開成高校の元校長が教える、「思春期のイライラ」との上手な付き合い方

柳沢幸雄
2023.10.18 14:55 2023.02.27 18:19

部活、学校行事、勉強… 忙しい思春期の子どもには褒めて自信をつけさせる

テストに挑む子ども

中高生や中学受験をする小学生は毎日がとても忙しく、定期試験が迫っても、やるべき宿題があっても、手をつけられる時間が限られています。

特に、中高生は部活動に時間を取られることが多く、また、部活動の時間は彼らにとって、勉強よりも何より大事です。部活動の試合やコンクールがあれば、子どもは当然、そちらを優先しようとします。

そんなとき、親はつい、「定期試験がすぐあるでしょ! 勉強しなきゃダメよ!」と言いたくなりますし、ともすると、「朝練ばっかりしてたら成績が下がるわよ! ときどきさぼって勉強しなさい!」なんて言ってしまいます。

しかし、これは思春期の子どもの反感を買うだけで、まったくいい結果になりません。第一、部活動をやめても、その時間勉強するとは限りません。

親がきちんと子どものやっていることを見て、いいところを具体的に褒めてあげることが大切です。

「ちゃんと見ていてくれる」ということは、子どもに勇気を与え、積極的に前に出ていく原動力になります。たいしたことがなかったり、今ひとつだったりしても「一歩前進だね!」と、その努力を認めます。

その上で、気になる部分があれば、「ここのところ、こういうのはどうかな?」や「もっとよくなるかもしれないから」という視点で意見を言いましょう。そして、成長したら、「すごい、この前よりずっとうまくできているね!」と褒めるのです。

褒められていやな気分になる子はいません。大人でも褒められるのが嫌いな人はいません。功成り名遂とげた人でも喜んで勲章を受け取ることがその証拠です。

思春期で、親にどれだけひどい悪態をついても、一番褒められたい相手は、やはり親なのです。大いに褒めましょう。

自分もイラついてしまって子どもと素直に褒められないな、と思うときは祖父母の力を借りるのも一考です。おじいちゃん、おばあちゃんは達観していて、「人生こんなもんだよ」と言ってくれる。煮詰まらなくてすみます。

「あなただって、小さい頃は親をてこずらせたのよ」などと言われることもあり、親としての自分を客観視させてくれる一面もあります。

今は三世代で同居している人は少ないと思いますが、電話でもいいし、オンライン通話なども使いながら、おじいちゃん、おばあちゃんと子どもがたわいない会話をする時間を持つと、みんなに気持ちの余裕が生まれます。

親は先回りをせずに、上手に質問をする

勉強する小学生と親

私は、子どもたちには意見や気持ちをはっきり言うように常に言っていました。察しがいいほうではないので、言わなければわからないぞ、と。

それを意識して子育てをしてほしいと思います。たしかに親なら子どもが何も言わなくても、してほしいことを察することができます。赤ん坊の泣き方ひとつで気持ちがわかるでしょう。

しかし、アメリカ人の親は、あえて察するようなことはしません。特に18歳を過ぎたら、相手が欲していないのに先回りするのは大人をバカにする行為だ、そんなことを子どもにしてはいけない、と思っているのです。

思春期の子どもがますます口をきかなくなるのは時期的なものなので、仕方がないことです。それでも自分の考えや行為を人にわからせるときには、きちんと筋道立てて話をしないといけないのだ、ということはしっかり伝えてください。

何を言いたいのかよくわからないときには、「それってどういうこと?」と質問をして引き出しましょう。「うるせぇな」などと悪態をついても、聞かれれば多少は答えるでしょう。

「ああ、そうなんだ、よくわかった、なるほどね」などと相づちを打てば、話すこともそう悪くない、と思うのではないでしょうか。

とにかく思春期であろうと子どもには自由にしゃべらせることが大切です。自分から声を発して、発することで考えをまとめて、自分なりの結論が出せるようにしたいものです。

けれど、保護者は、「勉強したの?」と質問したにもかかわらず、子どもが答えるまでもなく「してないじゃない! どうするの、そんなことで!」などと、自分で答えを言ってしまうことはありませんか?

子どもと親の会話は、「2対1」で子どものほうが多くしゃべることを心がけましょう。

しかし、ほとんど「メシ、フロ、ネル、うるせぇ」くらいしか子どもが言わなくなり、何も言わずに黙って部屋にこもってしまうなんてこともあるでしょう。

「2対1」で話そうとしても、「無理」だと思ってしまうかもしれません。ただ、小学生でも中高生でも、子どもの本性は「自分のことを説明したい」という、ある意味、承認欲求に近いものがあります。

だからこそSNSが出始めたら、自由に自己表現ができる場として大いに広がりました。普段は口数が少なくても、SNSで語るときは非常に饒舌なんていう子も多いのではないでしょうか。

自分の意見もどんどん言う。自分の意見を遮るものがなく、語れる場があれば語るのです。

柳沢幸雄

柳沢幸雄

1947年生まれ。前・開成中学校・高等学校校長。開成高等学校、東京大学工学部化学工学科卒業。71年システムエンジニアとして日本ユニバック(現・日本ユニシス)に入社。74年退社後、東京大学大学院工学系研究科化学工学専攻修士・博士課程修了。ハーバード大学公衆衛生大学院准教授、併任教授(在任中ベストティーチャーに数回選ばれる)、東京大学大学院新領域創成科学研究科教授を経て、2011年から開成中学校・高等学校校長を9年間務めた後、2020年4月より現職。シックハウス症候群、化学物質過敏症研究の世界的第一人者。