お医者さんごっこにAEDは必要? 光ってしゃべるおもちゃのAED「トイこころ」が生まれた理由

「あそこにAEDがあるよ」と、子どもが街中のAEDに自然と気づく……そんな光景が当たり前になる未来を描き開発されたのが、おもちゃのAED「トイこころ」です。
こだわったのは、「お医者さんごっこ」という子どもたちの遊びの中に、AEDを自然に溶け込ませること。遊びを通じてAEDを身近にし、子どもたちにとって「特別なものではない存在」になることを目指しました。
「トイこころ」の開発者である、株式会社坂野電機工業所 代表取締役の坂野恭介さんに、このおもちゃに込めた想いを伺いました。
ペーパークラフトからはじまったおもちゃ作り

――まず、「トイこころ」の前身ともいえる「ペーパークラフトAED」が生まれたきっかけを教えてください。
私は過去8年間医療系の仕事をしており、その後、工場機械の整備・保守を専門とする坂野電機工業所で働き始めました。
前職の経験を活かそうとAEDの販売を始めるなかで、AEDになじみがない人と話す機会が増えました。そこで、医療従事者と一般の方とで、AEDに対するイメージ・信頼度・認知度が全然違うことを実感したんです。
なので、ただAEDを販売するだけではなく、AEDを知ってもらうための普及活動を始めました。
当時はすでにAEDが普及して10年以上がたっており、全国で講習も実施されていました。にもかかわらず、なぜAEDの存在がまだまだ知られていない状況なのか。そう考えた時に、そもそも学ぶ以前に、「興味がない」「知ろうとする機会がない」ことが原因であると気づいたんです。
まずは興味を持ってもらうことが大切だと考え、「楽しい」がいつの間にか「知る・学ぶ」に繋がるようなコンテンツがあればと思いました。そこから、「作って学ぼう」をコンセプトにした「ペーパークラフトAED」が生まれました。
――「ペーパークラフトAED」の反響を受け「トイこころ」が生まれたとのことですが、教材ではなく「おもちゃ」として形にしようと思われたのはなぜでしょうか?
思いはクラフトを作った時と大きく変わっていません。
ただ、クラフトは小学校高学年以上が主なターゲットになると感じていました。もっと小さな頃からAEDに触れ、知る機会があれば、大きくなった時に講習を受けることも「当たり前だよね」と思える世界になるのではないか。そう考え、自分に何ができるかを模索しました。
そこで着目したのが「お医者さんごっこ」です。子どもたちが大好きなこの遊びの中にAEDが仲間入りすれば、自然な流れで興味を持ってもらうきっかけになるのではないか。そう考え、おもちゃとしてのAED、「トイこころ」を作ることにしました。
――そもそも、啓蒙の対象を大人ではなく子どもにしたのはなぜでしょうか?
普及活動をする際、もちろん大人へのアプローチも考えました。ただ、いいことではあるのですが、多くの大人はこれまでAEDに関わらない生活を送ってきており、ここから前向きに知ろうと思ってもらうのは、本当に難しいと感じていました。
そんなことを考えながらクラフトを制作する中で、一つの大きな可能性に気がつきました。それが「子どもから大人へ」という流れです。大人が教わるのではなく、子どもが取り組んでいることに大人が付き合う。その中で、大人は子どもから質問をされる。これが結果として、大人にとってもAEDや心肺蘇生を考えるきっかけになるのではないかと考えました。
そのような理由から、今は子ども向けのコンテンツに力を入れています。ただ、大人向けの展開も、いつか形にしていきたいと考えています。
「おもちゃとして楽しい」へのこだわりも

――AEDというテーマを扱いながら、子どもが遊ぶ「おもちゃ」としての魅力をどのように追求されましたか?
AEDらしさとおもちゃらしさのバランスはすごく考えました。AEDのおもちゃなので、もちろん「AEDらしさ」は残すべきですが、子ども達が気に入ってくれないと目的が達成できません。
なので「楽しさ」も追求し、光る・振動する・音声といったギミックを取り入れました。音声は本物のデモ機とは異なり、明るい話し方やポップで楽しいメロディーにしていますが、内容はしっかり聞くとデモ機に近いものになっています。
細かい気遣いでいうと、ショックボタンの後に心臓マッサージをする流れですね。本物は2分間ありますが、おもちゃでは長すぎるので10秒ほどに短縮しました。
また、本物のAEDには「終わり」がありませんが、「トイこころ」はおもちゃなので、最後に「ミッション完了だ!」というセリフを入れ、達成感を持ってもらえるようにしています。
「おもちゃだけどAED、AEDだけどおもちゃ」といったバランスを、自分なりにしっかり考えて作り上げました。
――これまで主にどのような方々が購入されましたか?
AEDや心肺蘇生法の啓発活動をされている方をはじめ、医療従事者の方、医療的ケア児のご家族、そして純粋に「おもちゃとして楽しそう」と感じてくださった方など、多方面から反響をいただいています。また国内だけでなく、アメリカやドイツ、マレーシアなど、海外在住の日本人の方々にも手に取っていただいています。
――実際に届いた、印象的な反応やエピソードを教えてください。
もともとAEDに興味を持つきっかけになってほしいという思いで作ったので、お子さんが「街中のAEDを自分で見つけるようになった」とか、家族で「今度講習に行こう」という会話が生まれたというお話を聞くと、本当に作ってよかったと感じます。
また、幼稚園や小学校の先生、病院関係者の方からも「命の話を伝えたかったけれど、なかなかきっかけがなかった。このおもちゃがその入り口を作ってくれた」といった言葉をいただいています。家の中でいろんなお人形を一生懸命助けているお子さんの姿など、遊びを通じて自然に意識が変わっていく様子が伝わってくるのが何よりうれしいですね。
「トイこころ」のこれから

――2025年末、大手雑誌からAEDのおもちゃ付録が登場しました。正直、普及という点ではライバルとも言えますが、このニュースをどう受け止められましたか?
これまでAEDを楽しく伝えるコンテンツは、決して多くはなかったと思います。そんな中で「まずはAEDを知ることから始めたほうがいい」という私の思いが、大手企業で形になったのは単純にうれしかったです。自分がやってきたことは間違いではなかったんだな、と再確認することができました。
多くの人が手軽に入手できる雑誌の付録は、AEDの普及にとって大きな効果があると思います。一方で、「トイこころ」ならではの良さがあるとすれば、「作り手の顔が見えること」かもしれません。北海道の片田舎から、AEDを広めようとがむしゃらに動いている人間の思いが詰まっている。そこが「トイこころ」の核となる部分だと思っています。
――「受注生産」という、非常に手間のかかる形でスタートされた「トイこころ」ですが、2026年3月に2回目の販売に踏み切った最大の理由は何だったのでしょうか?
「トイこころ」は2024年、受注生産で1,000個の発売からスタートし、2026年3月19日には3,000個の再販が決定しました。「全国、そして世界の子供たちに届けたい」という思いが根底にありましたので、もともと、このおもちゃを1,000個で終わらせるつもりはありませんでした。自社で可能な生産体制を整えながら、今回の再販を計画してきました。
ただ、初回の1,000個に対する反響がなければ、ここまでの自信は持てなかったかもしれません。完売後、本当にたくさんの方から再販を望む声をいただきました。中には「なぜ売っていないんだ」とお叱りを受けることもあったほどで(笑)、それだけ喜んでくれる、必要としてくれる人がいるんだと実感できました。
もともと予定していたことではありましたが、皆様の声があったからこそ、より確信を持って再販に踏み切ることができました。
――初回分を届けた後に寄せられた声や、社会の変化など、坂野さんの背中を押したエピソードがあればぜひ教えてください。
初回販売を迎える2024年11月1日の前日まで、「本当に売れるのだろうか」という不安は正直ありました。しかし蓋を開けてみれば、予想を上回るたくさんの方に手に取っていただくことができました。届いた後にいただいた、喜びの声や遊んでいるお子さんの写真の一つひとつが、何よりも嬉しかったです。
完売後も多くの方から再販を望む声をいただき、待っていてくれる人がこんなにいるんだと実感できたことが、今回の再販への大きな原動力になりました。公式サイトに寄せられている皆様からのレビューも、私にとってはすべてが嬉しいものです。
また、昨年は日本AED財団主催の「AED功労賞」で最優秀賞をいただくことができました。おもちゃという形ではありますが、専門家や業界の方々からも活動を認めていただけたのかなと感じ、とても励みになりました。
――これから「トイこころ」を手に取る方々やnobico読者に向けて、伝えたいメッセージをお願いします。
トイこころは、「まずはAEDを知ってほしい」「お医者さんごっこのように遊んでほしい」「その経験がいつか学びにつながってほしい」という思いで作りました。まずはぜひおもちゃとして興味を持っていただき、手に取ってさわっていただければと思っております。
遊び方は自由です。正しく遊んでほしいと思っていません。AEDと書かれているおもちゃで遊ぶ。いつもの空間にAEDが存在している。そのことに意味があると感じています。
※「トイこころ」の商品詳細や販売については公式ホームページをご確認ください。






























