【子育て体験談】障害のかくれんぼ
長男の障害を周りが理解してくれないことに 苦しんでいた小野寺さん。 ある日、次男がとった行動に、自分を見つめ直します。
※本記事は『PHPのびのび子育て』(2018年7月号)に掲載され、WEBサイト「PHPファミリー」にて一部抜粋・編集の上で公開されたものです
怒鳴ってしまったママにとった子どもの意外な行動
私は、6歳と3歳の男の子のママです。長男は、3歳7カ月頃に「自閉症スペクトラム」という診断を受けました。長男とは、コミュニケーションがうまくとれません。親からのコミュニケーションも、長男からのコミュニケーションも、一方通行になってしまいます。
コミュニケーションの一方通行状態が毎日延々と続くことで、私のストレスがたまり、長男に怒鳴ってしまう日が続くこともありました。私からの言葉が何も伝わらないことが、何よりもむなしくて悲しかったのです。
長男は、親以外の人とは積極的にコミュニケーションをとります。もちろん親以外の人とのコミュニケーションも一方通行なのですが、長男がとても流暢な話し方をする(ように見える)ので、周りの人は長男が障害を抱えているとは気づきません。
私の親からは、「(あなたが)障害があると思っているから、障害があるように見えるだけじゃないの?」と言われたくらいです。
親から、この言葉を言われたときは、私も感情まかせに言い返しましたが、母は、このやりとり以降は、長男の障害について理解を示すようになりました。私がかなり追い詰められていると、気づいたのかもしれません。
4歳児クラスから普通の保育園に通うことになり、私はほっと一息つけるような、そんな気持ちになりました。1日の大半を保育園で過ごすことで、長男の障害が周りに理解されることにつながると思ったからです。
いざ、長男が保育園に通い始めると、私の予想とは異なる結果となりました。
長男の障害は、保育園の先生たちにも理解されず、むしろ周りの子と比較してもできている、という評価をされてしまったのです。長男の家での生活は何も変わっていません。長く過ごす保育園でも、長男の障害は見えづらいものなのだと突きつけられた瞬間でした。
長男の障害は、家では見えるのに外からは見えない……まるでかくれんぼしているような状態でした。
そんなある日のこと。いつものように私からのコミュニケーションが一方通行になり、長男をつい怒鳴ってしまいました。すると当時、まだ2歳を過ぎたばかりだった次男が、私に駆け寄ってきました。
「ママ、だいじょうぶ?」
次男はそう言って、私の肩をぽんぽんとたたいたのです。私は次男の言葉にびっくりし、それと同時に、ふとわれに返りました。
「普通」の反応をする次男のようになってほしいと、長男に期待している自分がいたこと。
診断を受けてから1年以上が経とうとするのに、まだ障害を受け入れられていないこと。
長男に、「ここに私がいることに気づいてほしい」と、毎日心が思っていたこと。
障害のある長男が、普通に振舞うのはとても難しいことなのに、周りが障害に気づいてくれないことを言い訳にして、私自身が障害と向き合っていませんでした。
次男が「怒っている私」ではなく、「泣いている私」に気づいてくれたので、本当は怒鳴りたかったわけではなく、泣きたかったのだと気づきました。
長男が診断を受けてから、もう2年半ほどが経ちます。2年半という月日が流れても、障害を受け入れるのは、私にはとても難しいことです。
私は長男の障害を受け入れることをやめました。障害を受け入れるのではなく、受け流そうと試みています。それでもいつか、笑って障害を受け入れたいと思っています。
それまでは、「まあだだよ」。
それでもいつかは「もういいよ」。
(小野寺まみ、神奈川県)