言葉遣いで「クラス内カースト」が決まる…子どもの間で深刻化する分断

石井光太・小川晶子
2023.09.15 16:53 2023.07.21 11:50

考える小学生

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子どもたちの言葉を奪う社会の病理を描き出して話題となった『ルポ 誰が国語力を殺すのか』の著者、石井光太氏。「ヤバイ」「ウザイ」などの言いかえを紹介しながら、楽しく語彙を増やす児童書『超こども言いかえ図鑑』の著者の一人、小川晶子氏。

両者が、「子どもと言葉」について感じる危機感を、それぞれの立場からざっくばらんに語り合った。第2回は、学校の中にある「国語力のカースト」と分断社会についてお届けする。

石井光太(いしい・こうた)
作家。国内外の貧困、災害、事件などをテーマに取材・執筆活動をおこなう。2021年『こどもホスピスの奇跡 短い人生の「最期」をつくる』で新潮ドキュメント賞を受賞。

小川晶子(おがわ・あきこ)
ブックライター、絵本講師。
児童書や教育関連の書籍を中心に本づくりに携わっている。

言葉づかいでグループが分かれる

小川晶子小川:『ルポ 誰が国語力を殺すのか』の中で、「国語力のカースト」の話が印象的でした。国語力によって学校の中で階層が分かれるのです。言葉を持っていない子どもたちは同じような子と集まり、粗雑なやりとりをする一方、言葉を持っている子たちは、豊富な語彙で複雑なコミュニケーションをしているんですよね。

石井:普段の学校生活の中では、国語力のある子のグループが有利というわけでもありません。むしろ、乱暴な言葉遣いをする子のグループが力を持っていたりします。でも、グループ内の人間関係が悪化したときなどに、言葉を持たない子たちはトラブルになります。

小川:今回『超こども言いかえ図鑑』を作ったのは、何でも「ヤバイ」とか「マジで」と言う子どもたちの語彙力を不安に思う親が多かったからというのもあるんですが、単に語彙を増やすだけではなく裏にメッセージがあるんです。

ここに登場する、「ヤバイ」ばかり言う「ヤバオ」、言葉を知っている「デキル」、大人顔負けの語彙力の「文豪くん」といったキャラクターたちが、それぞれ言葉が違うので最初は仲良くないけれど、お互いの言葉を認めてコミュニケーションする中で、最後は仲良くなれるという物語にしています。言葉は、自分のことを伝えたり、いろいろな人とコミュニケーションするためにあるんだよというのをテーマとして持っています。

実際には難しいのでしょうけど…。

石井:言葉が違うということは、思考も違います。思考は言葉を使ってするものですから、少ない語彙で考えるのと豊かな語彙で考えるのとでは深さが変わります。思考が違う子同士は付き合えないんですよね。

先日、ある高校の図書委員の子たちと話したら、面白いことを言っていました。「私は多くの語彙を知っているが、そのことによってソンしている気がする」。物事を深く考えられるようになると、余計な悩みが増えるというんです。自分の内面にも向き合わざるをえず、周りの人があまりそんなことを考えていない中では、孤独になってしまうんですね。

小川:なるほど、確かに。なかなか周りの子に理解してもらえないかもしれません。

多様な分断社会

石井光太石井:でも、彼らは、同じように深い思考をし、語り合える仲間を見つけられるでしょう。だからいいのです。言葉の少ない子はそういうこともできません。

しかも今は、ゲーム好きな子とYouTube好きな子で使う言葉が違いますし、細かく分かれてしまっています。同じクラスでも、違う言葉を話す子たちがたくさんいるわけです。そんな中で、「みんなで仲良く」「多様性を認めて」生きていくのってものすごく大変ですよね。

小川:昔はメディアが限られていたので共通言語があったものが、今はバラバラになっているわけですね。

石井:何人かの先生に聞いたところによると、今の高校生はクラスの半数と喋ったことがないまま卒業していくそうです。名前も知りません。名字はわかっても下の名前がわからないんです。嫌いなわけではないけれど、文化が違うから交わらない。コミュニティも小さくなっていて、2~3人で1つのコミュニティになっています。多様性社会というより、多様な分断社会ですよね。

公立の学校では多様性に触れられるというのは本当か?

石井光太・小川晶・

小川:近年、中学受験が過熱しています。その中で、私立の学校に行くと同質性が高い集団の中に身を置くことになるのに対し、公立の場合は多様な人たちと一緒に学ぶことになるので、それが公立学校の価値だという考え方があります。そのあたりはどう見ていらっしゃいますか?

石井:建前はそうですが、実際に多様性を得られるかどうかは別の話です。学校が終わったあとにすぐに家に帰り、オンラインゲームの仲間とだけ遊んでいたり、習い事に行っているなどすれば、そこの小さなコミュニティでしか交わらないでしょう。地域によって、あるいは、その子によって、多様性を価値にできるかどうかは違いますから、一概に言えないですね。

ただ、私立の学校では同質性が高くなるのは本当です。先日、ある名門校で講義をしたのですが、そこの生徒たちに底辺校の実態を話しても全然ぴんと来ないんです。クラスの4分の1が生活保護世帯で、半分近く不登校で、親とも会話がなくて…というのが理解できません。

将来、そういった名門校の子たちが日本の未来を創っていくのだろうと思いますが、「社会を良くする」と言っても、底辺校の子たちの視点にはどうしたって立てないでしょうね。

こういった分断がリアルに進んでいっていると感じます。いま幼稚園も定員割れで大変になっているので、それぞれの幼稚園が特色を出そうとする動きがあります。幼稚園の段階から分断が起きていくのではないでしょうか。

こうなってくると途上国と同じです。途上国の富豪は、自分の子をスラム街の子たちと同じ場所で勉強させたくないと、小さいうちからエリート校に入れます。そうやって育ったエリートたちは、スラム街の子を見たことがないんです。

小川:最近、中学受験に向けて多額のお金をかけて成功した親が、中学生の子に100万円を渡して株式投資をさせているのを見てびっくりしました。

経済的に余裕のある人は子どもに質の高い教育を受けさせることができるわけですが、それはとても恵まれたことでもあるわけですよね。そのチャンスを活かして、社会の格差や分断の問題を解決できるよう考えられたり、行動できる子を育てたいのが本来ではないのでしょうか? 逆に分断がひどくなっていきそうです。

石井:本当は、学歴が関係ない時代になっているはずなんです。企業も学歴を重視しなくなっています。いい学校に入って、いい企業に就職するという時代ではありません。ただ先が見えない不安があるから、わかりやすいマークが欲しいのでしょう。

先が見えない時代に、さまざまな壁にぶつかっても乗り越えていける力は、やはり国語力がベースです。まずは自分が生きやすいようにすること、そして余裕があれば、生きやすい社会にしていくことを考えていきたいですね。

石井光太・小川晶子

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