一見、問題がないように思えて、実は多くの問題を抱えていると言われる"いい子症候群"。わが子を、そんな"いい子"にしないために、親はどのように関わっていけばいいのでしょうか。


HU064_350A.jpg


"いい子"の何が問題なのか

親に逆らったり、わがままを言ったりするなど、親を困らせるようなことを絶対にしない。そういう子はどこにいっても、誰からも「いい子ね」とほめられますし、実際、お父さんやお母さんにとっても育てやすく、「親孝行な子」と嬉しく思うでしょう。しかし実際には、"いい子症候群"に陥っている恐れがあります。
"いい子症候群"にとは、簡単に言えば「親の期待に頑張って応えようとする子のこと」。それのどこが悪いのか、と思うかもしれませんが、現実には、のびのび自由に子どもらしく過ごすことができず、心の中にストレスを抱え込んでしまいます。
成長とともにその傾向はますます強くなり、「これは本当の自分じゃない」「自分の人生を生きている気がしない」と、心の中が常にモヤモヤしてしまうのです。そしてその反動で、突然キレたり、親を困らせるような問題行動を次々と引き起こしたりするケースも少なくありません。
子どもを"いい子症候群"にしてしまう要因として、親が感情的に叱る、過剰に期待するなどが挙げられますが、あなたはどうでしょうか? 普段の関わり方を振り返り、愛するわが子が「幸せな人生」を送れるように、親としてどのようなことを心がけていけばいいのか、考えていきましょう。

「いい子症候群」の5つの特徴

"いい子症候群"には、大きく分けて5つの特徴があります。お子さんに当てはまるものはありますか?

(1)言動が受け身
親がどう思うか、親からどう思われるかが何よりも大事で、自分の気持ちを後回しにするため、自分から積極的に「〜したい」「〜しよう」と言うことがありません。園や学校でも自分は何を期待されているのかと、先生や友だちの顔色を常にうかがい、誰かが「〜したい」「〜しよう」と言うのを待ってしまいます。

(2)イヤと言えない、抵抗できない
親の言うとおりにしない=意見するのは悪いことだと思っているため、たとえば、友だちにイヤなことをされても「ノー」と言えなかったり、いじめられたりしても「自分が我慢すればいいんだ」と思い、抵抗できません。「こんなことをされるのは、自分が悪い子だから......」と、自己否定へとつなげることも多いです。

(3)感情表現が苦手
周囲の期待に応えることばかり考え、自分が本当はどうしたいのか、今何を感じているのかといったことを考えないでいるうちに、自分の気持ちがわからなくなってしまいます。「悲しい」「嬉しい」「悔しい」といった感情がどういうものなのかもわからなくなっていき、自分の気持ちをうまく表現できません。

(4)親の指示がないと不安になる
お父さんやお母さんに「〜すればいい」「〜したらダメ」と言われる通りにいつも行動しているため、指示がないと何をすればいいのかわからず、途方に暮れてしまいます。思考や行動の基準が「親の期待に応えること」なので、指示がなければ期待に応えることもできず、自分の存在価値を認められなくなり、不安になります。

(5)小さな決断も自分ではできない
能動的になれない上に、自分の気持ちがわからないので決断できません。たとえば「お誕生日プレゼント、何がいい?」と聞かれても、自分が何をほしいのかがわからない。ほしいものがあったとしても、「どう答えたら、お母さんが喜ぶかな」「〜をほしいって言ってもいいのかな」などと考え、なかなか決められません。

「いい子症候群」になってしまう要因

何がわが子を"いい子症候群"にしてしまうのでしょうか?その要因は、大きく2つあります。

(1)親の過剰な期待と理想の押しつけ
子どもを"いい子症候群"にしてしまう最大の原因は、親が子育てで自分の欲求を満たそうとしてしまうことです。
たとえば、合理的な理由もなく感情的に「〜しなさい!」と叱ってしまう場合、それは単に親の都合だったり、親が理想とする「型」に子どもをはめたいだけだったりします。すると子どもは、理不尽だと思いながらも、親の機嫌を損ねるのが怖くて、言うことを聞いてしまうのです。
また、母娘の間で起こりがちなのが「あなたには〜のような人になってほしい」と、母親が自分の理想や夢を娘に押しつけること。そう言われ続けた娘は、自分を抑え、母親の期待に応えるためだけに生きるようになってしまいます。

(2)子どもは「親に愛されたい」生きもの
親だけでなく、子どもの側にも"いい子症候群"を招く要因があります。
とくに小さいうちは、親に愛され、世話をしてもらわなければ生きていけません。なので、親に愛されたい、ほめてもらいたいという素直な気持ちから、自分の気持ちを抑えて親の期待に応えようとする傾向があります。
これは、あながち悪いことではなく、親に認めてもらいたいから一生懸命勉強する、お稽古ごとに励む。つまり、頑張るモチベーションとなり、その結果、その子の能力が伸びていきます。
ただ、親に愛されたい、ほめられたいという気持ちも度が過ぎると、自分を見失ってしまいます。親は、子どもがそうならない関わり方をしていく必要があるのです。

「いい子症候群」にしないために

子どもが「親に愛されたい」と思うのはごく自然のことですから、わが子を"いい子症候群"にするか、しないかは、やはり親の考え方や言動にかかってきます。わが子を"いい子症候群"にしたくない、あるいは「もう、そうかもしれない」と不安に思うなら、子どもとの関わり方を変えましょう。

子どもの意思を尊重する
まずは、子どもの意思や自主性を尊重すること。どんなに幼い子どもでも、必ず自分の意思をもっています。それを尊重しましょう。
たとえば、朝、着る服を選ぶ際に、親が決めたものを無理やり着せたり、子どもが選んだものに対して一方的にダメ出ししたりするのはやめましょう。子どもの意見を聞き、認めた上で、相談して決めるようにしてみてください。
次に、親の価値観や期待を押しつけないこと。わが子をきちんとしつけなければと思うあまり、厳しいルールや大人の理想を押しつけると、子どもはその「型」にはまって抜け出せません。人に迷惑をかけないかぎり、自由に、のびのびと過ごさせ、「自分の意思で行動してもいいんだ」という安心感を与えましょう。
そして、子どもの欲求を先取りしないことです。わが子が可愛くて、心配なあまり、つい「○○ちゃん、〜がほしいよね」「〜したいでしょ」などと先回りしがちですが、子ども自身が「〜したい」と意思表示するまで待ち、「〜する」と自分で決断させてあげてください。それが子どもの自信につながり、自己肯定感が育まれます。

要は、「子どもには子どもの人生がある」ということです。「"いい子"を押しつけてしまったかな」と思ったら、大きい声で次のように唱えてみてください。
「私と子どもは別人格。子どもは私の期待に応えるために生まれてきたわけではない」
気持ちが落ち着き、冷静にわが子と向き合えるようになりますよ。

親と子どもは別人格
(1)親の価値観や期待を押しつけない
(2)子どもの欲求を先取りしない
(3)「子どもには子どもの人生がある」という認識をもつ




「PHPのびのび子育て」8月号より


Ncover2008.jpg

本記事は、「PHPのびのび子育て」2020年8月号特集【「叱り方」で子どもの性格は変わる!】より、一部を抜粋編集したものです。

【著者紹介】
諸富祥彦(もろとみ よしひこ)
教育カウンセラー。明治大学文学部教授。教育学博士。スクールカウンセラーとしての活動歴も長く、学校カウンセリングや生徒指導の専門家でもある。著書に、『「自分がない大人」にさせないための子育て』(PHP研究所)など多数。