友達は少なくてもいいのに…子どもを追い詰める「みんな仲良く」の呪縛
大事なのは「他者意識」を持つこと
私が学校で生徒によくやっていた方法をご紹介します。
一人でいることが多い生徒と、その生徒とほとんど接点がなさそうな他の生徒に、一緒の仕事を頼むのです。
そのとき、「2人は友達になったら?」などとは間違っても言いません。
まず、私が一人で遊んでいることが多い生徒に、「そういえば〇〇が好きなんだっけ? それってどういうものなの?」と聞くのです。
そこでもう一人の生徒が「えー、それ何?」と聞いてくれたらしめたもの。
自分が趣味にしていることに興味を持たれたり、共感されたりすることが嫌いな人間はまずいませんから、話すほうは悪い気はしないでしょう。その生徒が見せるいつもとは違う顔に気付いてくれれば、関係性が広がることもあるはずです。
もしこの2人が友達になれないとしても、問題はありません。
大事なのは、友達をつくることではなく、「他者意識」を持つこと。
その子自身が、自分が打ち込んでいることの楽しさをどう周りに伝えればいいかを考えるきっかけになったり、自分のことに興味を持ってもらえる喜びを感じてくれたりしたら、それだけでいいのです。
これは親御さんにもできるはずです。
友達を連れてくるのが難しいようでしたら、お子さんがのめり込んでいることをやっている他の人に会わせてみたり、その道のスペシャリストの話を聞きに行ったりするのもいいでしょう。
その人たちの活動に刺激を受けたり、同じ趣味について話す楽しさを知ったりすれば、視野がどんどん広がっていき、子どもは他者意識を持てるようになるはずです。
一つのことにのめり込む人を「オタク」などと揶揄する風潮がありますが、子どもにそのような傾向があっても(男の子には往々にしてこういった傾向が強いです)、気にすることはないと思います。
友達がいるかいないかはたいした問題ではありませんし、繰り返しになりますが大人が必要以上に気にすると「友達がいない自分はだめだ」と子どものほうも気にするようになります。
大人がおおらかに見守れば、案外子どもは淡々と過ごせるのではないでしょうか。
「しなければならない」というメッセージは使わない
息子が幼稚園に通っていた頃、彼が「自分には嫌いな子がいる」と悩んでいることがありました。息子からすれば、大好きな母親はみんなと仲良くしているのに、同じようにみんなと仲良くできない自分が苦しかったのでしょう。
さらに、幼稚園では「みんな仲良く」と日常的に言われていたようですから「嫌いな子がいる自分は、だめな人間だ」と悩んだようなのです。幼稚園に行きたくないとまで言っていました。
そこで私は、五味太郎さんの『じょうぶな頭とかしこい体になるために』(ブロンズ新社)という本を使いながら、「お父さんにも嫌いな人がいるよ。お母さんにだって、嫌いな人がいるんだよ」と伝えたのです。
息子は目を大きく見開き絶句していました。私と話したあとに妻にも「お母さんにも嫌いな人がいるって本当?」と、確認しに行ったほどです。
最初は信じられないという感じでしたが、そのうち安心できたようで、元気に幼稚園に通えるようになりました。
こんな小さな子でも「立派でいなければならない」という思いを背負って生きているということが、私には衝撃的でした。
この出来事以降、教師としてもこのような思いを生徒に背負わせてはいけないと改めて肝に銘じ、接し方がずいぶん変わりました。「こうでなくてはならない」ということが伝わってしまうような言葉は、使わないようにしたのです。
普段から使う言葉を少し注意するだけで、子どもに伝わるメッセージは変わります。
たとえば「みんな仲良く」という言葉も「みんな仲良くしなければならない」ではなく、「人と仲良くすることは難しいものだけど、仲良くできたら素敵だね」という言葉なら、子どもたちが受け取るメッセージはまったく違うはずです。
ちなみに、息子が悩んでいたとき、こんなことを付け加えました。
「お父さんにも嫌いな人がいるけれど、だからといってその人に意地悪はしないよ。きちんと挨拶もするし、本人に嫌いだと言ったりはしないよ」
心と行動を切り分けることは大事なことだと、きちんと伝えておきたかったのです。
人は、差別をする心は消せないかもしれません。
私だって聖人君子ではないですから、誰かを差別しそうな考え方が頭をよぎることもあれば、息子にも伝えたように嫌いな人だっています。
ただ、たとえそんな心は消せなくても、どんな言動が差別になるのかを知ることさえできれば、差別しない行動を取ったり、嫌いな人ともうまく人間関係を築いたりすることはできます。
脳科学の知見から考えてみると、人の「無意識」は同じ行動を繰り返すことによってつくられます。たとえ一度固定化された無意識(それが「心」と言えるでしょう)であっても、別の行動を繰り返すことによって書き換えられることがわかっています。
「みんな仲良く」という理想論を子どもに押し付けて苦しませるよりは、「心と行動は切り分けられる」ということ、そしてだからこそよい行動をするのだということを、伝えたいものです。
麹町中校長が教える 子どもが生きる力をつけるために親ができること(かんき出版)
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