子どもの感情を豊かにする親の言葉…幼児から小学校低学年までの子育てのポイント
子どもに「感情」を教える必要がある
これまで教育に関する研究では、人間の「知識」「思考」といった、考えたり学んだりする力がどう発達していくかということが注目されてきました。しかし近年は、特にアメリカを中心に 「感情の発達」に注目していこうという動きが高まっています。
日本では、これまで「感情の教育」というものは強く意識されてきませんでした。
「もう、泣かないの」「あなた、笑いすぎよ!」などと、お母さんが子どもに言ったりしますが、「感情」をきちんと教えているわけではありません。
それでも昔は、わざわざ教えなくても、子どもの感情を育てることが自然とできていました。親やきょうだい、地域の人たちなどたくさんの人々のなかで、泣いたり笑ったり人々の表情や言動を目にすることにより、感情表現が豊かになって、感情にかかわる知識を学んでいったのです。
しかし近年は、親自身の感情表現も豊かでなくなり、気持ちを大事にして伝えるというかかわりが少なくなってきているように思います。そうすると、子どもは誰からも「感情」に関して教わらないまま成長していくことになってしまいます。
それでは、感情が育まれない場合、いったいどうなってしまうのでしょうか?
感情は年齢とともに発達していきます。
たとえば、うれしい顔・怒っている顔・悲しい顔・驚いている顔など、基本的な表情の絵を見せたとき、何歳ごろからすべて正解することができるでしょう。
4歳では間違う子どももいますが、おおよそ5歳くらいになると「これは怒っている顔」などとわかるようになります。しかし、問題行動が多い子どものなかには、表情の読み取りがうまくいかない子どもがいます。
そうすると、日常のなかで相手の表情を見ていなかったり、読み取れないということが出てきます。そのため、友だちをたたいたときにその子の顔を見て「悲しい顔」ということがわからず、いつまでもたたいてしまうようになります。
このように、感情が育たなければ、自分の感情をきちんと表すこともできません。悲しいときに「悲しい顔」ができない、うれしいときに「うれしい顔」ができない。そうすると、相手から自分のことを理解してもらえなくなってしまいます。
また、子どもは成長するなかで、感情の幅が広がっていきます。
たとえば小学校低学年の頃は、
「明日は運動会だからうれしい」
「雨が降ったら悲しい」
と単純に考えますが、高学年になると、
「運動会だからうれしいけど、雨が降りそうだからちょっと不安」
と、ポジティブな気持ちとネガティブな気持ちが入りまじるときもあるということを理解できるようになります。
こうして感情の幅が広がっていくとともに言葉もどんどん覚えて、子どものボキャブラリーは増えていきます。
そうすると自分の気持ちを言葉で表せるようになります。自分の気持ちを言葉にすることができずにトラブルを起こしたりトラブルに巻き込まれてしまったりすることもあります。
つまり、気持ちをうまく伝えることができれば問題を予防したり解決できることが多くなります。
大人でも、自分の気持ちをうまく言葉にできない人がいます。
何かもやもやすることがあったとき、皆さんは自分の気持ちを言葉にして誰かに聞いてもらっていますか?
たとえば、「この間、駅で知らない人の足を思いっきり踏んじゃったの。あわてて謝ったんだけど、すごくにらまれて怖かったわ。なんだか落ち込んじゃって、まだショックをひきずってるの」
などと自分の気持ちを言葉にして人に話せたら、
「そんなこと気にしなくていいわよ。謝ってるのににらむなんて、その人が大人気ないと思うわ」
と相手が返してくれるだけで、救われた気持ちになるでしょう。もやもやした気分やイライラした気持ちは、案外人に話すだけで、すっきりと解決することが多いものです。
しかし自分の気持ちをうまく言葉に表せないと、ネガティブな気持ちを自分のなかに抱え込んだまま、悩み続けることになってしまいます。
子どもが上手に人とかかわっていけるように、成長してからも社会で健全に生きていけるように、生活のなかで「感情」を育んでいく必要があると思うのです。