中学受験に落ちた…その後の子どもをつぶさない「親の行動」

高濱正伸

本番に向けて追い込みをかける秋、中学受験は熱を帯びていく。合格を目指してひたむきに勉強する我が子には、ぜひ受かって欲しい。ただ、ここで注意したいのは、受からなかったからと言って失敗ではない、ということだ。

「落ちても成功」の受験がある。その真意を、『つぶさない子育て』を上梓した高濱正伸氏はこう説明する。

※本記事は、高濱正伸著『つぶさない子育て』(PHP研究所)より、一部を抜粋編集したものです

高濱正伸(花まる学習会代表)
1959年、熊本県生まれ。東京大学大学院修士課程卒業。93年に、「国語力」「数理的思考力」に加え「野外の体験教室」を指導の柱とする学習教室「花まる学習会」を設立。算数オリンピック問題作成委員・決勝大会総合解説員。

中学受験の本当のメリット

小学2〜3年生になると、「中学受験」を意識し始めるお母さん、お父さんもいらっしゃることでしょう。

以前、
「周囲の親の意見に流されて、なんとなくで中学受験をしてはいけない」
「親がブランド欲しさに中学受験をさせてはいけない」
というお話をしました。

ですが、私は中学受験を完全に否定しているわけではありません。中学校入学に向けての勉強、難関校に通うことには、様々なメリットがあります。1つは難関大学に入りやすくなることです。

私立の中高一貫校では、高校2年時までに国の学習指導要領で示された学習内容をすべて終わらせ、高校3年時では通常授業で大学受験対策を行います。受験対策がほぼ予備校や塾だけに限られる公立高校の学生と比べれば、かなり有利です。もちろん、大学の付属校ならエスカレーターで大学に入ることも狙えます。

また、他校との競争に勝ち抜かなければならないので、面倒見が良いのも特徴です。とくにイジメが起きた時の対処は公立中学・高校より手厚い傾向があります。加えて、公立中学校と比べると、不良の生徒がいる確率が低いので、友達の影響で悪い方向に染まるという心配も減ります。

ただ、私はそういった目先のことよりも、最大のメリットは、我が子の人間的成長だと思います。ご存じの通り、中学受験は過酷です。逃げ場のない状況の中で、まだ小さな子どもたちが戦っている。そこでの経験は、後の人生にも活きる素晴らしいものだと思います。

自分を律すること、一生モノの勉強法、緊張しても実力を発揮する精神力…それをわずか12歳足らずの子どもたちが、受験を通じて身につけるのです。ここで培われた能力は、間違いなく財産となるでしょう。「大人になってからも、中学受験で身につけた時の知識に支えられています」という人もいるほどです。

「落ちても成功」の受験がある

一番成長するのは、何といっても結果を受け入れる時です。これは、大人でさえできない人が多い。受かれば問題ありませんが、落ちれば自分の存在を否定されたように感じます。

それでも、結果は結果です。結果を受け入れたうえで、今後どうするのか。競争によって、間違いなく人間的に鍛えられます。その意味で不合格という負の局面は成長のチャンスなのです。では、我が子が中学受験に落ちた時、お母さん、お父さんはどうすべきでしょう。

まずは、お母さん、お父さんが頭を切り替えることです。中学受験の合格がゴールではありません。あくまでも、幸せな大人になるための通過点なのです。このように、お母さん、お父さんの意識を変えることが大切でしょう。

そして「今回は結果が出なかったけど、すごく頑張ったし、確実に力はついてるよ!チャンスはまだあるから、また頑張ろうね」と、次を見据えるよう我が子に声をかけてあげましょう。その時、「物語を添えてあげる」ことも忘れないでください。

「〇〇ちゃんのお兄ちゃんも中学受験で第一志望は落ちちゃったけれど、大学受験は頑張って目指したところに通えてるよ」。このように、具体的なモデルを提示してあげることで、子どもは結果を受け入れやすくなります。

身近な例がなければ、有名人の挫折体験でも構いません。挫折を乗り越えたエピソードで、我が子が立ち直るきっかけを与えられれば十分です。不合格は、今後のバネにできる。そのことを、お母さん、お父さんが理解していれば、不合格=受験失敗とはならないのです。

受験しても競争に飲まれない

ところが、我が子の不合格を親が引きずって、子どもの自己肯定感を打ち砕く親がいます。「もう落ちたら終わり」「トップには永遠に行けない」と洗脳されてしまっているのですね。

勝手に我が子を「かわいそうな子」にする親が、コンプレックスを植えつけていく。そうなると、本当に受験は失敗に終わってしまいます。

一方「合格でも失敗」というケースもあります。ギリギリで難関私立中学に合格したが、自分よりも優秀な同級生たちを目の当たりにしてやる気を失い、勉強しなくなってしまった。中学・高校での「あと伸び」も振るわず、思うような道に進めないので、人生の長い目で見れば、「あの中学受験は失敗だった」となってしまうのです。

某トップ私立高校から、東大に進学できず、有名私立大学に行ったある人は、「俺、どうせ東大に行けなかった」を口ぐせにしていました。狭い視野で自分を小さく捉えてしまっています。ちなみに、その私立大学は私の出身地の熊本の田舎町から進学すれば、パレードするほど称賛される大学です。

さて、失敗や敗北をどう捉えるのか。そこには、奥深い哲学があるのではないでしょうか。私は「失敗にこだわっている自分がいるだけ」だと考えています。失敗しても、自分と関係なく世界は回っています。

「Today is the first day of the rest of your life.」という言葉があります。アメリカの薬物中毒者救済機関「Synanon(シナノン)」を設立したチャールズ・ディードリッヒの言葉です。

今日という日は、残りの人生の最初の日である。つまり、過去を振り返らないで、これからのことを前向きに考えよう、という意味です。つらいことがあって悩むことがあっても、「今日が最初の日」だから「また、新しく人生をスタートできる」と思えば、また仕切り直しができます。

1回失敗したけれど、ここからどう楽しもうか考える力を、私は「ゲーム設定力」と呼んでいます。勝っても負けても、またリセットして新しいゲームを楽しもう、という意味です。

つぶさない子育て(PHP研究所)
良かれと思ってやってしまう子育てで、我が子を「つぶさない」!教育熱心な親にこそ読んでほしい、子育て不安を解消できる処方箋。


高濱正伸さん