【子育て体験談】だっこ卒業宣言

読者からの体験談

ちょっと前までだっこを求めてきていた3歳の子の変化に驚いて…。

※本記事は『PHPのびのび子育て』(2013年4月号)に掲載され、WEBサイト「PHPファミリー」にて一部抜粋・編集の上で公開されたものです

子どもの成長に驚いた話

「ママ、だっこしなくていい。おかいものしたやつ、おもいでしょ。けんはひとりであるけるから」
いつものお店での買い物の帰り、その日も大きめの買い物袋を2つ持ちながら、当たり前のように3歳の息子をだっこしようとしゃがんだ時、言われた言葉に驚いた。

ほんの少し前まで、だっこをしてほしい時は「だっこ」と言えずに「だっきゅ! だっきゅ!」と連発していたのに。
まだまだ甘えん坊だけれど、機嫌のいい時はしっかりと自分の足で、自分の行きたいところに、自分の思うような速さで歩きたいのだろう。
重い荷物を持っている私への思いやりなんていうものも芽生えてきたのだろうか。
駐車場にとめた車に乗り込むまでのわずかな時間に、いろんな思いが交錯した。

それからしばらくして、息子が熱を出した。
普段よりも高熱だったことと、季節柄、インフルエンザの心配もあり、夜中に夜間当番医のもとへ向かった。
チャイルドシートから降ろそうと、かけておいた毛布ごと息子をだっこしようとした時、
「だっこしなくていいよ。じぶんでおりる」
と、またもはっきりと言われた。
手もつながずに人気のない病院の入り口に向かって、暗い駐車場を歩く息子の姿に、私はとまどっていた。息子は赤ちゃんのころから風邪をひくことが多く、夜中の発熱には親子で慣れてしまっていた。
私がとまどったのは、子どもの体調不良が原因ではなく、子どもの成長を目の当たりにしたからだった。
「こんなにしんどい時でも、もう1人で歩けるのか……」
とまどった後に、なんだか淋しさを感じた。

初めての育児はわからない事だらけで、不安だった。
息子が生まれた直後は治療が必要なほど黄だんが強く、一緒に退院できなかった。標準体重よりもいつも少なめ、少食で便秘がち。季節に関係なくよく熱を出す。首がすわるのも、寝返りものんびりペース。ハイハイはほとんどしない……。
今思えば、それほど心配しなくていいことが、当時は気がかりだった。それでもわが子をだっこして、頬と頬をくっつけていると安心できた。
まだおしゃべりができない時期のだっこは、息子の気持ちを知るための手段でもあった。
「お友だちにおもちゃを取られて悔しい」「もう遊び疲れて眠たい」「慣れない場所でなんだか不安」
その時々の気持ちを、だっこすることで理解できた。
もしかすると、だっこが好きだったのは、私のほうだったのかもしれない。
息子からのだっこ卒業宣言を聞いて淋しがったりせずに、「ああ、大きくなったな」と喜ぶ母親になろうと思った。
慌ただしい日常生活の中で、ふと気づかされる子どもの成長。親にとってそれは、何よりもうれしいプレゼントなのだから。

あれから何年たったのだろう。
小学生になった息子は、「ママのおうちでのおしごとは、ごはんをつくるのとおせんたく。あとはじぶんでできるから。あ! あと、がわすれものをしないようにきょうりょくして」
と、まだまだかわいい事を言ってくる。
私が子どもの時はどうだったのだろう、と、最近ふと考える。
故郷から離れて暮らすことに決めた私を、やさしく送り出してくれた父と母。懸命に育ててくれた両親に、子ども時代の私はきちんとプレゼントをしてきたのだろうか?  小さくても、数多くのプレゼントができていたらいいのに……と強く思う。
もう昔の事で、それが何なのかをお互いが忘れてしまっていても。

(愛知県)