「難関中に入れば安泰」は本当か? 入学後の“深海魚化“と内部進学の落とし穴

「わが子を少しでも有利な進路に」、そんな思いから、中学受験を選ぶ家庭は年々増えています。
しかし実は、偏差値の高い学校に入ったことが、その後の進路選択で思わぬ不利につながるケースがあります。入学後に成績が低迷する「深海魚」問題、評定平均の取りづらさ、附属校での学部制限や目的意識の欠如……。
「いい学校に入れれば安泰」という常識の裏側で、子ども達に起きている現実とは?。中学受験後に見落とされがちな落とし穴について、『12歳から始める 本当に頭のいい子の育てかた』より抜粋して解説します。
※本稿は、孫辰洋 (著)中山芳一(監修)『12歳から始める 本当に頭のいい子の育てかた』(ダイヤモンド社)より一部抜粋、編集したものです。
「偏差値の高い中高一貫校に入れて安心」ではない

お子さんが12歳になり、中学受験を経験した方、これから経験する方もいらっしゃるのではないでしょうか?
都内では、中学受験をする家庭が年々増えています。2020年代には、東京23区では、小学6年生のうちおよそ2人に1人が中学受験を経験している区もあるほどです。中学受験を考えている家庭は小学3〜4年のときから塾に通うのが当たり前であり、小学1年生から塾に通っている子どもも多いです。たしかに、これらの時期に算数の計算力や理科社会の暗記などをしっかり勉強したほうが、吸収力も高く、その後の一般受験やペーパーテストにおいて有利に働く場合があります。
こうした現状を見ると、親御さんは「子どもをいい大学に入れたいなら中学受験は必須では?」と思ってしまうかもしれません。
しかし実は、中学受験に成功したことが、逆に大学受験での大きな失敗につながってしまうケースがあるのをご存じですか?
中学受験の成功が将来の足かせになることも

中学2年生のBくん。中学受験でなんとか行きたかった名門中学に合格し、これで一安心……と思いきや、その中学での勉強に全然ついていけなくなってしまった。中学受験ですっかり燃え尽き症候群になり、ネットゲームにハマってしまって学年最下位に近い点数を連発。勉強のやる気は完全になくなってしまったみたい。塾や家庭教師という選択肢も考えたが、反抗期もあり、全然親の言うことを聞いてくれない。このままではせっかく難関中学に入ったけれど、ダメになってしまうのではないかと不安。
いっそのこと、今の学校をやめさせて違う学校に行ってもらったほうがいいのではないか? とお母さんは思っている。
さて、このお母さんの考えかたは正しいか? 間違っているか?
このケース、実は非常に多いです。中学受験で難関中学に合格できたはいいものの、その中学校で成績が下がってしまうケースですね。
このような生徒のことを、「深海魚」と呼ぶ場合があります。「深海魚」とは、中学受験で難関校に合格したものの、入学後の成績が低迷し、そのまま浮上できなくなってしまった生徒を揶揄(やゆ)した言葉です。進学校のなかで上位層にいるトビウオやイルカのような存在ではなく、海の底に沈んでしまった生徒──それが「深海魚」です。
彼らはもともと、非常に努力して中学受験を突破したはずの子どもたちです。小学校時代には塾で夜遅くまで勉強し、遊びの時間も削って努力してきた。ところが、入学後に同級生たちのレベルの高さや課題の多さについていけず、「自分はもうダメだ」と思い込んでしまう。その結果、勉強へのモチベーションが著しく低下し、授業にも部活にも参加しなくなってしまう。まさに沈んでいく状態です。
中学受験を経験した子どもたちにとって、入学直後の学校の成績は、アイデンティティの源泉です。ところがそこで自信を失ってしまうと、「自分はできない人間なんだ」と思い込んでしまい、チャレンジ精神すら失ってしまうのです。これが深海魚化のメカニズムです。
もちろん、すべての子どもがそうなるわけではありません。難関校に入っても、のびのびと力を発揮する子もいます。しかし、「偏差値が高い=その子にとっていい学校」とは限らない、ということを、私たちはもっと認識しなければならないのです。
そしてここで問題なのは、「評定平均」という制度上の落とし穴です。27ページでも述べたように、現在の大学受験では一般入試以外の入試形態もとても多いです。しかしそんななかで、推薦入試においてはこうした難関校に居続けることが大きなデメリットになってしまう可能性があります。
学校推薦型選抜において、多くの大学は「高校3年間の評定平均」を重視します。評定とはいわば「通知表の成績」。この評定が4.0以上ないと応募できない大学も少なくありません。
ところが、偏差値の高い中高一貫校などでは、授業内容が高度であるため、平均点がそもそも低くなりがちです。つまり、偏差値が高い学校ほど、評定が取りづらくなるというジレンマが生まれます。たとえば、偏差値70の学校では評定が3・2しか取れない生徒が、偏差値50の学校なら評定は4・2になる……ということが発生するのです。このシステムを考えると、難関校に居続けることは受験において大きなデメリットになる可能性があるのです。
親が「せっかくいい中学に入ったのだから」と学校にしがみつかせることで、かえって子どもの選択肢を狭めてしまう──そんなケースが現実にたくさんあります。「中学受験で子どもをいい中学に入れれば安泰」というわけでは全くないのです。
附属校に入ったけど、希望の学部に進めない?

高校3年生のCさん。中学受験で有名私立大学附属の中高一貫校に合格し、親子で大喜び。大学受験をしなくてもそのまま進学できると思っていたため、あまり進路について深く考えることなく高校生活を過ごしていた。
高校3年生になって心理学に興味を持ち始めたCさん。ところが、内部進学先の大学には心理学部が存在せず、他学部では自分のやりたい勉強ができないことが判明。
一般受験も視野に入れようとしたものの、そもそも受験勉強をしていなかったため、偏差値的にも厳しい。評定も思ったより高くなく、推薦入試にも挑戦できない。Cさんは「附属校に入ったはずなのに、希望の学部に行けないかもしれない」と焦っている。
このようなケースも、実際によくあります。
大学附属校というと、「レールが敷かれていて安心」というイメージがありますが、進学にはいくつものハードルが存在します。まず一つ目は、「進学できる学部が限られている」という問題です。
大学によっては、附属生の進学先学部が事実上指定されていたり、定員が非常に少なかったりします。Cさんのように、高校3年生になってから興味が出てきた分野が附属の大学に存在しないということも珍しくありません。つまり、「やりたいこと」が後から出てきた場合に、それに対応できないことがあるのです。
二つ目は、「評定不足」という問題です。附属校であっても、内部進学には一定の成績基準が求められます。高校1年生からの定期テストや提出物、態度などが点数化され、それらの総合で評定が算出されます。その結果、思ったよりも評定が足りず、希望する学部には進めない──というケースが少なくありません。
そして三つ目にして最も大きな問題が、「目的意識の欠如」です。
附属校にいることで、「大学には行けるから大丈夫」と油断してしまい、進路について自分で考える機会を失ってしまう子がいます。内部進学はある意味“自動運転”のようなもの。そのため、自分の将来について深く考えることなく流されてしまうことがあるのです。
ところが、総合型選抜や学校推薦型選抜では、この「目的意識」が最も重視されます。なぜその大学に行きたいのか、なぜその学部を選んだのか、何を学びたいのか。そうした問いに、自分の言葉で答えられる子が評価されるのです。
そのうえで、多くの人が附属の大学に進学する学校の場合、そのままエスカレーター式に大学に行く人が多いため、他の大学に行く人は「マイノリティ」になってしまいます。先生にも他の学校の先生に比べて受験のノウハウがなく、推薦入試についてあまりわかっていない、というケースもあります。
ちなみにこのケースについて、読者のなかにはこう思う方もいるかもしれません。「やりたいこととか別に考えなくても、学部なんてどこでもいいから、内部進学できるならとりあえず進めばいいのに」と。この選択では学歴は手に入れられるかもしれませんが、やりたいことが何なのかを考える時間が取れなくなり、子どもが成長する過程を奪ってしまっているのです。
孫辰洋 (著)『12歳から始める 本当に頭のいい子の育てかた』(ダイヤモンド社)
「勉強が苦手」「学校に行きたくない」「塾にはもう行きたくない」
「勉強よりも好きなことがある」「中学受験にうまくいかなかった…」
こうした悩みを抱えていた子どもたちが、実は推薦入試で名門大学に進学していることをご存じでしょうか。
本書では、東大・京大・早稲田・慶應・旧帝大・GMARCHなどに推薦入試で合格した学生の1万件以上の志望理由書を分析。
その結果、彼らに共通する「子どもを伸ばす10の力」が明らかになりました。
12歳は、小学生から中学生へと環境も価値観も大きく変わる時期。この時期に差がつくのは、勉強の得意・不得意ではなく、自分で考え、選び、続けられる力です。
本書では、「自分の力で課題を見つけ、解決し、社会の中で生き抜いていける子」を「本当に頭のいい子」と定義します。
そして、推薦で名門大学へ進んだ子どもたちは、例外なく、この10の力を12歳ごろから育てていたのです。
本書では、その10の力をどのように家庭で育てていけるのかを、実際の体験談とともに、無理なく実践できる形でわかりやすく解説します。
「うちの子はこのままで大丈夫?」
そんな不安に寄り添いながら、子どもの将来の選択肢を広げるための一冊です。






























