思春期のいじめ問題にどう立ち向かうか

高濱正伸
2023.11.01 15:04 2023.03.08 09:37

ブランコに乗る子ども

いつの時代もなくならない、いじめの問題。わが子が巻き込まれたとき、親にできることはあるのでしょうか。高濱正伸さんが解説します。

※本稿は、高濱正伸著『子育ては、10歳が分かれ目。』(PHP文庫)から一部を抜粋し、編集したものです。

高濱正伸(花まる学習会代表)
1959年、熊本県生まれ。東京大学大学院修士課程卒業。93年に、「国語力」「数理的思考力」に加え「野外の体験教室」を指導の柱とする学習教室「花まる学習会」を設立。算数オリンピック問題作成委員・決勝大会総合解説員。

「いじめはなくならない」を前提に

頭を抱える男の子

子どもにまつわる親の心配事は尽きませんが、「いじめ」もその大きな一つではないでしょうか。いじめ自殺事件の報道が後を絶たない昨今ですから、わが子もいじめに遭っていないかと気にしている親は多いと思います。

まして思春期になると、子どもは学校での話を家ではあまりしなくなるので、子どもにちょっと変わった様子があると、いじめられていることを隠しているのではと、親は気が気でなくなるようです。

思春期のいじめ。それは確かに、幼少期とは質が違ってきます。

幼少期にもちょっとしたいじめはありますが、お互いが恨みを持たない時期なので、後を引きません。翌日になればケロッと忘れて仲良くしています。

思春期のいじめはまるで別ものです。思春期は「清く正しく美しく」生きようなんて思えない時期。マグマのようにフツフツと邪悪なものが湧き出てきて、持て余すエネルギーで、何か悪いことをせずにはいられない時期でもあり、誰かをいたぶりたい。そんな不安定きわまりない年頃なのです。

まして最近のいじめは、従来のそれとは段違いに卑劣で執拗なものに変わってきています。ネットを使った、顔の見えない陰湿ないじめも多発しています。

いじめについて確実に言えることがあります。それは、いじめは絶対になくならないということです。今、学校で「いじめゼロ運動」をしているようですが、残念ながらなくすのは無理でしょう。

人間関係というのは、基本的に、いいことばかりではないのです。仲良しだと思っていた相手から思わぬ意地悪をされたり、信頼していた人に裏切られたりといったことの繰り返しです。

それは、大人である読者のみなさんこそ、実感していることではないでしょうか。大人の社会もいじめだらけです。会社でも、ママ友の世界でも、学校の先生の間でさえ、いじめが後を絶たない。それなのに子どもの世界からだけいじめをなくそうとしても無理な話なのです。

学校ではこんな大人の世界の当たり前のことでさえ教えてはもらえません。本気で「いじめをゼロに」と先生たちは子どもたちに語っています。だからこそ、親が、本当のことを子どもに教えなくてはならないのです。

以前、東京海洋大学名誉博士・客員准教授で、テレビでおなじみのさかなクンが、「いじめられている君へ」と題していじめについて書いているのを読みました。

水槽に魚の群れを入れると、必ずいじめが起こるそうです。いじめられてウロコまではがされている魚を、さかなクンは気の毒に思ってすくってあげるのですが、ほどなく新たな犠牲者が選ばれ、同じ繰り返しになるそうです。その魚をすくえば、また次の魚というふうに、終わりはいつまでも来ないのだとか。

つまり生物は、そういう本質を持っているようなのです。この魚たちの場合で言えば、本当は海で泳ぎたいのに、狭い水槽に入れられてしまった。そのイライラを、誰かをやっつけることで解消したい気持ちに、ついなってしまうらしいのです。

人間社会も約束事に満ちています。本当はもっとのびのびと生きたいのに、素っ裸で過ごすことも、年中遊び暮らすことも許されない。学校もそうで、校則があり、時間割があり、授業中は椅子に座って話を聞いていなければなりません。水槽の中の魚と同じくらい、窮屈な暮らしをしているのです。

人間はいちおう高等生物ですから、我慢やルールを文化として学習し、がんばってそれに従って生きていますが、やはりどこかでイライラが募っています。そこでフツフツと、うっぷん晴らしに誰かをいじめたい気持ちが湧いてくるのではないか。

いじめることが、なくしようのない生物の本質ならば、それを前提にした子どもたちへの指導こそが必要です。いじめにどう対処するか、そしてどうしたら人をいじめたい気持ちを自制できるかを教え、強くなるよう導いていくしかありません。

高濱正伸

高濱正伸

1959年、熊本県生まれ。東京大学大学院修士課程卒業。93年に、「国語力」「数理的思考力」に加え「野外の体験教室」を指導の柱とする学習教室「花まる学習会」を設立。算数オリンピック問題作成委員・決勝大会総合解説員。