思いやりや、やさしさは、日々の親子での温かなスキンシップを通じて、育んでいくことができます。


hagu.jpg


サルの実験からわかる触れることの大切さ

アメリカの有名なハリー・ハーロウの子ザルの実験を、ご存じでしょうか。
子ザルの檻の中に、1つはミルクが出る針金でできた代理母人形、もう1つはミルクが出ないやわらかい毛布でできた代理母人形を入れて、子ザルの反応を見る実験をしました。
すると、子ザルはミルクを飲むときだけは針金の人形のところに行きますが、それ以外はずっと毛布でできた人形にしがみついていたのです。
これは本能的な行動だといえるでしょう。心地よい触れ合い、つまり、抱っこしたり撫でたりして、直接赤ちゃんの肌に触れてあげることがいかに大切かということが、この実験であきらかになりました。
人間も基本的に同じです。人はとても未熟な状態で生まれてくるため、誰かに守ってもらわなくては生きていけません。そこで、信頼できる特定の人と触れ合いを通じて絆を強め、その人に守られて安心・安全を確保しようとするのです。
愛着の絆は、たいていの場合、まずは母親に対して築かれますが、その後は周囲の人たちに対しても築かれ、広がっていきます。それは、母親との絆を通して、「人は信頼していいんだ」「自分は人に大切にされる価値があるんだ」というイメージができ、脳の中にモデルが作られるからです。
こうした愛着の絆を築くためのカギとなるのが、「オキシトシン」というホルモンです。その理由については、次ページでお伝えします。

スキンシップで、なぜ、やさしい心が育つのか?

親子の触れ合いが、子どもにやさしい心を育む理由は、
大きくわけて2つあります。

【理由1】オキシトシンが親子の愛着を深め、共感性を高めるから
近年の研究で、愛着の関係を築くために重要な役割を担うのが、「オキシトシン」というホルモンであることがわかってきました。
オキシトシンは脳の視床下部で作られ、脳と体にさまざまな影響を与えるホルモンです。親子や恋人同士でハグしたり触れ合うことで、多く分泌されます。しかし、身体的に触れ合わなくても、「やさしく声をかける」「アイコンタクトをとる」などの「心に触れる」行動でも分泌されることが確かめられています。
オキシトシンは、触れ合う親と子の双方に分泌されます。さまざまな効果がありますが、特に子どもにとっては親との愛着の関係を築くことや、人への共感性が高まる効果があることがわかってきました。
人にやさしくできるということは、相手の気持ちに寄り添える共感性や、相手の立場に立って理解する力があるということです。オキシトシンには、それらの能力を高める作用があるため、やさしさにつながるのです。

【理由2】人の心は皮膚感覚とつながっているから
人を思いやることができるのは、自分が親に思いやられた経験があるからこそできるのです。逆に言えば、人に思いやられた経験がない子どもは、愛とは何かということも理解できないため、人を愛することさえ難しくなってしまいます。
思いやりや愛情をもっとも伝えるコミュニケーションは、抱っこやハグなどのスキンシップです。なぜなら、人の心は皮膚感覚と直結しているからです。研究では、温かい飲み物を手に持つと心も温かくなり、人にやさしくなることがわかっています。体の温かさと心の温かさは、脳の島皮質という同じ部位で感じているためです。
このように考えると、赤ちゃんは親からやさしく抱っこされたり、触れられたりすることで、親の体温や肌の柔らかさを皮膚で感じ、それを繰り返すうちに、親からの愛情や思いやりの気持ちを感じるようになります。そして、そのような体験はオキシトシンの分泌も促すため、やさしい心が育まれることになるのです。

日常の中で、こんなふうに触れ合おう!

親子で楽しくスキンシップをとり、幸せに生きていくために必要な力を育てていきましょう。

【ポイント1】無理なく触れる機会を増やそう
子どもとの触れ合いが大事だといっても、一日中、抱っこしているのがいいとか、片時も離さずにべったりくっついているのがいいということではありません。それでは、子どもも親もストレスが溜まってしまうでしょう。着替えのときに背中を少しマッサージしたり、お風呂のときに手で洗ってあげたりなど、ちょっとした触れ合いを増やせばいいのです。

【ポイント2】くすぐり遊びで楽しく触れ合う
「らららぞうきん」や「一本橋」など、子どもは歌いながらこちょこちょくすぐるような遊びが大好きです。子どもがつまらなそうにしているときや、日常の親子遊びの時間に取り入れてみましょう。おもちゃなどが何もないときにもできるので、いくつかバリエーションを知っておくと、いつでも楽しめます。

【ポイント3】ギュッと抱きしめたり、リズミカルに触れ合う
寝かしつけるときや、落ち着いて絵本を読むとき、話をゆっくり聞くときなどは、少し強めにギュッと抱きしめたり、トントンと軽くリズミカルに刺激したりするようなスキンシップがお勧めです。こうすると、セロトニンやオキシトシンが増えて、リラックスしやすくなります。

【スキンシップが苦手な子には】
触れ合いの好みは、子どもによって個人差が大きいのが特徴です。べったりと抱っこされるのが好きな子もいれば、くすぐり遊びのような刺激的な触れ合いが好きな子もいます。触れ合うのが苦手な子も、必ず大丈夫な触れ方があるはずです。子どもの様子を見ながら、好きな触れ合い方を見つけてあげましょう。

幼少期のスキンシップは、オキシトシンの分泌を促します。

幼少期は脳が大きく発達する時期ですから、その時期の触れ合い体験は、その後の成長に大きな影響を与えます。
脳でオキシトシンが出やすくなった子どもは、成人後もずっと出やすくなります。すると他者と信頼関係を築きやすかったり、ストレスに強くなったり、社会性や共感性が高くなり、攻撃性が低くなるといった効果も認められています。
人は、オキシトシンの効果と皮膚感覚という体の作用で思いやりを感じるからこそ、やさしくなれるのです。それゆえに、幼少期のスキンシップは子どもの一生の宝物だと言えるのです。
子どもの様子をしっかりと見つめながら、わが子が喜んでくれる触れ合い方を見つけて、親自身もスキンシップを楽しみましょう。




「PHPのびのび子育て」4月号より


Ncover2104.jpg

本記事は、「PHPのびのび子育て」2021年4月号特集【やさしい子、愛される子の育て方】より、一部を抜粋編集したものです。

【著者紹介】
山口創(やまぐちはじめ)
早稲田大学大学院人間科学研究科博士課程修了。臨床発達心理士。専門は身体心理学・健康心理学。著書に、『幸せになる脳はだっこで育つ。 強いやさしい賢い子にするスキンシップの魔法』(廣済堂出版)など多数。