愛着障害の子どもに必要な「キーパーソン」とは?たった一人の“特別な人”が親でなくてもいい理由

米澤好史
2026.03.20 14:37 2026.03.20 11:50

親の話を聞く子ども

特定の大人との間に、心の土台となる絆が育ちきっていない「愛着障害」。
そんな愛着障害の子どもの支援で最初に行うべきことは、その子の心の拠り所となる「キーパーソン(特定の一人)」を決めることです。

キーパーソンは、必ずしも親が担う必要はありません。
なぜ「みんなで」ではなく「一人」から始めるべきなのでしょうか。「愛情のつまみ食い」を防ぎ、子どもの絆を育み直すためのキーパーソンの役割を、米澤好史先生の著書よりご紹介します。


※本稿は、米澤好史 (著)『愛着障害スペクトラム こどもの気持ち&支援スキル大全』(講談社)より一部抜粋、編集したものです。

愛着修復はまず「ひとり」と始める

男の子とお母さん

ここでは私が開発した「愛着修復プログラム(ARPRAM/ア ープラム)」をもとに、親、里親、保育士、教職員など、現場でこどもの支援にあたる方がすぐ使える支援スキルを紹介します。

愛着障害の支援を始めるにあたり、必ず覚えておいていただきたい(と同時に、最初に実行していただきたい)ことは、「キーパーソンの決定」です。

愛着とは特定の人と結ぶ情緒的なこころの絆です。ご家族の誰かひとり、あるいはその職場にいる誰かひとりが、その特定の人=愛着対象になろうとしなければ、支援は絶対にうまくいきません。

愛着の絆は、まずは必ず「ひとり」と結ばれます。こどもは、そのひとりとのかかわりのなかで愛情の受け止め方・感じ方を学び、学んだことをモデルとして活かすことで、人間関係を広げていきます。

最初から多くの人が好き勝手にはたらきかけてしまうと、こどもは愛情を注がれたときに受ける一時的な快感だけを学びます。そしてより多くの快を求めて、あの大人からこの大人、と好き勝手にかかわりを持つようになります(愛情のつまみ食い現象)。これでは「特定のひとり」との愛着形成は始まらず、したがって支援にならないのです。

急いで付け加えておきますが、キーパーソンは「ひとりで支援をすべて担う人」を意味するわけではありません。他の人も、キーパーソンをサポートしつつ支援に参画すべきです。

以下は、おもにキーパーソンに役立てていただきたい心得・支援スキルです。

愛着対象をつくる

子どもを慰める親

キーパーソンには誰でもなれますが、立場上、次の要件を満たしている人が適任です。

①支援を要するこどもと一対一の関係をつくりやすい
②かつ、その子のことを最もよく(場合によっては本人よりも)知っている。または知っている人となろうとする

家庭内では父母のいずれかがキーパーソンになってもいいですし、こどもの生活環境によっては祖父、または祖母が適している場合もあります。

教育現場でキーパーソンの役割を果たせる可能性が高いのは、学級担任であることが多いでしょう。たとえば小学校の担任はひとりで多くの児童をみていますが、少し手があいたときにはクラスの特定の児童への個別対応ができます。それもまた「一対一の関係をつくりやすい」状態なので、特別支援学級の教員や養護教諭、支援員などでなくとも、普通学級の担任で十分、キーパーソンは務められます。

ただ、愛着障害が強いケースでは、他の児童とかかわりつつかかわることになる担任より、より個別性を確保しやすい職員のほうがいい場合もあります。

たとえば支援員、特別支援学級や通級担当の教員、養護教諭のほうがキーパーソンとして機能しやすい現場もありますし、管理職の先生にキーパーソンをしていただいたケースも多々あります。また、保育園では加配の保育士、中学校ではクラブ顧問など、前述した①、②の2つの条件を満たしている人はもちろん、まだ満たしていなくても、満たそうと試みていただける人なら誰でもキーパーソンになれます。

なお、ASD+愛着障害タイプのこども、年齢の高いこどもの場合は②、つまり、その子をどれくらい知っているかが、要件として重みを増してきます。とくにASD+愛着障害タイプのこどもを支援するキーパーソンには、その子が一目置いている人を選んだほうが支援がスムーズに進みます。

キーパーソンをきちんと機能させるために

見つめあう親子

こどもが「誰が自分にとってのキーパーソン=愛着対象なのか」を意識できなければ、支援はうまくいきません。キーパーソンを意識してもらうために、キーパーソンを含む大人全員が次のことを必ず守るようにします。

●キーパーソンは持ち回りにしない
たとえば「午前中はA先生がキーパーソン、午後はB先生」「平日は母親が、休日は父親がキーパーソン」というふうに、持ち回りやローテーションにしてはいけません。こどもからすると、誰がキーパーソンなのかわからなくなります。

●各々が勝手にかかわってはいけない
キーパーソン以外の人が、キーパーソンを差し置いてこどもにかかわってはいけません。こどもの目の前でキーパーソンの支援に口を出したり、遮ったりするのは、たとえ先輩・管理職であっても厳禁です。あくまで補助にまわり、キーパーソンがこどもの「特定の人」になれるよう、キーパーソンを立てます。

キーパーソンから始まりキーパーソンに終わる支援

キーパーソン以外の人が、こどもにかかわる必要があるときは、必ず次のようにします。

●そこにキーパーソンがいるときは、許可を得る様子をこどもに見せてからかかわる
●キーパーソンが不在なら、こどもにキーパーソンを意識させる声かけ・接し方でかかわる

これを私は「キーパーソンから始まりキーパーソンに終わる支援」と呼んで、どの現場でも大切にしていただいてきました。

米澤好史

奈良県生まれ。京都大学文学部を卒業後、同大大学院文学研究科博士後期課程、和歌山大学教育学部助教授などを経て2004年より和歌山大学教育学部教授。専門は臨床発達心理学および実践教育心理学(こどもの特性理解と発達支援、学習支援。人間関係支援、子育て支援)。あかちゃんから大人までのトータルな発達支援と現場主義をモットーに、児童養護施設、障害児者入所・通所施設、幼稚園、保育園、こども園から小中学校、高校、特別支援学校まで、さまざまな現場に直接出向いて助言・支援を行ってきた。信条は「元気が出て納得できるアドバイスを支援者に行うこと」。2026年1月急逝。

愛着障害スペクトラム

米澤 好史 (著)『愛着障害スペクトラム こどもの気持ち&支援スキル大全』(講談社)

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●大声や奇声を発する ●親や先生から逃げる
●大人にまとわりつく ●要求がエスカレート
●自分の非を認めない ●危険行為をくり返す
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これまで虐待やネグレクトと安易に結びつけられていた「愛着」の問題をより広い視点からとらえ直し、数々の誤解を解くコラムも多数収録。
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