子どものための発達トレーニングで大切なこと

岡田尊司
2023.11.06 14:00 2017.05.21 12:00

砂遊びする子ども

「不注意で見落としが多い」「忘れやすい」「聞き取りが弱い」「言葉の遅れ」「運動が不得意」「コミュニケーションが一方通行」「人前で話せない」「漢字や図形が苦手」「感情や行動が制御できない」「パニックになる」「計画が苦手」「イライラしがち」……。岡田尊司著『子どものための発達トレーニング』(PHP新書)では、発達の課題を克服するためのトレーニングを紹介しています。本書で岡田氏は、トレーニングに取り組むうえでは、診断名ではなく、子ども一人ひとりが抱えている特性や課題を把握することが大切と指摘しています。

※本記事は岡田尊司著『子どものための発達トレーニング』(PHP新書)より一部を抜粋したものです

診断よりも個々の特性が大事

少し専門的な話になりますが、大事なところなので、少し頑張ってお読みください。

発達のトレーニングに取り組んでみようという方やその方法に関心があるのは、教師や発達の専門家の方だけではないでしょう。何と言っても一番多いのは、ご自身の子どもさんが「発達障害」と診断されたり、その傾向があると言われている方ではないでしょうか。まだ、診断や検査を受けたことはないけれど、少し気になる点があるという方もいらっしゃることでしょう。

特に診断を受けているという方について、気をつけていただかねばならないことは、診断名がすべてを表しているわけではないということです。診断名は、その子の一番課題となる部分だけを反映しているということが多いのですが、中には、その子の現実の課題に、あまりぴったりとは言えない診断名がついてしまっているという場合もあります。

診断名も、次々と変わったりして、かなり混乱しているという現状もあります。発達の課題のあるお子さんについて、今日よく使われる診断名としては、「自閉スペクトラム症」(「広汎性発達障害」や「自閉症スペクトラム障害」「アスペルガー症候群」なども使われてきた)「ADHD」「学習障害(LD)」「知的障害」が多いかと思います。

しかし、同じ診断名でも、その子の抱えている課題は、一人ひとりかなり違います。診断名という縦割りのカテゴリー(分類)とは関係なく、課題がまたがっていることの方が普通です。

発達のトレーニングを行う場合に大事なのは、診断名ではなく、子ども一人ひとりが抱えている特性や課題です。ですので、診断名ごとにトレーニングを考えるというのは、その子の実態に即していないのです。ベースにある課題を、もっと細かく丁寧に把握し、それに応じたプログラムに取り組んでいくことが求められるわけです。

例えば、自閉スペクトラム症と診断されている子どもさんでも、表情の読み取りが比較的問題なくできる子もいれば、まったくできない子もいます。ADHDという診断名がついている子でも、表情の読み取りが悪い子も少なくありません。そういう子では、怒っていない普通の顔を見ても、怒っているように受け止めてしまうということが起きやすいと言えます。一方、虐待やイジメの被害に遭っているお子さんでは、診断名に関係なく、表情の読み取りに課題が認められやすいのです。

自閉スペクトラム症と診断されているケースでも、注意力の低下している子もいれば、逆に優れている子もいます。言語理解、視覚・空間認知、ワーキングメモリー(作動記憶)、処理速度など、ばらつき方は一人ひとり違います。

学習障害(最近は「学習症」とも)という診断についても同じです。耳から聞いて覚えるのは問題ないけれど、読んで覚えることができない子もいれば、読んで理解することは得意だけど、文字を書くことが極めて苦手という場合もあります。計算は得意だけど、文章題がまったくできない子もいれば、一問一答式や選択式の問題なら答えられるのに、文章を自由に書いて答える感想文は死ぬほど嫌いという子もいます。

こうした課題を改善するためには、その子がどの情報処理の部分に困難を抱えているのか、さらにベースの部分の課題を把握する必要があるわけです。学習障害の原因が、ワーキングメモリーが低いために起きている場合もあれば、目と手をうまく協応させて使いこなすことが苦手で、文字を書くといったことに困難がある場合もあります。図や形を覚えることが苦手なために、困難が起きている場合もあります。

ベースにある原因を突き止めることで、はじめて必要なトレーニングも見えてくるわけです。闇雲にトレーニングすればいいというものではなく、きちんと課題を把握するためのアセスメントも大切なのです。

 

トレーニング効果を倍加させる決め手とは

発達のトレーニングにおいて、実は、もっと重要なことがあります。それをお伝えしたいと思います。

早く改善したいと望む人は、ともすると、方法にばかり目を奪われがちになり、あたかも障害や課題が克服できる魔法の方法があるかのように期待しがちですが、人間の発達や心の問題は、それほど単純なものではありません。それは、特別なサプリメントを飲めば、健康な体や若さが手に入ると期待するようなもので、現実にはそういうものはないどころか、偏って一つの食品やサプリばかりを摂りすぎることは、むしろ有害なのです。

発達のトレーニングにおいても、このプログラムがいいので、こればかりをやればいいというものではありません。それは、あくまで筋トレやサプリメントのようなものであり、普段の生活がもっと大事なことは言うまでもありません。限られた短い時間で行うトレーニングが効果的なものになるためにも、普段の生活習慣や家族や学校でのかかわり方が大切になります。

そして、そこにおいて最大の力を発揮するのは、ご家庭や学校が、本人にとっての「安全基地」となるということなのです。学校が、安全基地ではなくなっているというケースも多いことでしょう。そこを変えていくためには、学校の先生の理解や協力が欠かせませんが、まずできることは、家庭だけでも、その子の安全基地となれるように努力することです。

この効果は絶大で、実際にやってみればすぐに実感できると思います。安全基地機能を高めることで、子どもの発達や適応力の促進をはかる方法は「愛着アプローチ」と言い、発達トレーニングと合わせて行うことで、効果がぐんと高まります。愛着アプローチについては、最後の章で説明しますが、子どもにとっての安全基地となることが、何よりもその子の力を引き出すことになるということだけを、今は心にとどめておいてください。

このことは、発達トレーニングをご家庭や学校で行う場合にも言えることです。一番大切なことは、トレーニングが楽しく取り組めるものだということです。

しかし、ご家族や先生が、トレーニングに取り組む場合には、ともすると、この点を忘れてしまいがちになるのです。勉強と同じように、教えたり指導したりというところが強く出てしまうのです。そうなると、もうそれは楽しめる遊びではなくなり、嫌なことをやらされているだけになってしまいます。遊び心を常に忘れずに、一緒に童心に返って楽しむことが大事です。

それとともに、もう一つ大事なのは、常に肯定的なリアクションを心がけることです。ただの遊びの中ですと、相手の失敗を笑ったり、相手を面白がってけなしたりということも起きるでしょうが、トレーニングでは、本人の苦手な課題に取り組むわけですから、軽い気持ちだったとしても、少しでも否定的な評価をされると、二度としたくないということになってしまいます。本人の気持ちを常に考えて、見守り、丁寧に言葉がけをすることです。トレーニングの時間だけでも、そんなふうに大切に接していると、子どもはトレーニングの時間を大好きになると思います。

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子どものための発達トレーニング
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