「話が聞ける子」は、さまざまな能力を身につけることができます。 最近の子どもの傾向と、「聞く力」がどんな能力を伸ばすのかを考えてみましょう。

 

 

なぜ 「話が聞けない子」が 増えたの?

 

『聞く力』(阿川佐和子著/文藝春秋)という新書がベストセラーになり、大人の世界でも改めて「聞く力」が注目されました。 子育てにおいても、子どもたちの「聞く力」を育むことがいかに大事か考えてみる必要があります。 最近の子どもたちは、人の話が「聞けない」「聞かない」ので困ると嘆かれています。まず、なぜ「聞けない子ども」が増えてきたのか、その理由を3つにまとめました。

 

【話が聞けない理由1】
「聞くこと」より「話すこと」のほうが 重視されている

 

1つめは、「話すこと」が重視されすぎてきた結果です。親は子どもに「黙っていないで、何とか言いなさい!」「話さなければわからないじゃないの」「いったい何を考えているの?」などと言い続けてきました。しっかりと自分の考えを述べることが大事で、いかに自己主張し、自己表現力を育てるかに関心を向けてきたのです。「聞くこと」より「話すこと」が重視されてきたのです。 黙って聞いていることは価値あることではなく、話すことができないから黙っていると、とらえられかねないのです。

 

【話が聞けない理由2】
心を惹かれる刺激が多く、周りのことに関心が向かない

 

2つめは、子どもたちの身の回りには、心を惹かれるたくさんの刺激があることです。たとえばゲームがあったり、さまざまな音楽や映像が流れています。スマートフォンやネットの世界も、もうすでに子どもの生活の中に入りこんでいるかもしれません。 それらは子どもの気持ちを強くとらえ、子どもたちはすっかりのめりこんでいます。その結果、周りのことに、ほとんど関心が向けられなくなってしまっています。そんな子どもたちが、とても増えているように思います。それでは、お母さんの言葉さえ、なかなか耳に届きません。

 

【話が聞けない理由3】
命令や指示ばかりで、言葉に魅力がない

 

3つめは、子どもにかける言葉そのものに魅力がないことです。特にお母さんの発する言葉は、ほとんどが「早く!」「〇〇しなさい」「だめでしょ!」などの命令語や指示語です。子どもにとって魅力のある、耳を傾けさせるような言葉でないことが多いのではないでしょうか。 子どもが耳を傾けて聞こうとするような言葉かけを工夫する必要があります。そのためにはお母さんの気ぜわしい気持ちを少しわきにおいて、じっくりと子どもの目を見つめながらの語りかけと、ゆとりある態度が求められます。

 

幼児期の「聞く力」が、 伸びる子の土台になる

 

「聞く力」を土台にして、子どもの将来に必要な7つの能力が伸びていきます。

 

【能力1】 落ち着きと集中力、 根気が身につく

 

今の子どもは多くのものを与えられ、身の回りには、気持ちをとらえて離さないさまざまな強い刺激がたくさんあります。つい1つのことに集中できないで"あれもこれも"、あるいは"これをしながらあれも"という落ち着きのないことになってしまいがちです。「ながら族」という言葉もありましたね。 「聞く力」を育むことは、そういう周りの雑多な誘惑や雑音に気を散らさず、落ち着いて、物事に集中する力を育てることでもあります。 しっかりと「聞ける子」になれば、集中力がついて、根気が養われていきます。

 

【能力2】 想像力を育む

 

最近の子どもは想像力に欠けているとよく言われます。目の前でくり広げられる強い映像や刺激に影響されて、自分の中でしっかりとしたイメージをつくることが妨げられて、情報は十分あふれているのに、かえって想像する力が弱くなっているのです。 「聞く力」が身につくと、相手の言葉に耳を傾けながら、心の中にイメージをつくっていくことができます。場面を思い描き、状況を想像し、相手の気持ちや立場をおしはかるという想像力を豊かに育むのです。

 

【能力3】 思いやりの心、 共感する心を育む

 

子どもは、自分の気持ちを受け入れてもらいたい、わかってほしいと思う気持ちのほうが強く、相手を理解しようとすることは、まだ苦手です。しかし、相手の言葉をしっかり聞くことから、次第に相手を認め、相手の存在を強く意識することができるようになっていきます。「聞くこと」は、相手の立場に立って、相手の心を理解し、相手の気持ちを受け入れることへの第一歩なのです。 したがって、思いやりのある温かい心をもった子どもに育てたいと思うなら、まず小さいころから、しっかりと相手の顔を見て、その言葉に耳を傾け、その言葉を理解するように育てていくことが必要です。それは、言葉からくみ取れる相手の気持ちを理解し、共感する心につながっていきます。

 

【能力4】 コミュニケーション 能力が育つ

 

人との関係をスムーズにするためには、コミュニケーション能力がとても大事です。それなのに最近の子どもたちは、人との関係をうまく築くことができないのではないか、と言われています。その原因の1つとして、ゲームなどに代表されるようなヴァーチャルな世界に没頭して、現実の世界から離れてしまっていることも指摘されています。それでは現実の人と関係を築くことがうまくできず、希薄な人間関係になってしまいます。 人間関係の基本である「人の話を聞く」ことにより、コミュニケーション能力も育ちます。

 

【能力5】 話す力が備わる

 

「聞くこと」は「話すこと」の土台となる能力です。ただ、はじめにも指摘したように、私たちは話すことに注意を向けすぎてきた傾向があります。話すことは大事なことですが、話すことだけを強要してもあまり効果的ではありません。 赤ちゃんが言葉を覚えて話すことができるようになるためには、話せる言葉以上に聞き分ける言葉が多くあり、言葉の理解力が備わってはじめて言葉として発することができるのです。それは赤ちゃんから成長した子どもにとっても言えることです。その土台となるしっかりとした「聞く力」があれば、話す力もおのずから備わっていくと言ってもいいでしょう。

 

【能力6】 読解力や作文の力を 伸ばす

 

「聞くこと」によって、話す力も伸びていくと書きましたが、それは文字の世界にも通用することです。「聞くこと」は言語能力を育てるもっとも基本的な活動ですから、「聞くこと」によって、子どもの言葉の世界が豊かになり、文字を通した言語活動が豊かに育つ土台をつくることになります。 幼児期においてはまだ読んだり、書いたりはあまり要求されませんが、いずれ学校生活が始まったら、そのことは大きな比重を占めるようになります。この時期の「読み聞かせ」が子どもの心を豊かにすると同時に、将来の「読み言葉」や「書き言葉」の基礎になっているのです。

 

【能力7】 学力を伸ばす

 

「聞く力」を身につけることが将来の学力にかかわると言うと、お母さん方は目の色を変えるかもしれませんね。言葉は知識や知能と密接に関係しています。言葉をしっかりと聞くことは、単に国語の力がつくというだけでなく、思考力を高め、理解力を深めることにも深くつながっていきます。そのことは学習の基礎であり、学力を伸ばすもっとも重要な条件と言えるでしょう。 しっかりと「聞く力」を身につけた子どもは、いずれ必ず学力が伸びていきます。

 

【著者紹介】
河井英子(かわい・えいこ)
田中教育研究所所員。武蔵丘短期大学を定年退職し、現職。臨床心理士として、子どもの心と教育をテーマに活動。専門は発達と学習の心理学、健康の心理学。

 


 

のびのび子育て

「PHPのびのび子育て」は未来を担う子どもたちの健全な成長と幸せを願って、発刊している月刊誌。 2016年5月号の特集は<ちゃんと「話が聞ける子」に>です。

 

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