはなぜ?

教科書を読む女の子

療育の現場で「おうちでもやってみてくださいね」と言われたものの、実際にはうまくいかなかった――そんな経験をされた方も多いのではないでしょうか。

私自身、何度もそんな場面に直面しました。自閉症の娘が、そもそも家では課題にまったく取り組もうとしなかったからです。

実は、療育などで行われる特別支援が家庭でうまく機能しない理由のひとつは、「子どもが課題に取り組んでくれること」が前提になっているからです。

たとえば、「枠にあわせて丸シールを貼る」といった課題は、療育施設ではしっかりと整った環境のもとで行われます。たっぷりと体を動かしたあと、余計な刺激が少ない部屋で、目の前の机の上にはプリントと丸シールが置かれているというように、子どもが集中して取り組める環境が整っているのです。

けれど家庭ではどうでしょうか。ママもパパも食事の支度や兄弟姉妹の世話などで大忙し。子どもの周囲にはおもちゃやテレビなどの刺激があふれています。そんななかで「さあ、療育の宿題の丸シールを貼ろう!」と声をかけても、子どもは疲れていたり、別のことに気を取られてしまったりして、うまくいかないことのほうが多いのです。

いくら優れたプログラムでも、家庭のリズムや生活環境に合っていなければ、継続して取り組むのは現実的にはとてもむずかしいです。ピアノの練習と同じで、1回やればOKというものではない以上、続けるハードルは想像以上に高くなります。

だからこそ、こう思ってください。「家庭で課題ができない=ダメな親」ではありません。

家庭には、家庭に合ったやり方があります。子どもと向き合う日々のなかで、無理なく取り組める方法こそが、脳を育てるうえでいちばん大切な土台になるのです。

家庭でうまくいかないのは、親や子どもに問題があるからではない

忘れ物が無いように持ち物をチェックする小学生の女の子と親

特別支援の現場では、「椅子に座って取り組む」「指示に従って課題をこなす」ことが求められる場面がよくあります。いわゆる課題遂行型の支援です。

けれども、自閉症の子どもにとっては、じっと座ること自体がハードルになることも多くあります。

「やろうとすると逃げる」「やりたいことを止めさせれば癇癪を起こす」というのは、反抗ではなく、脳がまだその状況に対応できていないだけなのです。

「やってくれること」が前提の方法では、家庭でうまくいかないのは当然のことです。うまくいかないのは、親や子どもに問題があるからではなく、その方法が今の子どもの脳の状態に合っていないだけなのです。

だからこそ、毎日の声かけで脳を育てていくことが大切です。脳を育てる方法は、特別なトレーニングや課題だけではありません。もっと身近な場所――日常のコミュニケーションのなかがいちばんです。ことばがダイレクトに脳に影響を与えるからこそ、ママやパパは毎日「お風呂入るよ」「座って食べようね」と子どもに声をかけているはず。これを使えば、特別な課題の時間を設けなくても、脳が育てられるのです。これが「発達科学コミュニケーション」の考え方です。

「課題やドリルをしなくても、生活のなかで脳にことばを届ければ、脳は育つ!」

そう思えるようになって、私自身、とっても楽になりました。子育てが義務や課題ではなく、「楽しいやりとりの時間」に変わっていく――。それを、私の生徒さんたちもどんどん実感しています。

ママやパパの声かけこそが、子どもの脳を育て、理解力やことばの土台を育てる最高のアプローチです。

それは、ママとパパが子どもに手わたせる最高の教育なのです。

今川ホルン

発達科学コミュニケーションマスタートレーナー。
帝京大学大学院修了。臨床心理学修士。公認心理師。株式会社ここから発達らぼ代表。
自閉症の長女を含む3児の母。埼玉県の病院で臨床心理士として働く中で長女を出産し、長女の自閉症の診断をきっかけに児童発達支援事業所に勤務する。その後、発達科学コミュニケーションに出会い「家での親の声かけ」が自閉症の子を伸ばしていくと確信。発達科学コミュニケーションのマスタートレーナーとして活動する。
わが子のことばの遅れに悩むママやパパに対し、子どものことばを伸ばすおうち療育『自閉症専用3カ月おしゃべり上達メソッド』を教えるとともに、トレーナーを育成している。

Instagram:@horn.imakawa

ことばが遅い自閉症児のおうち療育実践編 脳を育てるあそび 77

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