「自ら望んで留年するアメリカの学生」から見える“日本と世界の差”

柳沢幸雄(北鎌倉女子学園園長)

かつては盛んだった「日本のグローバル化」

我々は、自分の国の常識や文化などにとらわれず、他の国の文化も知る必要があります。そしてその先には、国境を越えた交流があるのだ、と考えるとよいでしょう。いわゆるグローバル化です。

このグローバル化は私なりに解釈すると、自分のいた小さな地域という概念を飛び越えて、広い世界に飛び出していく意味で、「広域化」と理解するのがよいでしょう。

そして、世界という視点ではなく小さな単位で考えると、日本では約50年前の「広域化」の現象が思い起こされます。その当時、日本には「集団就職」というものがありました。

各地の農村の中学校を卒業したばかりの若者が列車で上野駅に降り立ち、東京の企業や店舗に集団で就職しに来たのです。義務教育しか受けていない当時の農村の中卒者は、家庭の所得が低く、高等学校への進学は難しく、かといって地域にはよい就職先もない。

そこで、高度成長で潤っていた東京や大都市の企業へ就職し、経済的にも自立させようという親や学校の意向もあって、彼らは都会にやってきたのです。このような「広域化」は、日本においても海外においても、社会が不安定なときに起こる現象です。

ちなみに当時は、東北にいたら東北弁こそ自分の言語で、江戸弁は英語のようにわからない言語でもあったと思います。彼らは地域で農業をするよりはいいかもしれないという、不安の入り交じった期待を込めて、東京という広い世界に飛び出したのです。

世界に飛び出して豊かになってほしい

その後、日本は技術力を高めて豊かになりました。そしてバブル期がやってきます。この時期には、若者は今自分がいる場所から外に出ようとはしませんでした。日本は希望に満ちていたから、何も好き好んで外国に行って苦労することはない。日本の企業に入りさえすれば安泰だったのです。

しかし、バブルもはじけ、今は親の世代と同じ水準の豊かさを持てるかというと難しいでしょう。初任給は頭打ち、どこかに活路を見出そうとする気持ちを持てば、世界に飛び出すことにつながります。それがグローバル化を進めているのです。

今、日本の経済状況は下降線をたどっています。ずっと日本にいれば豊かでいられるかというとそうではない。ならば、広い世界に飛び出し、世界を舞台に仕事をしなければ豊かさが得られない。それが、現在のグローバル化の背景ではないでしょうか。

さらに、2020年春からは新型コロナウイルスが経済を壊滅状態にし、日本という国の先行きを大いに乱しています。言葉も通じない広い世界に飛び出していくには、覚悟がいります。しかし、すばらしい未来を生き抜くために、今こそグローバルな若者を目指すべきだと考えます。

若者たちには、積極的に世界に飛び出してチャンスをつかんでほしいと思います。日本の労働生産性は低いですから、優秀なお子さんこそ、海外でバリバリ働き、富と幸せをつかんでほしい。

自分の足で歩き、生きていくために、自分の要求をしっかりと表現できる人になること。それが、世界というフィールドで活躍するための条件です。

『ハーバード・東大・開成で教えてわかった 「頭のいい子」の親がしている60のこと』(PHP研究所)
東京大学、ハーバード大学、開成学園、そして現在の北鎌倉女子学園、50年近い教員生活の経験と、親としてアメリカでの体験を踏まえ、保護者の方々が子どもとどう関わればよいかを、著者がていねいにアドバイスします。