「動物園からライオンが逃げた!」は本当? 善意で拡散する前に知っておきたいデマの仕組み
インターネットには、ウソの情報がたくさん混じっています。ときにはウソの情報が本当の事のように拡散され、誤った認識が広まったり、多くの人が正義感から間違った行動を起こしてしまうことも……。生成AIの進化によって、子どもはもちろん、大人でも嘘を見抜くのが難しくなっています。
日本やアメリカで実際に起きた3つの「ウソ拡散事件」を例に、ウソを見抜くポイントや、広めないための心構えを、メディア情報リテラシーの専門家・安藤未希先生の著書から抜粋してご紹介します。
※本稿は安藤未希著『スマホを持つ前に知っておきたい 情報との上手な付き合い方』(かんき出版)から一部抜粋・編集したものです。
ふざけて投稿した写真で逮捕される
大人でも、びっくりした勢いで、ウソをウソだと気がつかないまま拡散してしまうことは残念ながらよくあります。
2016年に熊本県で大きな地震が発生したとき、Twitter(現X)で「熊本県の動物園からライオンが逃げた」という情報が、街の中を歩くライオンの写真とともに拡散されました。しかしそれは海外で撮影された写真をふざけて投稿したもので、実際はウソでした。
この投稿は最終的に1万回以上リツイート(リポスト)され、たくさんの人が事実だと思い込みました。この投稿を見て、外に出て避難することをやめた地元の人もいると言われています。
そして、この投稿をした男性は、偽計業務妨害という法律違反の疑いで逮捕されました(のちに不起訴になりました)。ウソをついたことで、熊本市動植物園に100件を超える問い合わせの電話が入ったことで、この施設の業務を妨害したからです。
現在の日本では、ウソをついたり拡散したりすること自体は罪に問われることはありませんが、ウソをつくことで誰かに迷惑をかけたり、誰かの名誉を傷つけたりすると、逮捕されることがあります。
無意味にたくさんの人を心配させたウソ
静岡県で2022年に大きな水害が発生したときには、生成AIでつくられた画像が、「ドローンで撮影された静岡県の水害の様子」だとするウソのコメントとともに広がりました。
これを作成しTwitter(現X)に投稿した人は、「ここまでたくさんの人が信じ、拡散されるとは思っていなかった」と言います。半日後に「これは生成AIで作成した画像である」とはっきり説明しましたが、それまでに多くの人が「実際の静岡の様子だ」と思い込み被害を心配して投稿を拡散してしまいました。
拡散した人の多くは、「こんなウソをつく人はいないだろう」と投稿者のことを信じ、「静岡で被害にあっている人を早く助けてあげてほしい」という優しさから行動しました。加えて、当時は生成AIでこのような画像が簡単に作成できることを知らない人も多くいたため、たくさんの人が信じてしまったと考えられます。
生成AIの技術はどんどん進化していて、今では本物と見分けがつかない画像や動画をつくることができます。正確かどうかわからない情報はよく考えずに拡散するのではなく、まずは自分で調べて、信頼性や根拠を確認することが大切です。
ウソを信じて起こした行動で刑務所へ
アメリカでは2016年の大統領選挙の期間中に「ピザゲート事件」が起こりました。「ある大統領候補者陣営がピザ屋さんの地下で人身売買や児童虐待をしている」という噂がインターネット上で流れ、それを信じた人が銃を持ってピザ屋さんに乗り込み発砲してしまったのです。
実際には、このピザ屋さんではそのような悪いことは行われていませんでした。逆に、ウソを信じて発砲した人が逮捕され、禁固刑(一定の期間、自由を制限され刑務所で生活すること)になりました。
ウソを流すことはもちろんいけませんが、ウソを信じて行動を起こすことも大きな問題です。
わたしたちは「午後から雨が降る」という天気予報を見たら傘を持って出かけます。わたしたちはいつも得た情報をもとに「どのように行動するか」を決めているのです。
あなたは、ウソを信じて友だちに冷たく接してしまったり、ケンカをしてしまったりしたことはありませんか?
ウソが自分の行動を変えるかもしれない、すでに変えているかもしれないと考えると、事実をより正確に知ることの大切さがわかるのではないでしょうか。
ウソの情報に惑わされないために
これまで見てきたような広く拡散されてしまう「ウソ」には、いくつかの共通点があります。
①中心の話題(災害が起きた、選挙があるなど)は事実(本当)
②正確な情報とウソが混ざっている(正確な文章の中にウソの数字を混ぜるなど)
③画像が加工されていたり、関係のない画像が使われている
特に、事実と意見が混ざっていると、どこまでが事実でどこまでが意見かがわからず、ウソに惑わされやすくなります。
そして、災害が発生したときなど、短い時間で情報がウソか本当か判断して行動する必要があるときや、感情にうったえかける内容であるときには、特にウソが生まれ拡散されやすくなります。
「拡散しやすいウソの特徴」を知っておくと、実際の投稿を目にしたときに「この情報は何かおかしい、もしかしたらウソかもしれない」と気がつく可能性がぐっと上がります。 では、「ウソかもしれない」と思ったときは、どのようなところに気をつけて投稿の内容をチェックすれば、ウソだと見ぬける確率が上がるのでしょうか。
正確かどうかわからない情報を見つけたときは、「事実」と「ウソ」が混ざっていないかをチェックしてみましょう。そして、情報を発信しているアカウント、発信日時、そのアカウントが過去に発信したほかの情報などを確認してみると、その情報の信頼性が見えてきます。
「ウソだ」と決めつけることもNG
これまで見てきたとおり、特に災害が起きたときにさまざまなウソの情報が生まれ、拡散され、社会に影響を与えてきました。その結果、何か少しでも違和感のある投稿を見つけた人は、「この投稿はウソではないか」と考えるようになりました。情報を冷静に受け止めることはとても大切ですが、本当のことがウソではないかと疑われたり、ウソだと決めつけられることも起きてしまっています。
たとえば、2023年5月に石川県の能登半島で地震が起きたときには、地震発生から23分後にTwitter(現X)に倒壊した家屋の写真が投稿されました。それを見て「この写真はウソではないか」と疑ったり、はじめから「ウソだ」と決めつける人が続出し、投稿も広く拡散されましたが、結局は本当に起きたことでした。
ウソの情報を本当だと信じることも、本当の情報をウソだと信じることも、同じようにいいことではありません。まずは情報と冷静に向き合い、その情報が本当なのかウソなのかを冷静に確認しましょう。確認できない場合は、本当かウソかの判断は保留にして、コメントや拡散もせず、自分の中に情報をとどめておくことが大切です。
安藤未希 (著)『スマホを持つ前に知っておきたい 情報との上手な付き合い方』(かんき出版)
・生成AIにウソをつかれた
・気になる動画がどんどん流れてきてYouTubeをやめられない
・ふざけて送ったメッセージで友だちを怒らせてしまった…
・テレビとSNSで言ってることがちがう?
こんなインターネットの「なぜ?」やトラブルの原因がわかり、スマホやタブレットを上手に使いこなせるようになる本ができあがりました。
インターネットは特別なものではなく、勉強や習い事などと同じように、練習を積み重ねることで上手に付き合うことができるようになるものです。
全国の学校を回り、子どもたちに「メディア情報リテラシー」の授業を行う著者が、そんなインターネットと情報に接するときの土台になる考え方をわかりやすくお伝えします。
中身はイラスト満載!
ルビも振られているので、親子で一緒に楽しめます。
もちろん、お子さんがひとりで読むこともできます。
これからを生きていく子どもたちは、インターネットを避けて通ることができません。
混乱に巻き込まれないためには、インターネットについての知識を身につけ、自分自身で情報を判断する力が必要です。
また、情報との付き合い方を考えることは、周りの友だちや大人との付き合い方を考えることにもつながります。
インターネットの世界を上手に使いながら、素敵な現実世界をつくっていきましょう。
