「いじめられる方に問題がある」と言い放つ小学生に、弁護士がした1つの質問

高橋麻理
2023.09.15 16:54 2023.08.24 11:30

うつむく男の子

自分が子どものころ、いじめの加害・被害の当事者だったり、クラスでいじめがあった記憶がある人も、少なくないかもしれません。大人の社会ですら、いじめといえるような行為が存在するのも事実です。

でも、だからといって、大人から子どもに「いじめはなくならない」とか「いじめも社会勉強」などと言ってほしくはありません。いじめは絶対に許されないし、なくさなければいけないことです。いじめとは何か? いじめに直面している子どもには、どのように向き合えばよいか? 法の力も借りながら、考えてみましょう。

※本稿は、高橋麻理著『子育て六法』(日東書院本社)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

高橋麻理(弁護士)
第二東京弁護士会所属。弁護士法人Authense法律事務所。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。2002年検察官任官。東京地検、大阪地検などで勤務後、2011年弁護士登録。社外役員(社外取締役・社外監査役)に就任し、社内不祥事予防等業務に従事する一方、子どもが関わる離婚問題、子どもに関わる犯罪、学校問題等にも取り組み、子どもへの法教育として小中学校でのいじめ予防授業、保護者向け講演なども行う。法律問題を身近なものとしてわかりやすく伝えることを目指し、テレビ、ラジオ、新聞等メディア出演も多数。『大人になる前に知ってほしい 生きるために必要な「法律」のはなし』(ナツメ社)共同監修。一人の母として子育て奮闘中。X(旧Twitter):@mari27675447

いじめられる方にも原因がある場合は、いじめられても仕方ない?

学校の廊下

A. どんな​理由があってもいじめは絶対に許されません。

ある学校で、「いじめられている子の悪いところを本人に教えてあげよう」という学級会が開かれたことがあると聞いたことがあります。これは、「原因があればいじめられても仕方ない」という発想に基づく、これ自体がいじめともいえる許されない行為です。

繰り返しになりますが、いじめは法律で禁止されています。

弁護士会の取組みで、小学校でいじめに関する授業を行うことがあり、「原因があればいじめられても仕方ない」という考えについて、子どもたちに質問する機会があります。

「いじめられる方も悪い」という考え方について意見を聞くと、多くの子どもたちが「いじめられる方にも原因がある場合もある」と答えます。

具体的に尋ねると、「もともとその子が別の子をいじめていた」「人の悪口を言う」「みんなの迷惑になることばかりする」などが、いじめられる原因として挙がります。

次に、「では、そういう人はいじめてもいいのかな?」と質問すると、子どもたちは少し戸惑った表情を浮かべます。ここで、「どんな理由があっても、いじめをしていいことにはならない」と、はっきりと伝えるようにしています。

ただ、これでは子どもたちの中に納得できない気持ちが残りそうです。そこで、「もともとみんなの迷惑になることばかりしていた子に対しては、どうすればよかったのか」も一緒に考えるようにしています。

「やめてと言う」「先生に相談する」などの意見が出て、子どもたちは「いじめ以外の解決法をとらなければならない」と気付き始めます。

最後に、いじめは人の命をも奪うことがあり、実際にみんなと同じような年齢の子の身に起きたこともある、だからどんな理由があっても絶対にいじめは許されないと、正面から伝えています。

これはあくまで伝え方の一例ですが、いじめを正当化する考え方には明確にNOの結論を伝えること、頭ごなしに伝えるのでなく、子どもたちの意見を聞きながら、丁寧に、一緒に考えていくことが大事だと思っています。

「いじり」と称して言葉のいじめに遭っている。被害はどう証明すればいい?

女の子

A. いじられた本人が苦痛と感じていればそれはいじめです。客観的証拠をできるだけ集めて。

「いじり」により傷ついている場合の対応、難しいですよね。

「いじめ防止対策推進法」では、「いじめ」とは、対象となった子どもが心身の苦痛を感じているものと定められています。

また、文部科学大臣決定による「いじめの防止等のための基本的な方針」では、個々の行為が「いじめ」に当たるか否かの判断は、いじめられた子どもの立場に立つ必要があるとし、いじめられている本人がそれを否定する場合が多々あることを踏まえ、子どもの表情や様子をきめ細かく観察して確認する必要があることなどが明記されています。

ですから、たとえ相手が「愛あるいじり」などと行為を正当化していても、子どもが「いじり」により心身の苦痛を感じているなら、それは「いじめ」に該当し得るのです。

言葉による「いじり」は罪悪感が小さい心理状態のもとで継続し、徐々にエスカレートする可能性もあり、看過できません。その場合、学校にも報告し、対応を相談する必要があるでしょう。

「いじり」は証拠として残りにくい傾向があるため、事実関係を明らかにする必要があります。

まず、子ども本人から、いつ、どこで、誰に、何と言われたか、正確に聴き取るのが重要です。周りに誰がいたかも確認できると、目撃状況を確認したい場面で役立ちます。

過去の出来事について正確に話すのはなかなか難しいので、何かある都度、その日のうちに詳しく話を聴き取って記録しておくと、その積み重ねが重要な証拠になると思います。

できるだけ客観的な証拠を集めるという視点も大切です。たとえば、相手のメール、SNS投稿、状況を見ていた友達の話、録音や録画などです。

「いじり」は、加害者側が「いじめ」であるという認識をもっていないことも多いために話し合いがスムーズにいかないこともあります。話し合い等の進め方についても、弁護士に相談するなど慎重に対応するのがよいと思います。

チャットグループから外されたりSNS上で悪口を言われたりしている。

スマホをいじる男の子

A. SNS上であっても本人が苦痛を感じていればいじめです。名誉毀損罪や侮辱罪になる場合も。

無料通話(チャット)アプリも、利用法によっては心身の苦痛を感じさせることはありますから、これを使った言動がいじめにあたる場合があります。

最近では、この「SNSいじめ」の被害が増えているといいます。

たとえば、グループ内で一人に対しその他メンバー全員が暴言といえるようなメッセージを送ったり、理由もなくグループを強制的に退会させたり、同じメンバーで別グループを作り、そこに一人だけ入れずにその一人の悪口を言い合うなどの態様でいじめが行われることがあります。

このようなSNSいじめには、次のような特徴があります。

①外から見えにくく、発覚しにくい

②いじめの対象となる子の様子がダイレクトに見えないことから罪悪感を抱きにくい

③文字による言葉の受けとめ方は、受け手の性格、そのときの状態によって左右され、言葉を投げかけた側の意図を超えて深刻な傷を負わせることもあり得る、などです。

もしかしたら、相手の顔が見えないぶん、リアルな場で行われるいじめ以上に深刻な事態になるかもしれません。

このようなSNSいじめについても、いじめた側には法的な責任が生じ得ます。発言やそのグループの規模によっては、名誉毀損罪、侮辱罪等に該当する可能性がありますし、相手の心を傷つけた行為については、民法に基づき慰謝料の支払義務を負う場合もあり得ます。

学校に、アンケート調査などの対応を求めたり、弁護士への相談を検討したりしてもよいかもしれません。

ただ、いじめであるという証明が難しいケースも多いと思うので、何が起きているのか、事実を正確に証拠化しておくことが大切です。

無料通話アプリ内でのやりとりは、後に削除されてしまう可能性もあるため、スクリーンショット画像を保存しておくとよいでしょう。その際は、該当コメントだけでなく、全体の流れが把握できるように、日時も含めてスクリーンショットにより保存しておくのがよいと思います。

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