子どもの将来を左右する「能力」は親の言葉で伸びる

榎本博明

将来、わが子に「たくましく生きていける人」に育てるために、親として何をしたらよいのでしょうか。きわめて大切な働きかけのひとつが、親から子への「言葉がけ」です。的確で心に沁みる親の言葉は、子どもの人格形成に好影響し、その後の人生を大きく豊かにします。親としては、そこを意識して子どもと接していく必要があるのです。

では、子どもに対してどのような言葉がけをしたらよいか、おわかりでしょうか。ポイントは「非認知能力」です。この大切な能力を伸ばすような言葉がけをすることで、子どもをやる気にさせたり、我慢(がまん)強くさせたり、他者を思いやれる人にしたりと、望ましい本質的な子育てができるのです。

「子どもが伸びる親のことば」とは、具体的にいかなるもので、いつ、どのように発すれば効果的か、教育心理学の視点にたち、子どもの心の発達や学力についての最新の知見をふまえつつ、分かりやすく説明していきます。

※本稿は『子どもが伸びる 親のことば 《非認知能力》と《認知能力》を高める秘訣』(榎本博明著、河出書房新社刊)より一部抜粋・編集したものです

【著者紹介】榎本博明(えのもと・ひろあき)
1955年生まれ。東京大学教育心理学科卒。東芝市場調査課勤務の後、東京都立大学大学院心理学専攻博士課程中退。カリフォルニア大学客員研究員、大阪大学大学院助教授等を経て、現在、MP人間科学研究所代表。主な著書に、『伸びる子どもは○○がすごい』『勉強できる子は○○がすごい』(以上、日経プレミアシリーズ)、『教育現場は困ってる』(平凡社新書)、『〈自分らしさ〉って何だろう?』『「さみしさ」の力』(以上、ちくまプリマ―新書)『「やさしさ」過剰社会』(PHP新書)などがある。

幸福な人生は「非認知能力」しだいです

「いくら知能が高くても、かならずしも社会に出てから成功するわけではない」──ということが注目されるようになりました。知能(IQ)が高いのにパッとしない人もいれば、知能は平凡なのに大成功する人もいるのはなぜなのか、社会的成功をもたらす要因はなんなのか、ということに関心が向けられたのです。

そこで明らかになったのが「学力と直接関係ないため軽視されてきた《非認知能力》こそが、幸福な人生の大きな要因になっている」という事実です。非認知能力の高い子は、将来、社会に出てから成功する可能性が高いことが証明されているのです。

学力に直接関係する認知能力に対して、学力に直接は関係しないのが非認知能力です。アメリカの心理学者ダニエル・ゴールマンは、平均的なIQの人が大成功したりする背景を探ったところ、自制心、熱意、忍耐力、意欲などが大切であることに気づき、それらを「こころの知能指数(EQ)」としました。

その後、多くの研究がおこなわれていますが、非認知能力が高いほど、以下のような傾向が見られることが証明されています。

・人間関係が良好
・幸福感が高い
・人生に対する満足度が高い
・身体的健康度が高い
・抑うつ傾向が低い
・孤独を感じにくい
・学業成績が良好
・仕事の成績が良好
・会社などで管理職に就きやすい

このような結果を見れば、納得のいく人生にしていくために、非認知能力がとても重要な要素だということが分かると思います。そして、非認知能力が高い人は、つぎのような性質を有しています。

自制心=衝動や感情を必要に応じて抑制できる。これがうまくできないと、衝動に駆られて短絡的な行動をとったり、感情を爆発させてせっかくの関係を台無しにしたりしてしまう。

忍耐力=なかなか思いどおりにならない厳しい状況でも諦めずに粘り抜いたり、欲求不満に耐えたりできる。これができないとすぐに諦めてしまい、何をしてもうまくいきにくい。

意欲=自分の気持ちを奮いたたせ、物事に意欲的に取り組める。これが足りないと、何に対しても無気力になりがちで、なかなか成果を出すことができない。

共感性=他人の気持ちがよくわかり、思いやりをもって関われる。これが足りないと、相手の気持ちや立場を思いやることができないため、人間関係がなかなかうまくいきにくい。

子どものころから、こうした性質を伸ばすように意識した関わり方、つまり親による適切な言葉がけをする必要があるのが、おわかりいただけると思います。