10歳からの勉強で成績を伸ばすには

高濱正伸

10歳は思春期の入り口。今まで真面目に勉強していた子も、この頃から少し様子が変わってきます。親はどのように向き合えばよいのでしょうか?

※本稿は、高濱正伸著『子育ては、10歳が分かれ目。』(PHP文庫)から一部を抜粋し、編集したものです。

高濱正伸(花まる学習会代表)
1959年、熊本県生まれ。東京大学大学院修士課程卒業。93年に、「国語力」「数理的思考力」に加え「野外の体験教室」を指導の柱とする学習教室「花まる学習会」を設立。算数オリンピック問題作成委員・決勝大会総合解説員。

どの子にも怠け癖が出てくる

思春期になると、勉強に対する態度も変わってきます。大まかな傾向としては、男女を問わず怠け癖がついてきます。

小学3年の6月頃から、お母さんたちからの相談の9割が、怠け癖についてのもの。「今までは家に帰ってきたらすぐ宿題にとりかかっていたのに、やらなくなった」「一日に必ず一ページずつ、コツコツ解いていた問題集を、ためてやるようになってしまった」などの相談が続出します。

小3にもなると屁理屈も始まります。「なんで勉強しなくちゃいけないの? 別に将来、働かなくたっていいじゃん」ぐらいのことは平気で言うようになります。親はついムッとしそうになりますが、そういう時期なのだと思うほかありません。

子どもに怠け癖が出てくると、お母さんたちはよく「低学年のときはちゃんとやっていたのに」と嘆きます。しかし、今までは単に子どもだましが効いていただけという場合がほとんどです。

勉強したページの数、表にシールを貼って喜んでいるのは、せいぜい低学年まで。小3以降は、あとで書くような、別のモチベーションが必要になってきます。

怠け癖を最小限に食い止めるには、低学年のうちに勉強を習慣化させておくことが肝心です。決して「今日はやらなくてもいいよ」という特例を作ってはいけません。宿題は有無を言わさずやらせるぐらいの厳しさで接してください。

「そんなにやりたくないなら、やらなくてもいいよ。困るのは自分だからね」などと言い渡し、結果的にやらないことを一度でも許してしまうと、一度が二度、二度が三度になって、ついには習慣化することにもなりかねません。「困るのは自分だからね」が言葉通りに本人に響くのは、小6以降と思ってください。

怠け癖の中でも一つだけ、救いのある怠けがあります。それは、好きな教科だけ夢中になってやり、ほかはやらないというもの。そういう子は、概してものすごい集中力を持っています。

もちろんほかの教科もやるよう導く必要はありますが、むしろ将来が楽しみな子どもたちだと言えるでしょう。

小5からは復習と「誠実さ」で学力アップ

子どものイメージ力や集中力など学力のベースが作られるのは小3までだと私は考えています。しかし、小5ぐらいから成績をグンと伸ばすことは可能です。

なぜかと言うと、小5ぐらいから、復習ができるようになるからです。怠け癖がつきそうになる小3からの危機を乗り越えれば、勉強の仕方しだいで小5から成績を伸ばし、憧れの中学校の受験合格を目指すことも十分可能でしょう。

復習のポイントは、わからなかった問題を、わからないままにしないことです。

お勧めは、「復習ノート」です。「復習ノート」とは、その問題の内容と、正解、できなかった理由、その問題から自分は何を学んだかという教訓、以上の四項目を、ノートに整理しておくというものです。

ノートに書いて終わりにするのではなく、一日後、一週間後、一か月後というふうに時間をおいて、また繰り返し、同じ問題を解いてみます。これを習慣にしていれば、どんな教科も完全に理解しながら前に進んでいけますし、成績は確実に伸びていきます。

ところで、学力を伸ばしていく上で私がとても大事だと思っていることの一つに、「誠実な人柄」があります。つまり、わからないのにわかったふりをしない。「嫌い」や「苦手」という言葉に逃げない。

苦手なら人一倍がんばる。そういうまっすぐでひたむきな人柄です。「人柄が学力に関係があるの?」と不思議に思うかもしれませんが、自分をだまさない誠実さは、学力にも大きな差を生み出すのです。

わからないのにわかったふりをしてしまうのは、特に女の子に多い傾向があるのですが、私の高校時代の同級生に、「わかりません、先生」と堂々と言える女子がいました。授業の流れを何度でも止め、「先生、まだわかりません」と、とことん食い下がるのです。

「またあいつだ」「なんでそんなことがわからないの?」と、ほかの生徒たちが失笑しているのを気にする様子もなし。彼女にとって、わからないことをそのままにするのは、何とも気持ちの悪いことだったのでしょう。

そういう子は結果的に強いのです。彼女は医学部に進み、今は医師として活躍しています。

わからないときに「わかりません」とまっすぐに言える子どもを育てるには、親の接し方がとても大切です。幼い頃から、「わからないと言っても、あなたはダメじゃないよ。

そんなあなたでも愛されるよ」という根本的な安心感、自己肯定感を与えておくこと。それが後に学力を伸ばしていくための大事な要件となります。

ところが多くのお母さんが、この点、非常に苦手なのではないでしょうか。「わからなくても大丈夫、失敗しても大丈夫よ」という大らかな態度で接することができません。

それどころか、「なんでこんな簡単なことがわからないの?」「昨日やったばかりじゃない!」などと、どこまでも追いつめてしまいます。

「わからない」と言えたことは、ほめてやらなくてはならないくらい勇気のいることなのに、「もう、開き直って!」と腹を立ててしまう。これでは子どもが勉強を本当にいやになってしまいますから、くれぐれも注意してください。