「聴く」ことは信頼感につながる~子どもの心を整えるお母さんの「聴き方」
「消しゴムの場面」で考えてみましょう。お母さんが夕食の準備などでとても忙しいときです。小学生のお子さんがボソッと「今日、僕の机の上に消しゴムが置いてあった」と話しかけてきました。あなたが親だったら、その話をどんなふうに聞きますか?
※本記事は、園田雅代著『子どもの心を整える お母さんの「聴き方」』(PHP研究所)より、一部を抜粋編集したものです。
園田雅代(創価大学教育学部教授)
大学にて臨床心理学の教鞭をとる傍ら、臨床心理士として多くの親子・教師のカウンセリングにもあたる。著書に、『自分の気持ちがきちんと言える38の話し方』(監修・編著、合同出版)などがある。
子どもの話を「聴く」ための4つのステップ
この消しゴムの話は、ある小学校での実話をもとにしたものです。その小学校のあるクラスで、一人の子を順番にみんなで無視をするといういじめがはびこりました。そして、「次、お前を無視する」という合図が、その子の机の上に消しゴムを置くというものだったのです。
「これから、お前は子のクラスにいないことと同じ。『消す』からね」という合図が、消しゴムをその子の机の上に置くということだったのです。この場面で、子どもの話を「聴く」としたら、次のようなステップで聴いていくといいでしょう。
【ステップ1】
まずお母さんが子どものほうを見て、子どもの表情や様子を確かめる。
【ステップ2】
「『消しゴムが机の上に置いてあった』ってどういうこと?」
「何の話なのかな?」などと応じる。
【ステップ3】
もし、どうしても手が離せないようなときには、
「今、お母さん、火を使っていて手が離せないから、待っていて」
「あとで聴くから話してね」などと、次につながるような言葉かけをする。
【ステップ4】
「はい、さっきの話の続きを聴かせて。消しゴムって何のこと?」
などと、お母さんから話を持ち出してたずねる。
お母さんには、「子どもの話を理解しようと思いながら『聴く』なんて、悠長なことはやっていられない。忙しいのに」というときも、実際にあります。その場合は、「あとで聴くから、待っていて」「あとで聴かせてね」といったひと言が、子どもを支える大きな働きをしてくれます。
子どもにしてみれば、自分の話をお母さんがちゃんと聴こうとしてくれていること、そして、その姿勢をお母さんがわかりやすく自分に見せてくれることが、お母さんへの信頼感につながるからです。
「お母さんに話したいときは話そう。だってお母さんは、いつだつて話を聴いて(聴こうとして)くれるから」という子どもの安心感のよりどころになるのです。
整理すると、お母さんが子どもの話を「聴こう」とすることには、
・子どもがお母さんへの信頼感をもちやすくなる
・子どものコミュニケーションカ(話したり聴いたりするカ)が育ちやすい
という、大きな2つのメリットがあります。
けれども、こう述べることで、「お母さん、責任重大ですよ!」「子どもの育ちは、すべてお母さんの責任です」などと、お母さんにばかり無用なプレッシャーをかけたいわけではありません。
お父さんやおじいちゃん、おばあちゃん、学校や習い事の先生など、子どもを取り巻くどんな大人にも、子どもの話を「聴こう」としていただきたいのは基本的に同じです。
でも、そのなかでも特にお母さんが、子どもの話を「わかろう、理解しよう」と思いながら「聴こう」としていただければと思うのです。
何と言っても、子どもにとってかかわりがもっとも密で、もっとも影響力が大きいのはお母さんです。お母さんが「聴こう」とすることで、先の2つのメリットが確実に伸びやすくなるのではないかと思います。さらに、この2つのメリットは、
・お母さんへの信頼感は、人間そのものへの基本的な信頼感につながり、 「人間っていいな」 「人間ってあたたかいよね」といった意識を、子どもがもちやすくなる。
・子どものコミュニケーションカは、子どもが自分で友だち関係などを築いたり、またそれを大切に育てたりする。
など、人聞関係を形成する力の育ちを促していくことでしょう。
子どもの心を整える お母さんの「聴き方」(PHP研究所)
子どもの話をよく聴くことは、心の成長に不可欠です。言葉の裏側に隠された子どもの気持ちを汲み取り、心を穏やかに整えるための「聴き方」を紹介します。